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zoom RSS 【読み解き】監基報540「会計上の見積りの監査」(その2)

<<   作成日時 : 2017/10/07 09:40   >>

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 今回から、会計上の見積りの監査を実施するプロセスの読み解きに踏み込んでいきます。

リスク評価手続
 監査人は、企業および企業環境(内部統制を含む。)を理解するためのリスク評価手続とこれに関連する活動を実施する際に「会計上の見積りに関する重要な虚偽表示リスクを識別し評価する基礎を得るために、以下の事項について理解しなければならない」(7項)としています。
 (1) 会計上の見積りに関連した財務報告の枠組みの要求事項(関連する開示を含む。)
 (2) 経営者が会計上の見積りを必要とする取引、事象と状況を把握する方法
 (3) 経営者が会計上の見積りを行う方法とその基礎データの理解
 
 この規定は、監査人がリスク評価手続とこれに関連する活動を実施するに際して、(1)から(3)について理解することによって、会計上の見積りに関係する重要な虚偽表示のリスクを識別、評価するための基礎(根拠)が得られるということです。(1)から(3)の記述そのものについては特に説明は必要ないと思います。これらに関連した適用指針についてこの後すぐに読み解きますが、その前に、7項の規定を理解するための前提となる事項についてみておきます。
 リスク評価手続等を実施すると、「企業にどのような性質と類型の会計上の見積りがあるかについて、監査人は想定することができる」(A11項)としています。この「会計上の見積りの性質と類型」(the nature and type of accounting estimates)は、前回において述べた、会計上の見積りの形態と種類のことです。A11項の趣旨は、会計上の見積りに関してリスク評価手続を実施して理解していくなかで、計上されている会計上の見積りおよび計上が必要となる会計上の見積りの有無に関する情報・知見が入手できるということです。
 また、「監査人は、会計上の見積りに関する重要な虚偽表示リスクを識別し評価するため、及びリスク対応手続の種類、時期及び範囲を計画するために、会計上の見積りの性質及び類型を十分に理解したかどうかを考慮する」(同上) としています。しかし、最後の「会計上の見積りの性質及び類型を十分に理解したかどうかを考慮する」ことが理解できません。そのためISA 540をみると、「監査人の最も重要な検討(the auditor’s primary consideration)は、会計上の見積りに関係する重要な虚偽表示のリスクを識別、評価するために、また、実施するリスク対応手続の時期と範囲を計画するためにすでに入手している理解が十分かどうかである」(ISA540 A12項)です。つまり、会計上の見積りに関する重要な虚偽表示のリスクの識別・評価およびリスク対応手続の策定・立案のためには、会計上の見積りについて十分に理解することが必要であるということです。このことは「考慮する」(検討する)という監査人の行為ではなく、留意事項を示しているだけです。なお、ISAには「会計上の見積りの性質及び類型」は表記されていません。監基報では理解すべき対象を明示するために追記されていると解します。

財務報告の枠組みの要求事項についての理解
 監査人がリスク評価手続の実施に際して理解しなければならない「会計上の見積りに関連して適用される財務報告の枠組みにおいて要求される事項(関連する開示を含む。)」(7項(1))について、「監査人は、適用される財務報告の枠組みにおいて要求される事項を理解し、例えば、以下の点をどのように規定しているかを理解する」(A12項)としています。
 ・ 会計上の見積りを認識する一定の状況や測定方法を規定しているかどうか。
 ・ 公正価値での測定を容認または要求する一定の条件を明記しているかどうか。
 ・ 要求または容認されている開示を明記しているかどうか。

 適用指針の「要求事項を理解し、どのように規定しているかを理解する」という記述は、「理解して理解する」こととなり、記述の内容を全く理解できません。そのため、ISAを参照すると、「適用される財務報告の枠組みの要求事項を理解することは、例えば、当該要求事項が以下の点を規定または明確にしているかどうかを決定する際に監査人を支援する」(ISA540 A13項)です。以下の点(三つの事項)について判断するための基礎として、財務報告の枠組み(GAAP)について理解しておくことが必要であるという当然のことを求めているだけです。その理解する事項が「以下の点」です。
 また、「上記の理解に基づき、監査人は、会計上の見積りに関連して要求される事項についてどのように適用したかを経営者と討議したり、経営者が適切に適用しているかどうかを判断することができる」(A12項)としているように、財務報告の枠組みの要求事項に係る理解に基づいて、経営者が計上している会計上の見積りに関して討議し、その適用の妥当性を判断することになります。
 この他、 A12項の最後の文節からA14項まで適用される財務報告の枠組みに関する記述がされていますが、監査に関連していないため読み解きは省略します。

経営者が会計上の見積りを必要とする取引、事象と状況を把握する方法
 監査人が理解しなければならない、「経営者が、財務諸表において認識または開示するために、会計上の見積りが必要となる取引、事象及び状況を把握する方法」(7項(2))という要求事項に関連して、経営者は会計上の見積りの必要性が生じているかどうか、必要な会計上の見積りのすべてが会計処理、開示されているどうかを判断する必要がある(A15項参照)としていますが、この規定は経営者に対する規定であり、経営者は適用される財務報告の枠組みに準拠して会計上の見積りを計上することが求められていることから、まったく監査に関連していないため不要と考えます。
 また、経営者が会計上の見積りを必要とする取引、事象や状況を把握するために基づく事項として経営者の知識や経験を列挙して(A16項参照)、「上記の場合、監査人は、主に経営者への質問を通じて、経営者が会計上の見積りの必要性を把握するための方法を理解することになる」(A16項)としていますが、この「上記の場合」はISAを参照しても”in such cases”なので何を指しているかよく分かりません。
 つらつら考えてみるに、この「上記の場合」は、文脈上、列挙されている経営者の知識や経験を指していると理解することが自然なように思います。そして、列挙されている事項は、リスク評価手続の一環として当該理解を行う際の留意事項と解します。そうだとすると、次のように理解することができます。
 「経営者が会計上の見積りの必要性を把握する方法を監査人が質問によって理解するに際して、以下の点に留意する。
 ・ 企業の事業や属する産業に関する経営者の知識
 ・ 当年度における企業の事業戦略の実行に関する経営者の知識
 ・ 該当する場合、過年度の財務諸表の作成により蓄積された経営者の経験」

 さらに監基報は続けて、「この他、企業内にリスク管理機能を担う部門が存在するなど、リスク管理に係る経営者のプロセスがより組織化されている場合には、監査人は、経営者が会計上の見積りを生じさせる状況を定期的に検討し、必要に応じて会計上の見積りの見直しを行うために実施している方法や実務慣行を対象にリスク評価手続を実施することがある」(A16項)としています。この記述も十分に理解できません。ISAを参照すると、「その他の場合において、経営者の利用するプロセス(management’s process)がより構造化されている場合、例えば、経営者が正式なリスク・マネジメント機能を有しているとき、監査人は、会計上の見積りを生じさせる状況を定期的にレビューし、必要に応じて会計上の見積りを再見積りする(re-estimating)ために経営者が準拠する方法や実務(the methods and practices)に対してリスク評価手続を実施することがある」(ISA540 A17項)ということです。
 監基報の分かりづらさは、「リスク管理機能を担う部門」や「リスク管理に係る経営者のプロセスがより組織化されている」ことについて理解の相違があるからと思います。財務諸表の作成に関する責任を有する経営者トップのみでなく、CFOや経理責任者が企業のリスク評価のプロセスに事業上のリスク(ビジネス・リスク)を対象としたリスク・マネジメントの仕組みを利用して会計上の見積りを検討している場合に、監査人は、当該仕組みと会計上の見積りの検討について理解するためにリスク評価手続を実施することがあるという留意事項を示しているだけと解します。
 なお、「会計上の見積りの網羅性(特に、負債に関する会計上の見積りの網羅性)は、監査人の重要な検討事項となる」(A16項)と、さらりと結構重要な留意事項が記述されています。なぜなら、監査人は、負債の網羅性に係る有効な監査手続・手法を有していないからです。

新たな会計上の見積りの必要性等に関する質問
 監査人は、「経営者が、財務諸表において認識または開示するために、会計上の見積りが必要となる取引、事象及び状況を把握する方法」(7項(2))を理解しなければならないという要求事項には、「これらを理解するために、監査人は、新たな会計上の見積りの必要性又は既存の会計上の見積りに関する修正が必要となる状況の変化について、経営者に質問を行わなければならない」(同上)ことが付記されています。この付記されている要求事項は、経営者が会計上の見積りの必要性を把握する方法について監査人がリスク評価手続の一環として質問によって理解していく(A16項参照)なかで、新たな会計上の見積りの必要性の発生や既存の見積りに修正が必要となる状況の変化があるかどうかを経営者への質問で確かめることです。
 しかし、この付記されている要求事項の「これらを理解するために」が何を指しているのか十分理解できません。そのため、ISAを参照すると、”in obtaining this understanding” (ISA540 8項(b))なので、「この理解に際して」とでもなります。ISAは理解する対象が単数ですが、監基報は「これら」と複数にしています。この違いはどこから生じるのかとともに何を指すかを読み解くことが必要となります。
 ISAでは理解する対象は「経営者が会計上の見積りが必要となる取引、事象及び状況を把握する方法」です。言い換えると、「どのように経営者が取引、事象や状況を識別しているか(how management identifies those transactions, events and conditions)」を理解することと解します。これに対して監基報は、識別する方法ではなく、経営者の識別の対象である取引、事象や状況を理解する対象と捉えていると解します。そうであれば、監基報はISAと異なった意味合いとなります。したがって、監基報は、理解の対象が識別(把握)方法であることを明確にするためには、「この把握する方法を理解するために」とでもすべきと考えます。
 また、要求事項に関連して、監査人が新たな会計上の見積りの必要性についてまたは既存の会計上の見積りに関する修正が必要となる状況の変化(会計上の見積りに関連する状況の変化)について経営者に質問する事項の例示を以下のように記述しています(A18項参照)。
 ・ 会計上の見積りが必要となる可能性のある新しい種類の取引を開始したかどうか。
 ・ 会計上の見積りを必要としていた取引条件に変更があったかどうか。
 ・ 適用される財務報告の枠組み等の改正により、会計上の見積りに関する会計方針が変更になったかどうか。
 ・ 会計上の見積りに関する修正や、新たに会計上の見積りを行うことが要求される可能性のある規制等の経営者の影響が及ばない事項に変更があったかどうか。
 ・ 新たな会計上の見積りや、会計上の見積りに関する修正が必要となる可能性のある新しい状況または事象が発生したかどうか。

 会計上の見積りに関連する状況の変化に係る四番目の例示以外には追加の説明は必要ないと思います。四番目の例示は、「経営者が影響を及ぼすことのできない規制等の変更が会計上の見積りに関連する状況の変化に影響することがある。このような経営者が影響を及ぼすことのできない事項の変更があったかどうか。」ということです。
 このように、監査人は会計上の見積りに関連した経営者への質問や協議によって、どのように経営者が会計上の見積りを必要とする取引、事象および状況を識別するかを理解したうえで、必要な会計上の見積りを行っているかどうか、そして、企業環境の変化または新規の取引や取引条件の変更などによって新たに会計上の見積りを行うまたはすでに行っている会計上の見積りを変更する必要があるかどうか、また、その必要がある場合には会計方針の変更が必要であるかどうかなどを判断することが必要です。
 ところで、監査人はリスク評価手続の一貫として経営者への質問(協議)によって会計上の見積りの必要性やその変更の要否について理解するとされていますが、実際には、リスク評価手続を実施する監査実施の初期段階では確定的な回答は得られないことが多いと思います。そのため、リスク対応手続(運用評価手続または実証手続)の実施に際しても経営者・経理責任者に質問(協議)します。その質問や協議に際して、監査人は、見積りの方針・方法を変更すべき環境・状況の変化の有無とそれに対する経営者の対応に留意が必要です。
 監基報540のリスク評価手続に関連する規定は、初度監査において実施するリスク評価手続が想定されていると解します。継続監査の場合、通常、リスク評価手続の実施に際して、過年度の監査から得ている知識・知見をベースに企業内外の環境の変化に伴い会計上の見積りに関連する追加・変更の必要性を中心に検討し、重要な変更がある場合などに初年度監査と同様に詳細に理解することが必要です。
 監基報は、継続監査におけるリスク評価手続について、経営者の偏向に関連した記述として、「継続監査において、過年度の監査の過程で経営者の偏向が存在する兆候が識別されている場合には、当年度の監査計画の策定、リスクの識別及び評価に影響を与えることになる」(A9項)としているだけです。当年度においても経営者の偏向(バイアス)が識別されているときには見積りの不確実性が高まり、当年度の重要な虚偽表示のリスクの識別・評価に影響を及ぼすため、監査計画の策定にも影響を及ぼします。そのため、過年度に監査において識別されていた経営者の偏向(バイアス)が当年度の監査においても識別されるかどうかを検討することが必要です。

監査人が識別した会計上の見積りの必要性
 新たな会計上の見積りの必要性または会計上の見積りに関連する状況に変化がある場合など、「監査人は、監査の過程で、経営者が把握できなかった会計上の見積りが必要となる取引、事象及び状況を発見することがある。監査基準委員会報告書315は、監査人が、企業のリスク評価プロセスに係る重要な不備があるかどうかの評価を含め、経営者が識別していない重要な虚偽表示リスクを識別した場合の指針を提供している」(A19項)として、監基報315 15項を参照しています。しかし、前半部分と後半の参照部分の関連性が十分理解できません。そのため、迂遠ですが長文の監基報315 15項をみておきます。
 監基報315 15項は、「監査人は、企業のリスク評価プロセスが設けられている場合には、これを理解し、その結果を入手しなければならない。/監査人は、経営者が識別していない重要な虚偽表示リスクを識別した場合には、企業のリスク評価プロセスにおいて本来識別されなければならないリスクが存在するかどうかを評価しなければならない。/本来識別されなければならないリスクが存在する場合には、監査人はなぜ企業のリスク評価プロセスが識別できなかったかどうかを理解し、その状況に照らして適切であるかどうかを評価、又は企業のリスク評価プロセスに関する内部統制の重要な不備かどうかを判断しなければならない」としています。
 この規定は会計上の見積りに全く関連していません。本来、企業のリスク評価プロセスで識別されなければならない重要な虚偽表示のリスクを監査人が識別した場合の対応を規定しています。したがって、経営者が識別していなかった会計上の見積りの必要性を監査人が識別した場合の対応を監基報315 15項に準じて行うことを求めているだけです。
 また、「経営者が会計上の見積りが必要となる取引、事象及び状況を把握する方法」は、前述のとおり、「どのように経営者が取引、事象や状況を識別しているか」ということであり、それは経営者の識別の対象である取引、事象や状況を理解する対象のことです。
 したがって、監査人は、このように監査の実施中に経営者が識別していない会計上の見積りを必要とする取引、事象および状況を識別する場合もあるため、リスク評価手続としてのみでなく、監査実施中常に会計上の見積りを新たにまたは変更を必要とする取引・事象の存否およびそれによる会計上の見積りの要否に留意が必要です。

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