「その他の情報」に関する監査報告書での取り扱いについての検討(その9)

今回も前回に引き続き、2012年11月14日に国際監査・保証基準審議会(IAASB)が公表した公開草案ISA 720「監査済み財務諸表とそれに対する監査報告書を収容している文書または添付する文書におけるその他の情報に関連する監査人の責任(The Auditor’s Responsibilities Relating to Other Information in Document Containing or Accompanying Audited Financial Statements and the Auditor’s Repot Thereon)」(以下「公開草案」という。)において提案されている、監査人が監査報告書において財務諸表以外の文書において記載されている「その他の情報」に重要な不整合があるかどうかについての新たな取り扱いについて検討する。

監査報告書における取り扱いの文例
公開草案は、監査人が監査報告書日前にその他の情報を入手した場合、監査人の報告書に以下の要素から成る記載(statement)を含めなければならない(16項)としている。
(a) その他の情報に関する監査人の責任に係る見解
(b) 監査人が財務諸表監査の一部として一読し検討したその他の情報を含めている特定の文書に関する識別
(c) 入手したその他の情報の一読と検討に基づいて、監査人がその他の情報に重要な不整合を識別しているかどうかに対応した見解、そして識別した場合には、重要な不整合について記述した記載
(d) 監査人がその他の情報を監査またはレビューしていないこと、それゆえにその他の情報に対して監査意見またはレビューの結論を表明していないという記載

これらの要素を織り込んだ、監査人がその他の情報に重要な不整合を識別していないときの監査人の報告書の文例(A57項)は、次のとおりである。

当監査事務所は、監査の実施中に理解した企業及び企業環境に照らして、[その他の情報を含んでいる文書の特定、例えば、20x1年12月31日に終了する事業年度のアニュアル・レポート](以下「その他の情報」という。)を監査の一部として一読し検討して、その他の情報に重要な不整合を識別したかどうかを報告する責任を有している。当監査事務所は、その他の情報に重要な不整合を識別していない。しかし、当監査事務所は、当該その他の情報に対して監査又はレビューを行っていないため、その他の情報に対して監査意見又はレビューの結論を表明していない。

重要な不整合を識別していないときの監査報告書の文例は、文書自体を「その他の情報」と位置付けている。特定されているのは、文書に記載されている「その他の情報」でなく、「文書」そのものである。そのため、「文書」全体に重要な不整合を識別していないこととともに、当該文書に「その他の情報」の該当しない情報が記載されているときにはそれを含めて重要な不整合はないと報告していることになる。

このように「文書=その他の情報」とすることは、その他の情報とは収納文書または添付文書に含まれる(included) 財務情報および非財務情報である(A15項)という定義に合致しているのであろうか。そのようには解されない。ここにきて、公開草案における論理が破綻しているように見える。これまで十分理解できないと指摘し、利用者に誤解を与えると批判してきた問題点が集約されていると言えそうである。

それにもかかわらず、好意的に理解すると、「文書に含まれている情報」は「文書に記述されている情報」であり、その他の情報が多くの財務情報のような過去情報のみでなく将来情報を含み、さらに非財務情報(定性的な記述)も含んでいる。また、文書に「その他の情報」ではない情報が含まれているときにはそれらの情報も検討対象に含まれるため、重要な不整合があるかどうかの検討は、定義に合致した、文書に記述されている「その他の情報」のそれぞれについて重要な不整合を識別しているかどうかではなく、文書全体が重要な不整合であるかどうかを検討することと解される。そうであれば、公開草案は、首尾一貫した記述を行っていることになる。しかし、そうであれば、「その他の情報」ではなく、収容文書または添付文書に係る取り扱いを規定すべきであろう。

ところで、「その他の情報に対して監査意見又はレビューの結論を表明していない」との記述をもって、監査人はなんらの保証を提供するものではないと主張しているのであろうが、監査人が「監査の一部として一読し検討」した結果を報告しているため、保証を提供しないことを利用者は理解できないであろう。

また、このような留保条件の記述があっても、その他の情報に係る記載が例文のような「文書」を明示しているだけの短い記述が監査報告書に記載されていることをもって利用者は、その他の情報(文書に記載されているすべての情報)に重要な不整合がない(つまり、全く誤りがない)と理解してしまう可能性を否定できないと思われる。

したがって、公開草案のような誤解を誘導してしまう方法で監査人が「その他の情報」へ関与することには賛成しがたい。

一方、上記の要素を織り込んだ、監査人がその他の情報に重要な不整合を識別したときの監査人の報告書の文例(A58項) は、次のとおりである。

当監査事務所は、監査の実施中に理解した企業及び企業環境に照らして、[その他の情報を含んでいる文書の特定、例えば、20x1年12月31日に終了する事業年度のアニュアル・レポート](以下「その他の情報」という。)を監査の一部として一読し検討して、その他の情報に重要な不整合を識別したかどうかを報告する責任を有している。当監査事務所は、[重要な不整合の記述]に関連して、その他の情報に重要な不整合を識別している。しかし、当監査事務所は、当該その他の情報に対して監査又はレビューを行っていないため、その他の情報に対して監査意見又はレビューの結論を表明していない。

重要な不整合を識別しているときの監査報告書の文例は、識別した重要な不整合のあることを利用者が理解しても、それを除いた文書(=その他の情報)の記述については整合していると理解されてしまい、重要な不整合を識別していないときの文例と同じ問題を抱えこんだままである。

指摘した問題を解消する手立ての一つが、その他の情報に係る監査人の関与は、保証業務あるいは合意手続として監査業務から切り離して実施させ、その業務に整合した保証提供とすることであろう。

監査報告書日に利用可能でないその他の情報に関する取り扱い
16項(b)の「監査人が財務諸表監査の一部として一読し検討したその他の情報を含めている特定の文書に関する識別」に関連して、IAASBは、たとえその他の情報が監査報告書日に利用可能でなくとも、事後的に利用可能になるのであれば、そのことが監査人の当該情報を一読し検討する責任がないことを意味しないため、その他の情報が公開草案の文書の範囲内である限り責任がある。しかし、その他の情報が監査報告書日に利用可能でないため、監査人は、監査報告書においてその他の情報を識別できないであろう(p.15)としている。

そのため、その他の情報が監査報告書日に利用可能でないという事実は、当該その他の情報が事後的に利用可能となり、公開草案の規定する文書に記載されるのであれば、監査の途中で入手した企業および企業環境に関する監査人の理解に照らしてその他の情報を一読し検討する監査人の必要性を妨げるものではない。しかし、その他の情報が監査報告書日に利用可能でないため、その他の情報を監査報告書において識別できないし、また、法令で認められていなければ、その他の情報に言及するために監査報告書を更新または再発行することはできない(A59項)としている。

しかし、監査報告書日において利用可能でないその他の情報に、重要な不整合があるかないかの検討結果を監査報告書に記載することは、実務上では通常ないであろうと解される。このことについては、既に「その他の情報の入手」において検討済みであるため、ここでは繰り返さない。

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