ISAの提案する「監査報告書に記載する重要な監査事項」について(その6 最終回)

前回に引き続き、公開草案ISA701「独立監査人報告書における重要な監査事項に関するコミュニケーション(Communicating Key Audit Matters in the Independent Auditor’s Report)」(新設)に規定されている「重要な監査事項(Key Audit Matters)」について紹介し、必要に応じて疑問や私見を述べていくが、今回が最終回である。

重要な監査事項はないと決定できる状況
公開草案ISA 701は、監査人が重要な監査事項はないと決定した場合、監査人は次のようにしなければならない(13項)としている。
・ 当該結論について品質管理レビューアと協議しなければならない。
・ 当該結論についてガバナンスを担う人々に伝達しなければならない。
・ 監査報告書において、監査報告書の重要な監査事項のセクションが、監査人の職業専門家としての判断によって、財務諸表の監査において最も重大性を有していたため報告すべき事項と決定したとガバナンスを担う人々に伝達した事項を記述することが意図されていることを説明しなければならない。

公開草案ISA 701は、非常に限定された状況を除き、上場企業の財務諸表の監査人がガバナンスを担う人々とコミュニケーションを行った事項のなかから少なくとも一つも重要な監査事項を決定しないことがまれであると想定されており、13項の監査人の実施事項は、監査人による重要な監査事項がないとの決定を監査人に再評価させる原因となる切っ掛け(input)を提供するために、監査中に生じる重大な事項に精通している人々への機会の提供である(A47項) としている。

このように上場企業の監査においては、重要な監査事項がないと決定することは例外中の例外であると位置づけられている。しかもA47項において突如として「上場企業」に関する規制として記述されている。非上場企業の監査の場合には、重要な監査事項がないと決定する頻度は高くとも良いということなのであろうか。十分理解できない。公開草案ISA 701の適用範囲に関して、上場企業以外の企業にまで適用させるかどうかがまだ確定的でないことが影響しているのであろう(EM 54-55参照)。

また、品質管理レビューア(監査業務の審査担当者)との協議やガバナンスを担う人々とのコミュニケーションによって、監査人の重要な監査事項がないとの判断が覆されることが想定されているとすら解される。十分な協議やコミュニケーションが不可欠であるが、監査人の判断が最優先されなければならないと解する立場からは当該規定について十分に理解できない。

公開草案ISA 701における、監査人が重要な監査事項はないと決定した場合の監査報告書の記載の例文は次のとおりである(A48項)。
 重要な監査事項
 監査報告書の本セクションは、当監査法人の職業専門家としての判断によって、財務諸表の監査において最も重大性を有していたと、〔ガバナンスを担う人々〕に伝達したなから選択した事項を記述することが意図されている。〔意見限定の根拠セクションに記述されている事項および継続企業セクションに記述されている重要な不確実性を除き、〕当監査法人は報告すべき事項はないと判断した。

監査調書
公開草案ISA 701は、「監査人は、ISA 230に準拠して、重要な監査事項として伝達される(will)事項、およびその決定に至る際に実施された重大な職業専門家として判断について監査調書を作成しなければならない。これには、可能な場合には、監査報告書において伝達されるべき重要な監査事項はないという監査人の判断に関する論理的根拠が含まれる」(14項)としている。

しかし、この要求事項は、ガバナンスを担う人々とコミュニケーションを行ったその他の事項のそれぞれが重要な監査事項でないと決定した理由を説明するよう監査調書の作成を求めるものではない(EM67)とされていることに留意が必要である。

重要な監査事項であると決定された事項に関する職業専門家としての判断は、監査中に生じた重大な事項に係るいくつかの監査調書(例えば、監査完了メモランダム)だけでなく、監査人のガバナンスを担う人々とのコミュニケーションに係る文書(監査調書)および個々の重要な監査事項に関係する監査調書によって裏付けられると見込まれる。重要な監査事項を決定する際に行われた重大な職業専門家としての判断に係る監査調書がこの監査調書になる(draw upon)。その監査調書もガバナンスを担う人々とコミュニケーションを行ったその他の事項が重要な監査事項でないとの兆候を提供することがある(A49項)。


次回から、アメリカの公開会社会計監視審議会(Public Company Accounting Oversight Board; PCAOB)が2013年8月13日に公表した公開草案「監査人が無限定適正意見を表明するときの財務諸表監査に対する監査報告書」(The Auditor’s Report on an Audit of Financial statements When the Auditor Expresses an Unqualified Opinion)、および「監査済み財務諸表および関連する監査報告書を含んでいる文書におけるその他の情報に関する監査人の責任」(The Auditor’s Responsibilities Regarding Other Information in Certain Documents Containing Audited Financial Statements and the Related Auditor’s Report)という二つの監査報告書に係る新監査基準の改定案のうち、公開草案ISA 701と対応して監査報告書に「重要な監査事項(critical audit matters)」を記載することを提案している、公開草案「監査人が無限定適正意見を表明するときの財務諸表監査に対する監査報告書」について紹介し、必要に応じて疑問や私見を述べていく。

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