PCAOB「その他の情報に対する監査報告書における対応」について(その1)

2013年8月13日にアメリカの公開会社会計監視審議会(Public Company Accounting Oversight Board; PCAOB)は、「監査人が無限定適正意見を表明するときの財務諸表監査に対する監査報告書」(The Auditor’s Report on an Audit of Financial statements When the Auditor Expresses an Unqualified Opinion)、および「監査済み財務諸表および関連する監査報告書を含んでいる文書におけるその他の情報に関する監査人の責任」(The Auditor’s Responsibilities Regarding Other Information in Certain Documents Containing Audited Financial Statements and the Related Auditor’s Report)という二つの監査報告書に係る新監査基準の改定案を公表した。

このうち「監査人が無限定適正意見を表明するときの財務諸表監査に対する監査報告書」については、監査報告書における監査上の重要な事項の記載に関して本ブログにおいて昨年末にすでに検討した。

「監査済み財務諸表および関連する監査報告書を含んでいる文書におけるその他の情報に関する監査人の責任」(以下「公開草案」という。)は、現行基準AU sec.550「監査済み財務諸表を含む文書におけるその他の情報」に代わる基準書であり、すでに本ブログでも検討したIFACのIAASBが公表している公開草案と同様に、監査済み財務諸表とそれに対する監査報告書を含む文書(例えば、年次報告書)におけるその他の情報(財務諸表とその監査報告書以外の情報)について監査人がコメントをすることを求めて監査報告書の記述を抜本的に改めることを意図している。

この公開草案についてリリースメモ(RM)に基づいて紹介し、必要に応じて私見を付す。ただし、紹介に際しては、提案されている公開草案の内容が、コンセプト・リリースにおける提案から大きく変更されているが、その変更内容については検討しない。また、ここではIAASB公開草案との比較検討は行わない。

PCAOBのこれまでの活動
ここ3年間にわたってPCAOBは、投資家、監査人、財務諸表作成者およびその他の関係者に対して監査報告書をより情報を提供するための改善内容を一層理解するために広範囲な活動を行ってきた(RM p.9)。

2010年10月から2011年3月までPCAOBのスタッフは、投資家、財務諸表作成者、監査人、監査員会メンバー、その他の当局や基準設定母体および研究者代表と会合をもち、議論を行ってきた。その結果を2011年3月22日開催のPCAOBの公開会議に報告し、PCAOBは、監査報告書の変更が監査報告書の情報価値(informational value)を改善し、監査報告書モデルの適合性を高めることになると結論した。また、同時期のIAG(投資家アドバイザリー・グループ(Investor Advisory Group))の会議において、最近の金融危機の発生以前または発生中に監査報告書が拡大されていたならば、会社の財務諸表の評価および潜在的な問題に関する早期警戒シグナルを提供することが役立った状況の例として金融危機が言及されていた(RM p.9)。

2011年6月21日にPCAOBは、「監査済み財務諸表に対する報告書に関係するPCAOB監査基準の改定および関連するPCAOB監査基準の修正に関するコンセプト・リリース」(Concept Release on Possible Revisions to PCAOB Standards Related to Reports on Audited Financial Statements and Related Amendments to PCAOB Standards)(以下「コンセプト・リリース」という。)を公表して、コメントを募集した(RM p.9-10)。

コンセプト・リリースは、「その他の情報」に関連して、次のような代替的方法(the alternatives)を提案した(RM p.10)。
・ 「監査人の議論と分析」(an auditor’s discussion and analysis; AD&A)として記載された補足的な記述式報告書
・ 強調パラグラフの利用の強制(required)と拡大
・ 財務諸表外のその他の情報に対する監査人の保証
・ 標準監査報告書の明瞭化

上記の代替的方法のうち強調パラグラフの利用の強制と拡大は、主として、監査の実施に基づいた重要な監査事項などの情報を監査報告書に記載することが提案され、標準監査報告書の明瞭化は監査報告書の用語(例えば、「合理的保証」)や記述文章の改善の要否についてのコメント募集であった。「監査人の議論と分析」とその他の情報に対する監査人の保証が、その他の情報に関連していた。しかし、PCAOBは公開草案の公表に際してこれらの代替的方法のいずれも棄却した(RM p.22)。

コンセプト・リリースに対するコメントのうち、その他の情報に関連する部分は、コンセプト・リリースの代替的方法の一つが財務諸表外のその他の情報に対して監査人の保証を求めていたことに対して、財務諸表外のその他の情報に関する監査人の責任のレベルに関して確かではないとのコメントであり、その一部は、財務諸表および関連する監査報告書も含む文書に含まれているその他の情報に関する監査人の責任の範囲について投資家および財務諸表利用者に知らせるように、財務諸表外の情報に関連した現行の監査人の責任を記載する監査報告書を変更することを支持していた。多くのコメントは、PCAOBが財務諸表外のその他の情報に関する監査人の責任に係る記載に加えて、監査人の実施した作業の結論を監査報告書に含めるよう監査人に求めることを検討することを提案していた(RM p.12)。

改正の趣旨
公開草案は、財務諸表および関連する監査報告書を含んでいる文書に含まれている財務諸表外のその他の情報に関する監査人の責任についての情報を入手したいという投資家の利害(investors’ interests)に対応する。PCAOBは、現行のその他の情報に関する監査人の責任を検討した結果、その他の情報に関する監査基準を監査報告書の記述を裏付けるために更新することが適切であると決定した。公開草案は、監査人の実施する手続を改善し、その他の情報に関する監査人の責任を強化する(enhance)こと、ひいては投資家の利害を擁護することが意図されている。

公開草案が求めている手続は、その他の情報と会社の監査済み財務諸表との重要な不整合(material inconsistencies)に関する識別、および監査の実施中に入手した適合する証拠と到達した結論に基づいて、事実に係る重要な虚偽表示(material misstatements of fact)に関する識別に監査人の注意を集中させる(RM p.7)。監査人のその他の情報に関する評価および会社経営者とのいかなる潜在的な重要な不整合または事実に係る重要な虚偽表示のコミュニケーションの結果として、公開草案は、その他の情報と監査済み財務諸表との整合性を促進でき、それによって投資家およびその他の財務諸表利用者が利用可能な情報の量と質を高めることができる(RM p.7-8)。

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