PCAOB「その他の情報に対する監査報告書における対応」について(その2)

今回は、前回に引き続き、アメリカの公開会社会計監視審議会(Public Company Accounting Oversight Board; PCAOB)が2013年8月13日に公表した、「「監査済み財務諸表および関連する監査報告書を含んでいる文書におけるその他の情報に関する監査人の責任」(The Auditor’s Responsibilities Regarding Other Information in Certain Documents Containing Audited Financial Statements and the Related Auditor’s Report) (以下「公開草案」という。)についてリリースメモ(RM)に基づいて紹介し、必要に応じて私見を付す。

その他の情報についての定義とその範囲
公開草案は「その他の情報」について定義を行っていないが、その他の情報は、1934年有価証券取引法の下でSECに提出され、監査済み財務報告書および関連する監査報告書を含んでいる会社の年次報告書(a company’s annual report)における監査済み財務報告書および関連する監査報告書以外の情報(1項)をいい、それゆえ「その他の情報」は、財務諸表および関連する監査報告書も含んでいる、証券取引法の下でSECに提出されている会社の年次報告書における情報を指しており(RM p.7)、さらに具体的には、例えば、提出書類がForm 10-Kの場合、主要な財務データ(Selected Financial Data)、経営者の議論と分析(MD&A)、提出書類(exhibits)およびリファレンスによって結合されたある種の情報(certain information incorporated by reference)から成る(include) (RM p.10)とされている。

年次報告書のその他の情報には、(1) 監査報告書発行以前に監査人が利用可能な情報で、年次報告書にリファレンスによって統合されている情報、および(2) Form 10-Kの場合、事業年度末日後120日以内に提出された会社の最終議決権代理行使勧誘書(the company’s definitive proxy statement)からのリファレンスによって統合された情報も含まれる(1項注)。

また、既に発行した監査済み財務諸表および関連した監査報告書を含む会社の修正された年次報告書に含まれているその他の情報については以下の2項~7項、10項と11項の規定が適用され、会社の修正された年次報告書に(1) 既に発行した監査済み財務諸表の金額や開示に対する改定および(2)関連する監査報告書が含まれているときは、すべての規定の適用がある(1項注脚注4)。

監査報告書発行後に提出された決権代理行使勧誘書からのリファレンスによってForm 10-Kの年次報告書に統合されたその他の情報については以下の2項~7項、10項と11項の規定が適用される(1項注脚注5)。

ただし、補足情報や統合監査における財務報告に係る内部統制に対する経営者の主張を含まない(1項脚注3)。

その他の情報の範囲について我が国の金商法の開示制度に引き直せば、有価証券報告書における査済み財務報告書および関連する監査報告書以外の情報である。会社法の計算書類の体系では事業報告書が該当することになろうか。

公開草案における監査人の目的
公開草案における監査人の目的は、以下のように規定されている(2項)。
a. その他の情報が(1)監査済み財務諸表における金額や情報あるいは表示方法との不整合(重要な不整合)、(2)事実に係る重要な虚偽表示、または(3)それらの両方を含んでいるかどうかを評価すること、およびそれらを含んでいると評価した場合、適切に対応すること
b. 監査報告書の発行に際して、その他の情報に関する監査人の責任、および監査中に入手した適合する監査証拠と到達した結論に基づいて、その他の情報が重要な不整合、事実に係る重要な虚偽表示またはその両者を含んでいるかどうかを、監査報告書において伝達すること

現行基準の下では、監査人は、その他の情報が財務諸表上の情報と重要な不整合があるかどうかを検討し、重要な不整合があると結論した場合、それに対応するためのいくつかの手続が提供されており、重要な不整合に関するその他の情報を一読することによって、事実に係る重要な虚偽表示に気付いたときには、経営者と協議を行い、監査人の判断によってその他の手続を実施する(RM p.20)。

監査人の目的からも明らかのように、公開草案は、その他の情報に重要な不整合または事実に係る重要な虚偽表示があるかどうかを評価することを監査人の責任とし、その責任を遂行するために一定の監査手続の実施を強制している。このように、その他の情報への監査人の対応は著しく変更されていることに注意が必要である。

これは、監査報告書に重要な監査事項とその他の情報に関する記載を行うことによって、財務諸表利用者が、(1)その他の情報に関する監査人の責任とその範囲、(2)監査人がどのその他の情報を評価するかの明瞭化、および(3)監査人によるその他の情報の評価結果に関する記述のような有益な情報を入手することができるようになる(RM p.20)からである。

その他の情報の評価
監査人は、以下の4項に規定する手続を実施することによって、その他の情報が(1)監査済み財務諸表における金額や情報あるいは表示方法との不整合(重要な不整合)、(2)事実に係る重要な虚偽表示、または(3)それらの両方を含んでいるかどうかを評価しなければならない(3項)。

監査人は、その他の情報を一読して、監査中に入手した適合した監査証拠と到達した結論に基づいて、以下を評価しなければならない(4項)。
a. 財務諸表上の金額と同一かまたはより詳細にすることを意図しているその他の情報の金額およびそれらの表示方法と、財務諸表上の金額および関連する監査証拠との整合性
b. 財務諸表上の情報を表示するかまたはより詳細にすることを意図しているその他の情報における質的記載(any qualitative statement)およびその表示方法と、財務諸表および関連する監査証拠との整合性
c. 監査中に入手した適合した監査証拠と到達した結論との比較によって、財務諸表に直接関係していないその他の情報
d. 金額の再計算によって、(1)その他の情報、(2)財務諸表、または(3)関連する監査証拠の金額を用いて計算されたその他の情報の金額

例えば、監査人は、年次報告書に計算式が記述され、計算式が一般に理解されており、計算式への参照なしに再計算が実施できるとき、金額の再計算を行うことがある。加算や割算のような簡単な計算手法によって計算できる、合計や比率のような金額・数値は、通常、計算式の参照なしに再計算することができる(4項注)。

現行の監査基準は監査人がその他の情報に関して「一読し検討する」ことを超えて手続を行うことを求めていないのに対して、公開草案はその他の情報の評価に際して継続して実施する手続を規定して(RM p.20)、求められている監査人の実施する手続の強化は、監査人のその他の情報に関する評価に係る責任と結果について監査報告書における記述に関する特定の根拠(a specific basis)を提供することを意図している(RM p.7)が、4項の評価はこれまで実務で行われていた「検討」と大差ないように思われる。

監査人は、4項の評価に基づいて、重要な不整合の可能性、事実に係る重要な虚偽表示の可能性またはその両方を識別した場合、当該事項を経営者と協議すべきである。また、監査人は、重要な不整合、事実に係る重要な虚偽表示またはその両方が存在するかどうかを決定するため、必要に応じて、監査手続を追加して実施すべきである(5項)。

この5項の規定も、現行基準では必ずしも明確に規定されていなくとも、実務では重要な不整合の可能性等に気付いた場合には、財務報告責任者と協議を行い、必要に応じて監査手続を実施していた。そのため、この規定も明文化という変化はあったとしても、実質的な改正ではないように思われる。

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