監査上の重要性について考える(その4 最終回)
前回に引き続き「監査上の重要性」について考えていく。今回は、未発見の虚偽表示およびそれと監査上の重要性との関係について私見を開陳して最終回としたい。
未発見の虚偽表示
未発見の虚偽表示(undetected misstatements)には、サンプリング手法の誤適用などのサンプリング・リスクまたは監査手続の実施に際しての監査人のヒューマン・エラーなどのノンサンプリング・リスクに起因して発見できない虚偽表示、または監査手続の実施対象でない取引種類、勘定残高や開示あるいは往査対象でない事業所などに存在している虚偽表示(発見していない虚偽表示)が含まれる。
未発見の虚偽表示は、監査終了時における虚偽表示の評価に際して「存在するかもしれない未発見の虚偽表示」(possible undetected misstatements)として分類される。しかし、監査人がその大きさや内容を特定することはできない。そのため、監査人が当該未発見の虚偽表示が大きくないことを判断するにとどまる。
上記のほか、監査サンプリング(統計的試査)により、母集団に関して推定した虚偽表示が許容できる虚偽表示を超えているためサンプリング結果を受容できない場合の推定した虚偽表示や、期待値を利用した分析的実証手続の結果、許容額を超える重要な差異がある。これらの推定した虚偽表示または重要な差異は虚偽表示の顕著な兆候であるため未発見の虚偽表示に該当するが、監査終了時における虚偽表示の評価に際しては、その原因・要因が明らかでありその金額も算出されているため、未修正の虚偽表示として集計される。
ところで、財務諸表に存在するかもしれない虚偽表示は、監査計画の立案に際して監査人が、概算や漠としたものであっても、見積りまたは予想(判断)した虚偽表示の最大金額である。もっとも、それが実際に存在するかどうかの根拠を監査人が有していないため、その大きさや内容を確定できない未発見の虚偽表示である。それが重要な虚偽表示に該当することもあれば、合計しても重要な虚偽表示に満たないこともある。楽観的な監査人は財務諸表に存在するかもしれない虚偽表示を小さめに予想するかもしれない。悲観的な監査人は必要以上に大きく予想するかもしれない。
監査計画の立案時点で予想した財務諸表に存在するかもしれない虚偽表示は、監査終了時点では発見した虚偽表示または存在するかもしれない未発見の虚偽表示に転化する。しかし、監査人は、実際には、発見した虚偽表示と存在するかもしれない未発見の虚偽表示の合計が、財務諸表に存在するかもしれない虚偽表示よりも小さくなっているか、逆に大きくなっているかを知り得ない。監査の結果としてはっきりしていることは発見した虚偽表示だけである。そうであっても、肝要なことは、財務諸表に存在するかもしれない虚偽表示、とくに重要な虚偽表示を監査人は的確に発見できるように監査を計画し実施することであり、監査の終了時における監査全体の範囲の十分性の評価によって、厳密な測定ができないとしても、存在するかもしれない未発見の虚偽表示をどれほど小さくできているかを監査人自身が納得できるように十分な監査を実施することである。
発見した虚偽表示は、修正済み虚偽表示と未修正の虚偽表示から成るが、修正済み虚偽表示は正しい金額に修正されているがゆえに監査意見形成に際しては虚偽表示ではなくなる。したがって、監査終了時点での虚偽表示は、未修正の虚偽表示と存在するかもしれない未発見の虚偽表示とから成る。
未発見の虚偽表示と監査上の重要性の関係
監査計画立案時では、監査人は予測した財務諸表に存在するかもしれない虚偽表示とは別に、ベンチマークと適切な比率を利用して監査上の重要性を算定する。監査上の重要性を超える虚偽表示が重要な虚偽表示である。監査人は財務諸表に重要な虚偽表示がないことを保証するために監査を計画・実施する。そのため、監査人の目指すゴールは次の不等式で示される。
監査上の重要性>識別した未修正の虚偽表示
監査計画の立案に際して、存在するかもしれない虚偽表示が大きければ大きいほど、監査上の対応として、その虚偽表示を実際に発見し修正することによって、存在するかもしれない虚偽表示を許容される程度までに小さくすることが必要となる。このことが、監査の網の目である監査実施上の重要性を小さくすることである。監査実施上の重要性は監査上の重要性よりも小さな金額として算定する。
監査上の重要性>監査実施上の重要性
監査実施上の重要性を監査上の重要性よりも小さくする理由についてISA320は、「個別で重要な虚偽表示を発見するだけのために監査を計画した場合、個別では重要でない虚偽表示の合計が財務諸表の重要な虚偽表示の原因になるという事実を無視することになり、存在するかもしれない未発見の虚偽表示に係る余裕(margin)をなくすことになる〔ため、〕監査実施上の重要性は、財務諸表の未修正の虚偽表示と未発見の虚偽表示の合計が財務諸表全体に対する重要性を超える可能性を適切に低い水準に抑えるために設定する」(A12項、〔〕書き引用者追加)としている。これを不等式で示すと、次のようになる。
監査上の重要性>未修正の虚偽表示+存在するかもしれない未発見の虚偽表示
これらの三つの不等式から、監査実施上の重要性が存在するかもしれない未発見の虚偽表示である。
監査実施上の重要性=存在するかもしれない未発見の虚偽表示
したがって、次の不等式が成立する。
監査上の重要性>未修正の虚偽表示+監査実施上の重要性
上述のことを言い換えると、次のようになる。
監査計画立案時では、監査上の重要性および監査実施上の重要性は、まだ監査を実施していないため未発見の虚偽表示を想定して算定されている。しかし、監査終了時点では、財務諸表に存在するかもしれない虚偽表示は、発見した虚偽表示(修正済みおよび未修正の虚偽表示)と存在するかもしれない未発見の虚偽表示との合計に転化する。しかし、修正済み虚偽表示は修正されたことによって虚偽表示ではなくなるため、その合計から修正済み虚偽表示を控除した虚偽表示は、未修正の虚偽表示と存在するかもしれない未発見の虚偽表示の合計である。このことを不等式で示すと次のようになる。
監査上の重要性>未修正の虚偽表示+存在するかもしれない未発見の虚偽表示(監査実施上の重要性)
未修正の虚偽表示と存在するかもしれない未発見の虚偽表示(監査実施上の重要性)の合計が監査上の重要性より大きければ監査意見の形成に影響する。
要するに、監査実施上の重要性を監査上の重要性よりも小さくする理由は、監査終了時点において、財務諸表の未修正の虚偽表示と未発見の虚偽表示の合計が監査上の重要性を超えないようにある程度の余裕を確保するために、より小さな監査実施上の重要性が必要であるということであり、前述のISA320の説明である。このことは、これまで監査サンプリングに関連する「許容可能な虚偽表示」に関して説明されていた考え方を監査の実施全般に拡大したものと理解でき、発見したかまたは発見すべき虚偽表示の評価に関連付けて重要性を理解している。
しかし、監査実施上の重要性を監査上の重要性よりも小さくする理由は、前述のとおり、小さな虚偽表示も的確に発見できるように小さな「監査の網の目」を設定することにある。小さな監査実施上の重要性とすることによって、重要な虚偽表示とそのリスクの識別・評価が不完全な監査人の見積り・判断によっているため、存在しているかもしれない未発見の虚偽表示にかかる余裕を確保することができることにもなる。
ただし、監査終了時点での存在するかもしれない未発見の虚偽表示が、監査計画立案時に想定した存在するかもしれない未発見の虚偽表示(監査実施上の重要性)と同額か否かは不明である。それにもかかわらず、この監査終了時点での論理を無理矢理監査計画立案時点に引き戻して変化させると、次のようになる。
監査上の重要性-未修正の虚偽表示>監査実施上の重要性
このことは、監査計画立案時において、監査上の重要性から監査終了時に経営者が修正に応じないと想定される虚偽表示(未修正の虚偽表示)を控除した金額を監査実施上の重要性として設定することができることを意味している。
また、監査意見の形成に際して、財務諸表に対して未修正の虚偽表示が重要であるかどうかを評価することが求められている(ISA450 11項)。これは、存在するかもしれない未発見の虚偽表示(監査実施上の重要性)が実際には監査意見の形成に影響を及ぼさないほどに小さいことを監査人が納得していなければならないことを意味していると解される。そして、十分な監査を実施していれば、通常、監査全体の範囲の十分性の評価によって存在するかもしれない未発見の虚偽表示が相当に小さいことに納得できるであろう。
そうであれば、最終的に監査意見を形成する時点では、未修正の虚偽表示と、相当に小さいと評価された存在するかもしれない未発見の虚偽表示(無視しうるほどに小さな未発見の虚偽表示)との合計が、監査上の重要性と比較されるのではなく、財務諸表にとって重要であるかどうかを評価する。この評価が、監査意見の形成に際しての重要性の判断であると考えている。
未発見の虚偽表示
未発見の虚偽表示(undetected misstatements)には、サンプリング手法の誤適用などのサンプリング・リスクまたは監査手続の実施に際しての監査人のヒューマン・エラーなどのノンサンプリング・リスクに起因して発見できない虚偽表示、または監査手続の実施対象でない取引種類、勘定残高や開示あるいは往査対象でない事業所などに存在している虚偽表示(発見していない虚偽表示)が含まれる。
未発見の虚偽表示は、監査終了時における虚偽表示の評価に際して「存在するかもしれない未発見の虚偽表示」(possible undetected misstatements)として分類される。しかし、監査人がその大きさや内容を特定することはできない。そのため、監査人が当該未発見の虚偽表示が大きくないことを判断するにとどまる。
上記のほか、監査サンプリング(統計的試査)により、母集団に関して推定した虚偽表示が許容できる虚偽表示を超えているためサンプリング結果を受容できない場合の推定した虚偽表示や、期待値を利用した分析的実証手続の結果、許容額を超える重要な差異がある。これらの推定した虚偽表示または重要な差異は虚偽表示の顕著な兆候であるため未発見の虚偽表示に該当するが、監査終了時における虚偽表示の評価に際しては、その原因・要因が明らかでありその金額も算出されているため、未修正の虚偽表示として集計される。
ところで、財務諸表に存在するかもしれない虚偽表示は、監査計画の立案に際して監査人が、概算や漠としたものであっても、見積りまたは予想(判断)した虚偽表示の最大金額である。もっとも、それが実際に存在するかどうかの根拠を監査人が有していないため、その大きさや内容を確定できない未発見の虚偽表示である。それが重要な虚偽表示に該当することもあれば、合計しても重要な虚偽表示に満たないこともある。楽観的な監査人は財務諸表に存在するかもしれない虚偽表示を小さめに予想するかもしれない。悲観的な監査人は必要以上に大きく予想するかもしれない。
監査計画の立案時点で予想した財務諸表に存在するかもしれない虚偽表示は、監査終了時点では発見した虚偽表示または存在するかもしれない未発見の虚偽表示に転化する。しかし、監査人は、実際には、発見した虚偽表示と存在するかもしれない未発見の虚偽表示の合計が、財務諸表に存在するかもしれない虚偽表示よりも小さくなっているか、逆に大きくなっているかを知り得ない。監査の結果としてはっきりしていることは発見した虚偽表示だけである。そうであっても、肝要なことは、財務諸表に存在するかもしれない虚偽表示、とくに重要な虚偽表示を監査人は的確に発見できるように監査を計画し実施することであり、監査の終了時における監査全体の範囲の十分性の評価によって、厳密な測定ができないとしても、存在するかもしれない未発見の虚偽表示をどれほど小さくできているかを監査人自身が納得できるように十分な監査を実施することである。
発見した虚偽表示は、修正済み虚偽表示と未修正の虚偽表示から成るが、修正済み虚偽表示は正しい金額に修正されているがゆえに監査意見形成に際しては虚偽表示ではなくなる。したがって、監査終了時点での虚偽表示は、未修正の虚偽表示と存在するかもしれない未発見の虚偽表示とから成る。
未発見の虚偽表示と監査上の重要性の関係
監査計画立案時では、監査人は予測した財務諸表に存在するかもしれない虚偽表示とは別に、ベンチマークと適切な比率を利用して監査上の重要性を算定する。監査上の重要性を超える虚偽表示が重要な虚偽表示である。監査人は財務諸表に重要な虚偽表示がないことを保証するために監査を計画・実施する。そのため、監査人の目指すゴールは次の不等式で示される。
監査上の重要性>識別した未修正の虚偽表示
監査計画の立案に際して、存在するかもしれない虚偽表示が大きければ大きいほど、監査上の対応として、その虚偽表示を実際に発見し修正することによって、存在するかもしれない虚偽表示を許容される程度までに小さくすることが必要となる。このことが、監査の網の目である監査実施上の重要性を小さくすることである。監査実施上の重要性は監査上の重要性よりも小さな金額として算定する。
監査上の重要性>監査実施上の重要性
監査実施上の重要性を監査上の重要性よりも小さくする理由についてISA320は、「個別で重要な虚偽表示を発見するだけのために監査を計画した場合、個別では重要でない虚偽表示の合計が財務諸表の重要な虚偽表示の原因になるという事実を無視することになり、存在するかもしれない未発見の虚偽表示に係る余裕(margin)をなくすことになる〔ため、〕監査実施上の重要性は、財務諸表の未修正の虚偽表示と未発見の虚偽表示の合計が財務諸表全体に対する重要性を超える可能性を適切に低い水準に抑えるために設定する」(A12項、〔〕書き引用者追加)としている。これを不等式で示すと、次のようになる。
監査上の重要性>未修正の虚偽表示+存在するかもしれない未発見の虚偽表示
これらの三つの不等式から、監査実施上の重要性が存在するかもしれない未発見の虚偽表示である。
監査実施上の重要性=存在するかもしれない未発見の虚偽表示
したがって、次の不等式が成立する。
監査上の重要性>未修正の虚偽表示+監査実施上の重要性
上述のことを言い換えると、次のようになる。
監査計画立案時では、監査上の重要性および監査実施上の重要性は、まだ監査を実施していないため未発見の虚偽表示を想定して算定されている。しかし、監査終了時点では、財務諸表に存在するかもしれない虚偽表示は、発見した虚偽表示(修正済みおよび未修正の虚偽表示)と存在するかもしれない未発見の虚偽表示との合計に転化する。しかし、修正済み虚偽表示は修正されたことによって虚偽表示ではなくなるため、その合計から修正済み虚偽表示を控除した虚偽表示は、未修正の虚偽表示と存在するかもしれない未発見の虚偽表示の合計である。このことを不等式で示すと次のようになる。
監査上の重要性>未修正の虚偽表示+存在するかもしれない未発見の虚偽表示(監査実施上の重要性)
未修正の虚偽表示と存在するかもしれない未発見の虚偽表示(監査実施上の重要性)の合計が監査上の重要性より大きければ監査意見の形成に影響する。
要するに、監査実施上の重要性を監査上の重要性よりも小さくする理由は、監査終了時点において、財務諸表の未修正の虚偽表示と未発見の虚偽表示の合計が監査上の重要性を超えないようにある程度の余裕を確保するために、より小さな監査実施上の重要性が必要であるということであり、前述のISA320の説明である。このことは、これまで監査サンプリングに関連する「許容可能な虚偽表示」に関して説明されていた考え方を監査の実施全般に拡大したものと理解でき、発見したかまたは発見すべき虚偽表示の評価に関連付けて重要性を理解している。
しかし、監査実施上の重要性を監査上の重要性よりも小さくする理由は、前述のとおり、小さな虚偽表示も的確に発見できるように小さな「監査の網の目」を設定することにある。小さな監査実施上の重要性とすることによって、重要な虚偽表示とそのリスクの識別・評価が不完全な監査人の見積り・判断によっているため、存在しているかもしれない未発見の虚偽表示にかかる余裕を確保することができることにもなる。
ただし、監査終了時点での存在するかもしれない未発見の虚偽表示が、監査計画立案時に想定した存在するかもしれない未発見の虚偽表示(監査実施上の重要性)と同額か否かは不明である。それにもかかわらず、この監査終了時点での論理を無理矢理監査計画立案時点に引き戻して変化させると、次のようになる。
監査上の重要性-未修正の虚偽表示>監査実施上の重要性
このことは、監査計画立案時において、監査上の重要性から監査終了時に経営者が修正に応じないと想定される虚偽表示(未修正の虚偽表示)を控除した金額を監査実施上の重要性として設定することができることを意味している。
また、監査意見の形成に際して、財務諸表に対して未修正の虚偽表示が重要であるかどうかを評価することが求められている(ISA450 11項)。これは、存在するかもしれない未発見の虚偽表示(監査実施上の重要性)が実際には監査意見の形成に影響を及ぼさないほどに小さいことを監査人が納得していなければならないことを意味していると解される。そして、十分な監査を実施していれば、通常、監査全体の範囲の十分性の評価によって存在するかもしれない未発見の虚偽表示が相当に小さいことに納得できるであろう。
そうであれば、最終的に監査意見を形成する時点では、未修正の虚偽表示と、相当に小さいと評価された存在するかもしれない未発見の虚偽表示(無視しうるほどに小さな未発見の虚偽表示)との合計が、監査上の重要性と比較されるのではなく、財務諸表にとって重要であるかどうかを評価する。この評価が、監査意見の形成に際しての重要性の判断であると考えている。
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