ISA 701の「重要な監査事項」(KAM)について考える(その4)

 前回に引き続き、2015年1月15日に国際監査・保証基準審議会(International Auditing and Assurance Standards Board; IAASB)が公表した、ISA 701「独立監査人報告書における重要な監査事項に関するコミュニケーション(Communicating Key Audit Matters in the Independent Auditor’s Report)」(新設)(以下「ISA 701」という。)に規定されている「重要な監査事項(Key Audit Matters: KAM)」について検討する。今回は、監査人の重大な注目をひいた領域とそれに関連した検討(勘案)ついてである。

監査人の重大な注目をひいた領域
 前回みたように、KAMを決定するための意思決定のフレームワークの最初のステップとして監査人の重大な注目をひいた事項を決定するが、その決定のために9項に規定されている「監査人の重大な注目をひいた領域」(areas of significant auditor attention)について検討(勘案)しなければならない。
 ISA701は、「監査人の重大な注目をひいた領域は、しばしば、財務諸表における経営者の複雑で重大な判断の領域に関連する。同様に、しばしば、監査人の包括的監査戦略、資源の配分および当該事項に関係する監査作業(audit effort)の範囲に影響する。これらの影響には、例えば、監査業務にシニア・スタッフの関与の範囲、会計や監査の特殊分野に専門知識を有している専門家の関与(当該領域に対応するため監査事務所と契約しているか雇用されているかにかかわらない。)を含む」(A14項)とし、TCWGなどとのコミュニケーションが監査人の重大な注目をひいた領域に関係することがあるとして、次の事項を例示している(A15項参照)。
 ・ 監査実施中に遭遇した重大な困難、例えば、関連当事者取引の価格以外のすべての局面が第三者間取引との取引と等しいことを確かめる監査証拠の入手可能性への限界やグループ監査チームの情報アクセスに係る制限などのグループ監査における制限に関係する潜在的な困難
 ・ 監査の品質を確保するため、業務執行パートナーが求められている困難な事項や異論のある事項(contentious matters)に対する協議・相談。例えば、重大なテクニカルな事項に関して監査事務所内外の人と協議・相談することがある。それが重要な監査事項であることを示していることがある。また、業務執行パートナーは、とりわけ、監査業務中に生じた重大事項について審査担当者(the engagement quality control reviewer)と協議することが求められている。
 監査人の重大な注目をひいた領域という用語は、ISA701ではA14項とA15項において初めて登場している。この領域は、監査人の重大な注目をひいた事項を含む監査領域と解される。「監査人の重大な注目をひいた領域」から「重大な注目をひいた事項」を抽出することになると解される。そうであれば、例示されているような会計処理などに関して経営者の複雑で重大な判断が行われた領域、監査実施に際して重大な困難が伴う領域や難しい会計上・監査上の問題などに関する相談・協議を行った領域や事項が該当することは容易に理解できる。
 監査人の重大な注目をひいた監査領域と密接に関連すると思われる記述がある。それは、「十分かつ適切な監査証拠の入手または財務諸表に対する意見の形成に際して監査人に批判的な検討を求める(pose challenges)事項は、とくに、監査人による重要な監査事項の決定に関連している」(A13項) である。この項の批判的な検討(challenges)が経営者の説明や陳述を鵜呑みにしないという監査証拠の批判的な評価(critical assessment)による職業的懐疑心を発揮することと同義と解される。しかし、この項は、批判的な検討が監査人の重大な注目をひいた監査領域とは関連せずに、直接にKAMの決定に関連していることを規定しているとも解される。ただし、KAMの選択が批判的な検討を行った事項に限られるということではない。つまり、十分かつ適切な監査証拠の入手や監査意見の形成に際して、監査人が経営者の説明や陳述に対する批判的な検討(監査証拠の批判的な評価)が著しく大変または困難な場合が、監査の実施において監査人が遭遇した難しい監査局面に該当するのであれば、そのような監査局面や領域はA14項とA15項に記述されている監査人の重大な注目をひいた領域と同じと解される。
 したがって、A13項、A14項およびA15項に記述されている、批判的な検討を必要とした領域、会計処理などに関して経営者の複雑で重大な判断が行われた領域、監査実施に際して重大な困難が伴う領域あるいは難しい会計上・監査上の問題などに関する相談・協議を行った領域、すなわち監査人の重大な注目をひいた領域が、9項の三つの領域の記述に集約されていると解される。換言すると、監査の実施において監査人が遭遇した難しい監査局面に含まれている重大な注目をひいた事項を選定し、そこから相当に重大な事項を選定して、さらにそのなかからKAMが決定されるということである。

9項の求める検討(勘案)
 監査人の重大な注目をひいた領域の決定に際して9項の求める検討(勘案)の適用指針として、「監査人は、監査計画の立案の段階で監査において監査人の重大な注目をひいた領域になると見込まれる事項(matters that are likely to be areas of significant auditor attention)について予断(a preliminary view)を展開することがあり、結局それが重要な監査事項となるかもしれない」(A16項)とし、監査計画について協議する際に重大な注目をひいた領域になると見込まれる事項に関する予断についてTCWGとのコミュニケーションを行うことがあるが、監査人のKAMの決定は監査を通じて入手した監査の結果または証拠に基づいて重要な監査事項を決定する(A16項参照)としている。
 A16項は、要するに、監査計画の立案の段階で予断によって見込んだ事項が最終的に重要な関事項となるか否かは監査の実施結果に依存することを規定しているだけと解される。そうであれば、KAMの決定に関連するとしても、その決定の適用指針の冒頭のA16項において記載すべきことであろうか。疑問である。なお、監査人が計画理立案に際して「予断(a preliminary view)」(監査人の判断)をもつことを明らかにしていることに注目しておきたい。
 9項と10項の検討(勘案)に関連してISA701は、監査人の重大な注目をひいた事項の決定に際しての9項の「特定の要求されている検討」(specific required considerations)は、財務諸表に開示されている事項としばしばリンクしている、TCWGとのコミュニケーションを行う事項の内容に焦点をあてており、意図した利用者の特定の関心がある財務諸表監査の領域を反映するよう意図されている。しかし、これらの検討が求められているという事実は、それらに関係している事項が常に重要な監査事項であることを意図していない。むしろ、そのような特定の検討に関係する事項が、10項に従って監査における最も重要な事項と決定されている場合だけ重要な監査事項である。検討に相互関係がある(例えば、9項の二番目と三番目に記述されている状況に関係している事項が特別な検討を必要とするリスクとして識別されている一番目の状況のこともある。)ため、TCWGとのコミュニケーションを行う特定の事項に対する検討の一つ以上の適用が、当該事項を重要な監査事項として識別する監査人の見込みを増加させることがある(A17項参照)としている。
 9項が求めている「勘案する」ことが、前回みたように、「明示的に検討する」ことを意味している((BC 26)ため、A17項の特定の検討は9項の勘案と同義である。しかし、A17項は、財務諸表の開示事項とリンクしていて、利用者の特定の関心がある財務諸表監査の領域を反映している事項がTCWGとコミュニケーションを行う事項となり、特定の検討がこのコミュニケーションを行う事項の内容に焦点をあてていることを記述しているが、それは特定の検討の対象を明らかにしているだけである。
 さらにA17項の後段では、監査人の重大な注目をひいた事項のうち10項に従って監査における最も重要な事項と決定することがあり、それがKAMとして選定される可能性が高まるとしている。そのよう事項は、例えば、財務諸表に開示することが要求されていないが、実施した監査に関連している事項を含むことがある。例えば、監査対象年度中に新たなITシステムの導入(または既存のITシステムの大幅な変更)は、とくにそのような変更が監査人の包括的監査戦略に著しい影響を及ぼした場合や特別な検討を必要とするリスクに関連した場合(例えば、収益認識に影響するシステムへの変更)には、監査人の重大な注目をひいた領域かもしれない(A18項参照)としている。
 このように、監査人の重大な注目をひいた領域の決定に際して9項の求める検討(勘案)の適用指針であるA16項、A17項およびA18項は、具体的な検討(勘案)の内容について規定していないと解される。検討(勘案)をどのように実施するかは監査人の判断に一任されているということであろう。
 私見では、明示的な検討は、9項の三つの領域に集約記述されている監査人の重大な注目をひいた領域に含まれている事項が重大な注目をひいた事項となるかどうか、また、監査における相当に重大な事項となるかどうか、さらに、最終的に重要な監査事項(KAM)に該当するかどうかを「ドライバー」として検討することと解する。

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