ISA 701の「重要な監査事項」(KAM)について考える(その11 最終回)

 前回に引き続き、2015年1月15日に国際監査・保証基準審議会(International Auditing and Assurance Standards Board; IAASB)が公表した、ISA 701「独立監査人報告書における重要な監査事項に関するコミュニケーション(Communicating Key Audit Matters in the Independent Auditor’s Report)」(新設)(以下「ISA 701」という。)に規定されている「重要な監査事項(Key Audit Matters: KAM)」の監査報告書における記載についてみていくが、今回が最終回である。今回は、その他の状況における重要な監査事項の区分の様式と内容および文書化についてみていく。

その他の状況における重要な監査事項の区分の様式と内容
 ISA701は、「監査人は、企業と監査に関する事実と状況によるが、コミュニケーションする重要な監査事項がないと決定する場合、またはコミュニケーションする重要な監査事項が15項によって対応される事項だけの場合には、監査報告書に『重要な監査事項』と表題した個別区分にこの影響に関する記述を含めなければならない」(16項)としている。「15項によって対応される場合」とは、前述しているように、限定(不適正)意見の根拠または継続企業の前提に関する重要な不確実性を「重要な監査事項区分」において参照することである。
 この16項の要求事項は次の三つの状況において適用される(A57項)。
(i) 監査人が10項に準拠して重要な監査事項はないと決定する場合(A59項参照)
(ii) 監査人が14項に準拠して重要な監査事項を監査報告書においてコミュニケーションしないと決定し、他には重要な監査事項がない場合
(iii) 重要な監査事項と決定された事項だけが15項に準拠してコミュニケーションを行う場合
 A57項は16項の規定内容を少し詳細に記述しているだけであるため、コメントは不要であろう。
 コミュニケーションする重要な監査事項がない場合の重要な監査事項区分の記載例は次のとおりである(A58項)。

重要な監査事項
(限定(不適正)意見の根拠の区分または継続企業の前提に関する重要な不確実性の区分に記載されている事項を除き、)当監査法人は当監査報告書においてコミュニケーションを行う(その他の)重要な監査事項はないと判断している(determined)。

 重要な監査事項がないと決定する状況について、「この重要な監査事項の決定は、監査人の重大な注目をひいた事項の相対的な大事さについて判断を行うことに関係している。したがって、上場企業の一般目的の完全な一組の財務諸表の監査人がTCWGとコミュニケーションを行った事項から監査報告書においてコミュニケーションを行う重要な監査事項を少なくとも一つを決定しないことは稀なことである。しかし、いくつかの限られた状況(例えば、非常に限定された業務しかしていない上場企業)では、監査人は、必要とされる監査人の重大な注目をひく事項がないことをもって、10項に準拠して重要な監査事項がないと決定することがある」(A59項)として、通常の監査においては重要な監査事項が少なくとも一つは決定されることに留意が必要である。

文書化
 ISA701は、「監査人は、以下の事項を監査調書に含めなければならない」(18項)としている。
(a) 9項に準拠して決定されるように監査人の重大な注目をひいた事項、およびそのそれぞれが10項に準拠して重要な監査事項であるかどうかに関する監査人の決定の理論的根拠
(b) 適用ある場合、監査報告書においてコミュニケーションを行う重要な監査事項がない、または15項によって対応する事項だけがコミュニケーションを行う重要な監査事項であると監査人が決定したことの合理性
(c) 適用ある場合、監査人が重要な監査事項と決定した事項を監査報告書においてコミュニケーションしないと決定したことの理論的根拠
 18項の規定は、重要な監査事項に関連して決定(判断)する際の根拠や結論ならびに決定の理論的根拠を監査調書に記載することを求めている。
 監査調書の作成(記載)に関して、「重要な監査事項の文脈では、職業専門家の判断は、TCWGとコミュニケーションを行った事項から、監査人の重大な注目をひいた事項を決定し、それとともにそれぞれの事項が重要な監査事項であるかどうかを決定することを含む。この点の監査人の判断は、TCWGとの監査人のコミュニケーションに関する監査調書および個々の事項ごとに関連する監査調書(A39項参照)ならびに監査中に生じた重大な事項に関するある種のその他の監査調書(例えば、調書完成メモ)によって裏付けられと見込まれる。しかし、本ISAは、TCWGとコミュニケーションした他の事項が監査人の重大な注目をひいた事項ではなかったことの理由を監査調書に記載することを監査人に求めていない」(A64項)としている。
 A64項の記述は、監査人が監査の実施に際して実施した監査手続や行った判断についてきちんと監査調書を作成していれば、重要な監査事項の決定に関連して特別な監査調書を作成することは必要ないことを明らかにしていると解する。

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