財務諸表監査について考える(その23)
監査上の重要性について考える-1
今回は、「監査計画の策定と監査の実施、監査証拠の評価ならびに意見形成のすべてに関わる監査人の判断の規準」(平成14年改訂監査基準前文 二4)である「監査上の重要性」について考えます。
監査人の予想する虚偽表示
監査人は重要な虚偽表示が財務諸表に存在する場合には的確にそれを発見できるように監査を計画、実施しなければなりません。そのため、監査人は、企業とその環境(内部統制を含む。)を理解することによって得た情報、知見や知識に基づいて、監査計画の策定・立案に際して、監査対象の財務諸表の適正性を歪める虚偽表示がどれほどの虚偽表示かとともに、財務諸表に存在するかもしれない虚偽表示(possible misstatements)について漠としてであっても想定しています。この直観的な財務諸表の適正性を歪める虚偽表示の大きさが監査上の重要性の原型(プロトタイプ)となります。
財務諸表に存在するかもしれない虚偽表示の大きさや内容、その発生要因と発生可能性の程度を予想(判断)することが、重要な虚偽表示のリスク(risks of material misstatements; RMM)の識別、評価の基礎となる「虚偽表示の態様」(what can go wrong)の把握です。
予想した虚偽表示の大きさが大きいほど、発生可能性の程度が高いほど、また不正による虚偽表示の可能性があるほど、予想した重要な虚偽表示を的確に発見できるように実施する監査手続、その実施時期および範囲を決定して監査を厳格に実施することが必要となります。
リスクと重要性の関係
多くの監査テキストでは、監査リスクと監査上の重要性には相関関係があると説明されています。監査リスクを低く抑えるために監査上の重要性を小さくし、逆に監査リスクを高くとも良いときには重要性は大きくとも良いとされています。この趣旨の規定が過去にISAにあり、それをそのまま監査基準委員会報告書として導入されていましたが、この規定は基本的に誤っていました。監査リスクと監査上の重要性はリンクしません。
その誤りは、ISAが参照したUS SASの規定が、今日の用語で説明すれば、重要な虚偽表示のリスクが低いと評価したときは発見リスクの程度を高いと評価する(実施する監査手続を簡略化できる)という相関関係を指していたにもかかわらず、ISAが虚偽表示の発生可能性(リスク)を監査リスクとして導入したことによっています。
ところで、監査人が監査計画の策定・立案に際して予測した財務諸表に存在するかもしれない虚偽表示は、通常、重要な虚偽表示よりも小さな金額ですが、例外的に、重要な虚偽表示に近いまたは超えると予想される場合があります。この場合、重要な虚偽表示に近いまたは超えると予想した虚偽表示を的確に発見できないときには監査の失敗となる可能性が高まります。そのため、監査人は、重要な虚偽表示のリスクを高め(それにより発見リスクを低く評価し)て、より厳格な監査の実施が必要と判断することが通例です。なお、重要な虚偽表示の「重要性」は、重要な虚偽表示のリスクについて考える際に述べたように、監査上の重要性よりも相当に小さな重要性です。
より厳格な監査を実施する一環として、監査上の重要性(または監査実施上の重要性)をより小さくし、監査範囲を拡大して対応することを計画することが多いと思われます。しかし、このような監査上の対応がとられるからといって、これらのリスクと監査上の重要性の間に相関関係があるとはいえないと考えます。
たしかに、監査人は重要な虚偽表示のリスクの程度に応じて実施する監査手続、その実施時期および範囲を決定する際に、監査上の重要性をより小さくした方が監査を厳格に行うことができると判断することがあります。しかし、重要な虚偽表示のリスクの識別・評価と、監査上の重要性の算定はそれぞれ独自に行うのであり、重要性の大きさはリスクとの相関関係によって決まるものではありません。それでも、前述したように、監査上の重要性の算定が重要な虚偽表示のリスクの識別・評価に影響を受けることは否定できません。
監査上の重要性
監査上の重要性(audit materiality)は、企業とその環境(内部統制を含む。)を理解することによって得た情報、知見や知識とともに、監査のすべての局面における監査人の判断の基礎(枠組み)となります。このことを平成14年改定監査基準前文は「監査人の判断の規準」と言っています。つまり、監査人の判断の分水嶺が監査上の重要性です。
監査上の重要性は、監査計画の立案に際して、財務諸表の全体に対する重要性として監査人の判断によって「特定の金額」が設定(算定)されます。監査上の重要性をどのような大きさの金額として算定するかは、監査計画の立案に際して、どの程度の厳格さで監査を実施するかの想定によって影響されます。このような監査上の重要性の機能に着目して「計画上の重要性」(planning materiality)とも呼ばれています。
監査計画の策定・立案に際して監査人が想定する虚偽表示は、単独の大きな虚偽表示のこともありますが、多くの場合、いくつもの小さな虚偽表示が集計されて重要と判断される虚偽表示です。それゆえに、個々の虚偽表示の大きさは結構小さいにもかかわらず、合計すると重要と判断される虚偽表示を監査人は発見することが求められています。ただし、すべての僅少な虚偽表示の発見までは求められていません。
監査実施のすべての局面における監査人の判断の基礎(枠組み)となる、監査上の重要性(計画上の重要性)の算定は、ベンチマーク(水準基標)として監査対象の財務諸表から選択した主要な項目(資産総額、純資産額、税引前当期純利益、経常利益、売上高など)に一定の比率を乗じて算出したいくつかの金額を参考にして監査人の判断によって決定します。例えば、上場企業の場合、財務諸表の利用である投資者の関心が利益にあることが通常であるため、当年度の予想または見積りに基づく税引前当期純利益に5%から10%までの間の一定割合を乗じて算定した金額を参考に、財務諸表に存在するかもしれない虚偽表示の予想額なども勘案して、算定した金額が大きすぎないかまたは小さすぎないかを検討するなどして監査人の判断によって決定します。
監査上の重要性の算定は、機械的な算定によってではなく、監査人の判断によって決定することが不可欠です。通常、直観的な財務諸表の適正性を歪める虚偽表示の漠とした金額よりも相当に小さな金額です。これは厳格な監査を実施するためまたは監査人が保守的に決定するからと解されます。
なお、監査上の重要性は、前回述べたように、発見した虚偽表示の評価に際しての重要性とは異なっており、監査計画や監査手続の立案に際して参照される重要性(計画上の重要性)に留まることに留意が必要です。
次回は、監査を実施する際に利用する、「監査実施上の重要性」、「許容可能な虚偽表示」および「許容金額」について考えます。
今回は、「監査計画の策定と監査の実施、監査証拠の評価ならびに意見形成のすべてに関わる監査人の判断の規準」(平成14年改訂監査基準前文 二4)である「監査上の重要性」について考えます。
監査人の予想する虚偽表示
監査人は重要な虚偽表示が財務諸表に存在する場合には的確にそれを発見できるように監査を計画、実施しなければなりません。そのため、監査人は、企業とその環境(内部統制を含む。)を理解することによって得た情報、知見や知識に基づいて、監査計画の策定・立案に際して、監査対象の財務諸表の適正性を歪める虚偽表示がどれほどの虚偽表示かとともに、財務諸表に存在するかもしれない虚偽表示(possible misstatements)について漠としてであっても想定しています。この直観的な財務諸表の適正性を歪める虚偽表示の大きさが監査上の重要性の原型(プロトタイプ)となります。
財務諸表に存在するかもしれない虚偽表示の大きさや内容、その発生要因と発生可能性の程度を予想(判断)することが、重要な虚偽表示のリスク(risks of material misstatements; RMM)の識別、評価の基礎となる「虚偽表示の態様」(what can go wrong)の把握です。
予想した虚偽表示の大きさが大きいほど、発生可能性の程度が高いほど、また不正による虚偽表示の可能性があるほど、予想した重要な虚偽表示を的確に発見できるように実施する監査手続、その実施時期および範囲を決定して監査を厳格に実施することが必要となります。
リスクと重要性の関係
多くの監査テキストでは、監査リスクと監査上の重要性には相関関係があると説明されています。監査リスクを低く抑えるために監査上の重要性を小さくし、逆に監査リスクを高くとも良いときには重要性は大きくとも良いとされています。この趣旨の規定が過去にISAにあり、それをそのまま監査基準委員会報告書として導入されていましたが、この規定は基本的に誤っていました。監査リスクと監査上の重要性はリンクしません。
その誤りは、ISAが参照したUS SASの規定が、今日の用語で説明すれば、重要な虚偽表示のリスクが低いと評価したときは発見リスクの程度を高いと評価する(実施する監査手続を簡略化できる)という相関関係を指していたにもかかわらず、ISAが虚偽表示の発生可能性(リスク)を監査リスクとして導入したことによっています。
ところで、監査人が監査計画の策定・立案に際して予測した財務諸表に存在するかもしれない虚偽表示は、通常、重要な虚偽表示よりも小さな金額ですが、例外的に、重要な虚偽表示に近いまたは超えると予想される場合があります。この場合、重要な虚偽表示に近いまたは超えると予想した虚偽表示を的確に発見できないときには監査の失敗となる可能性が高まります。そのため、監査人は、重要な虚偽表示のリスクを高め(それにより発見リスクを低く評価し)て、より厳格な監査の実施が必要と判断することが通例です。なお、重要な虚偽表示の「重要性」は、重要な虚偽表示のリスクについて考える際に述べたように、監査上の重要性よりも相当に小さな重要性です。
より厳格な監査を実施する一環として、監査上の重要性(または監査実施上の重要性)をより小さくし、監査範囲を拡大して対応することを計画することが多いと思われます。しかし、このような監査上の対応がとられるからといって、これらのリスクと監査上の重要性の間に相関関係があるとはいえないと考えます。
たしかに、監査人は重要な虚偽表示のリスクの程度に応じて実施する監査手続、その実施時期および範囲を決定する際に、監査上の重要性をより小さくした方が監査を厳格に行うことができると判断することがあります。しかし、重要な虚偽表示のリスクの識別・評価と、監査上の重要性の算定はそれぞれ独自に行うのであり、重要性の大きさはリスクとの相関関係によって決まるものではありません。それでも、前述したように、監査上の重要性の算定が重要な虚偽表示のリスクの識別・評価に影響を受けることは否定できません。
監査上の重要性
監査上の重要性(audit materiality)は、企業とその環境(内部統制を含む。)を理解することによって得た情報、知見や知識とともに、監査のすべての局面における監査人の判断の基礎(枠組み)となります。このことを平成14年改定監査基準前文は「監査人の判断の規準」と言っています。つまり、監査人の判断の分水嶺が監査上の重要性です。
監査上の重要性は、監査計画の立案に際して、財務諸表の全体に対する重要性として監査人の判断によって「特定の金額」が設定(算定)されます。監査上の重要性をどのような大きさの金額として算定するかは、監査計画の立案に際して、どの程度の厳格さで監査を実施するかの想定によって影響されます。このような監査上の重要性の機能に着目して「計画上の重要性」(planning materiality)とも呼ばれています。
監査計画の策定・立案に際して監査人が想定する虚偽表示は、単独の大きな虚偽表示のこともありますが、多くの場合、いくつもの小さな虚偽表示が集計されて重要と判断される虚偽表示です。それゆえに、個々の虚偽表示の大きさは結構小さいにもかかわらず、合計すると重要と判断される虚偽表示を監査人は発見することが求められています。ただし、すべての僅少な虚偽表示の発見までは求められていません。
監査実施のすべての局面における監査人の判断の基礎(枠組み)となる、監査上の重要性(計画上の重要性)の算定は、ベンチマーク(水準基標)として監査対象の財務諸表から選択した主要な項目(資産総額、純資産額、税引前当期純利益、経常利益、売上高など)に一定の比率を乗じて算出したいくつかの金額を参考にして監査人の判断によって決定します。例えば、上場企業の場合、財務諸表の利用である投資者の関心が利益にあることが通常であるため、当年度の予想または見積りに基づく税引前当期純利益に5%から10%までの間の一定割合を乗じて算定した金額を参考に、財務諸表に存在するかもしれない虚偽表示の予想額なども勘案して、算定した金額が大きすぎないかまたは小さすぎないかを検討するなどして監査人の判断によって決定します。
監査上の重要性の算定は、機械的な算定によってではなく、監査人の判断によって決定することが不可欠です。通常、直観的な財務諸表の適正性を歪める虚偽表示の漠とした金額よりも相当に小さな金額です。これは厳格な監査を実施するためまたは監査人が保守的に決定するからと解されます。
なお、監査上の重要性は、前回述べたように、発見した虚偽表示の評価に際しての重要性とは異なっており、監査計画や監査手続の立案に際して参照される重要性(計画上の重要性)に留まることに留意が必要です。
次回は、監査を実施する際に利用する、「監査実施上の重要性」、「許容可能な虚偽表示」および「許容金額」について考えます。
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