財務諸表監査について考える(その39)
実証手続の検証の方向性
今回は、監査実務における重要な論点の一つである実証手続の検証の方向性(direction)について、Douglas R. Carmichael, John J. Willingham & Carol A. Schaller著“AUDITING CONCEPTS AND METHOD A Guide to Current Theory and Practice”(監査の概念と方法 現在の理論と実務への指針)(Sixth Edition, 1996, Irwin/McGraw-Hill)「第7章 取引および残高に係る詳細テストの計画」の「監査テストの効率性」を参考にして考えます。
検証の方向性
検証の方向性(the direction of testing)は、単に過大計上または過小計上を指していることもありますが、ここでは虚偽表示が会計記録の過大計上または過小計上として表われるため、そのいずれかに焦点を絞って虚偽表示が実際に存在しているかどうかを実証手続による検証のアプローチを立案するための考え方のことです。
実証手続の選定に際して、監査人は存在するかもしれないと予想した虚偽表示に関連するアサーションを決定することが必要です。例えば、資産残高の過大計上に係る虚偽表示は「記録されている資産が存在していない」(架空資産)です。この虚偽表示が実際に記録されていれば、その会計記録は過大計上となっています。この虚偽表示に関連するアサーションは、勘定残高に係るアサーション「実在性:資産が実際に存在する」です。また、資産の過小計上に係る虚偽表示は「記録すべき資産が記録されていない」(未計上)となり、関連するアサーションは「網羅性:記録すべき資産がすべて記録されている」です。
このように監査人は、虚偽表示の影響が過大計上かまたは過小計上かを見定め、関連するアサーションを決定して、それを立証または反証することのできる適切な実証手続を選定することによって監査の効率性を追求できます。
取引に係る詳細テストの方向性
例えば、売上取引の仕訳は次のとおりです。
借方 売掛金 500 / 貸方 売上高 500
売上取引の借方または貸方のいずれか一方の検証は、同時にもう一方も検証しています。つまり、監査人が過大計上に関して直接に借方「売掛金」を検証すると、同時に、監査人は過大計上に関して貸方「売上高」も検証することになります。
借方項目の売掛金に係る過大計上の検証は、すでに述べたように、架空資産の計上(虚偽表示)に関係するアサーション「実在性:資産が実際に存在する」の検証です。これに対応する貸方の売上高の過大計上となる架空売上に関連する虚偽表示は「記録されている売上取引が発生(存在)していない」であり、この虚偽表示に関連するアサーションは「発生:記録された取引が発生している」です。
ここで注意すべきことは、検証の方向性は、複式簿記の原理によって、ある取引の借方または貸方の一方を検証すると同時にもう一方も検証されることに注目して、監査の効率性を追求しようというアイデアであるということです。しかし、売掛金の検証は、通常、残高を対象にしますが、例示されている検証は取引を対象としていることに留意が必要です。
検証の方向性とアサーションの一般的な関係
検証の方向性(過大計上と過小計上)とアサーションの一般的な関係を示すと次のようになります。
・実在性、発生…過大計上の検証
・網羅性…過小計上の検証
・権利・義務、評価、正確性、分類(仕訳)の妥当性、期間帰属
…過大計上と過小計上の両方の検証
・表示・開示…通常、一般的な手続による検証
アサーションについて考えた(その28)「アサーション」では、取引種類と、勘定残高および表示・開示に分類しましたが、ここでは分類していません。また、アサーションと関連する虚偽表示についても考えましたので、参照ください。
勘定残高に係る詳細テストの方向性
さきの例示の売掛金が預金振込で回収されたときの仕訳は次のとおりです。
借方 銀行預金 500 / 貸方 売掛金 500
借方(銀行預金)が架空入金(過大計上)であれば、貸方(売掛金)も架空回収(過大計上)となり、結果的に売掛金残高が過小計上となります。したがって、ある資産の借方の過大計上の検証はもう一方の資産の検証となります。同様に、ある負債の過小計上の検証は別の負債の過大計上の検証となります。
このような複式簿記の原理に基づく検証の特徴は、特定の勘定残高に係る実証手続の計画立案に際して明確になります。
例えば、売掛金勘定が次のようであるとします。
期首残高 300,000
売上(増加) 1,000,000
回収(減少) (900,000)
期末残高 400,000
さきの例とは逆に、売掛金勘定の貸方の回収額が過小計上されていると、売掛金残高は結果的に過大計上となります。このとき、銀行預金勘定の借方の入金額も過小計上となり、その残高も過小計上となります。したがって、売掛金残高に係る過大計上の検証は同時に銀行預金残高に係る過小計上の検証となり、銀行預金残高に係る過大計上の検証は同時に売掛金残高に係る過小計上の検証となります。
次回も引き続き、検証の方向性について考えます。
今回は、監査実務における重要な論点の一つである実証手続の検証の方向性(direction)について、Douglas R. Carmichael, John J. Willingham & Carol A. Schaller著“AUDITING CONCEPTS AND METHOD A Guide to Current Theory and Practice”(監査の概念と方法 現在の理論と実務への指針)(Sixth Edition, 1996, Irwin/McGraw-Hill)「第7章 取引および残高に係る詳細テストの計画」の「監査テストの効率性」を参考にして考えます。
検証の方向性
検証の方向性(the direction of testing)は、単に過大計上または過小計上を指していることもありますが、ここでは虚偽表示が会計記録の過大計上または過小計上として表われるため、そのいずれかに焦点を絞って虚偽表示が実際に存在しているかどうかを実証手続による検証のアプローチを立案するための考え方のことです。
実証手続の選定に際して、監査人は存在するかもしれないと予想した虚偽表示に関連するアサーションを決定することが必要です。例えば、資産残高の過大計上に係る虚偽表示は「記録されている資産が存在していない」(架空資産)です。この虚偽表示が実際に記録されていれば、その会計記録は過大計上となっています。この虚偽表示に関連するアサーションは、勘定残高に係るアサーション「実在性:資産が実際に存在する」です。また、資産の過小計上に係る虚偽表示は「記録すべき資産が記録されていない」(未計上)となり、関連するアサーションは「網羅性:記録すべき資産がすべて記録されている」です。
このように監査人は、虚偽表示の影響が過大計上かまたは過小計上かを見定め、関連するアサーションを決定して、それを立証または反証することのできる適切な実証手続を選定することによって監査の効率性を追求できます。
取引に係る詳細テストの方向性
例えば、売上取引の仕訳は次のとおりです。
借方 売掛金 500 / 貸方 売上高 500
売上取引の借方または貸方のいずれか一方の検証は、同時にもう一方も検証しています。つまり、監査人が過大計上に関して直接に借方「売掛金」を検証すると、同時に、監査人は過大計上に関して貸方「売上高」も検証することになります。
借方項目の売掛金に係る過大計上の検証は、すでに述べたように、架空資産の計上(虚偽表示)に関係するアサーション「実在性:資産が実際に存在する」の検証です。これに対応する貸方の売上高の過大計上となる架空売上に関連する虚偽表示は「記録されている売上取引が発生(存在)していない」であり、この虚偽表示に関連するアサーションは「発生:記録された取引が発生している」です。
ここで注意すべきことは、検証の方向性は、複式簿記の原理によって、ある取引の借方または貸方の一方を検証すると同時にもう一方も検証されることに注目して、監査の効率性を追求しようというアイデアであるということです。しかし、売掛金の検証は、通常、残高を対象にしますが、例示されている検証は取引を対象としていることに留意が必要です。
検証の方向性とアサーションの一般的な関係
検証の方向性(過大計上と過小計上)とアサーションの一般的な関係を示すと次のようになります。
・実在性、発生…過大計上の検証
・網羅性…過小計上の検証
・権利・義務、評価、正確性、分類(仕訳)の妥当性、期間帰属
…過大計上と過小計上の両方の検証
・表示・開示…通常、一般的な手続による検証
アサーションについて考えた(その28)「アサーション」では、取引種類と、勘定残高および表示・開示に分類しましたが、ここでは分類していません。また、アサーションと関連する虚偽表示についても考えましたので、参照ください。
勘定残高に係る詳細テストの方向性
さきの例示の売掛金が預金振込で回収されたときの仕訳は次のとおりです。
借方 銀行預金 500 / 貸方 売掛金 500
借方(銀行預金)が架空入金(過大計上)であれば、貸方(売掛金)も架空回収(過大計上)となり、結果的に売掛金残高が過小計上となります。したがって、ある資産の借方の過大計上の検証はもう一方の資産の検証となります。同様に、ある負債の過小計上の検証は別の負債の過大計上の検証となります。
このような複式簿記の原理に基づく検証の特徴は、特定の勘定残高に係る実証手続の計画立案に際して明確になります。
例えば、売掛金勘定が次のようであるとします。
期首残高 300,000
売上(増加) 1,000,000
回収(減少) (900,000)
期末残高 400,000
さきの例とは逆に、売掛金勘定の貸方の回収額が過小計上されていると、売掛金残高は結果的に過大計上となります。このとき、銀行預金勘定の借方の入金額も過小計上となり、その残高も過小計上となります。したがって、売掛金残高に係る過大計上の検証は同時に銀行預金残高に係る過小計上の検証となり、銀行預金残高に係る過大計上の検証は同時に売掛金残高に係る過小計上の検証となります。
次回も引き続き、検証の方向性について考えます。
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