監査事例の検討-11(グループ監査)

事例の概要
 会社は多数の子会社および関連会社を有していた。問題の発覚した子会社は重要性がないため非連結子会社であった。当該非連結子会社は、会社グループの主たる事業とは異なった事業を営んでおり、その業界慣行にしたがって仕入に関して前渡金を支払っていた。
 監査人は、会社の子会社株式の評価にリスクを認識していたが、その他のリスクは認識していなかった。ローテーション・ベースで非連結子会社に往査していた。
 当該非連結子会社の前渡金残高は総資産額の約50%を占めていたが、前渡金の管理台帳はなく、適切な管理を実施していなかった。前渡金残高は毎期同様の水準で推移していた。
 当該非連結子会社への往査では、直近5事業年度の決算書数値の残高比較を実施したが、著しい変動がなかったため、他の手続は実施しなかった。
 それにもかかわらず、会社の監査役への往査結果の報告において、前渡金の売上原価振替漏れの可能性(前渡金残高が正確ではない可能性)を懸念し、管理状況の改善の必要性について報告した。しかし、前渡金残高の連結財務諸表上の重要性が低いため、仮に虚偽表示があったとしても影響は小さいと判断して、売上原価振替に係る金額的影響については検証しなかった。報告後の会社の対応について四半期ごとに監査役から説明を受けていたが、管理体制が改善されているかどうかは確認しなかった。
 会社は、監査人からの報告を受けて調査を行ったところ、売上原価振替漏れによる前渡金の多額の過大計上が判明したため、当該非連結子会社の過年度財務諸表を訂正した。その結果、連結上の重要性が高まったため、会社は当該非連結子会社を連結範囲に含めることとし、過年度連結財務諸表の訂正を行った。

判明した事項
 会社の調査の結果、売上高が計上されているにもかかわらず、前渡金から売上原価への振替漏れが多数発見され、帳簿残高が本来あるべき金額と大きく乖離している事実が判明した。
 なお、当該振替漏れは、当該非連結子会社が予算を達成するための意図的なものであった。

監査上の問題点
 連結対象は、原則として、すべての子会社・関連会社であるが、制度上、重要性により連結除外が容認されているため、連結から除外した理由が明確にされていれば、非連結会社に対して監査を実施する義務を監査人は負っていない。非連結子会社を監査する場合、監査契約を会社または子会社と締結する必要がある。その場合、財務分析のみで監査を終了させることは通常あり得ない。
 また、会社の非連結子会社株式の評価について検証するとき、多くの場合、往査はせずに会社の監査の一環として子会社決算書を査閲している。それゆえ、本事例の監査人が非連結子会社についてローテーション・ベースで往査していた理由が理解できない。往査していなければ監査人の責任を問われることは無かったかもしれない。
 それにもかかわらず、会社の依頼または監査人が非連結子会社株式の評価に往査が必要と判断して、子会社の状況を視察する観点から、監査ではなくレビューを行うために往査していたという見地から、本事例についてみていくこととする。
 監査人は、当該非連結子会社に往査して、前渡金残高が総資産額の大きな部分を占めていることや前渡金の管理台帳がないことは容易に知り得たはず(過年度の往査でも知り得ていたはず)であり、前渡金が適切に管理されていなかったことも容易に理解できたはずである。だから、前渡金の売上原価振替漏れの可能性(前渡金残高が正確ではない可能性)に懸念をもって監査役に報告したのである。
 株式の評価は適正な財政状態に基づいて検証される。そのため、著しく多額の前渡金が適正でなければ財政状態が影響を著しく受けることになる。それゆえ、監査人は前渡金残高に重要な虚誤表示がある可能性に職業的懐疑心を発揮すべきであった。また、意図的に毎期同様の水準とされていた前渡金残高を直近5事業年度比較しても、重要な虚偽表示の可能性に気付くことはできない。逆に、著しい変動がなかったことに違和感をもつべきであった。
 監査人が、前渡金残高の連結財務諸表上の重要性が低いため、仮に虚偽表示があったとしても影響は小さいと判断したことが理解できない。当該非連結子会社の総資産の半分程度の前渡金が、最悪、すべて虚偽表示であれば、連結上も重要な虚偽表示となり得ることは想定できたはずであるから、売上原価振替に係る金額的影響については検証しなかったことが致命的な問題である。

監査人が実施すべきであったリスク評価、監査手続等
 監査人は、前渡金の売上原価振替漏れの可能性(前渡金残高が正確ではない可能性)に懸念をもったのであるから、その懸念を払拭するまで徹底的に、前渡金に係る発注や支払いに関する証憑書類と照合し、売上取引に対応する仕入取引および精算すべき前渡金を検証することで、比較的容易に売上原価振替漏れ(仕入未計上)は判明したと思われる。虚偽表示を発見したならば、リスク評価および連結範囲の見直しを行うことが必要であった。
 時間的な問題があって当該年度の監査中に監査手続の実施ができないのであれば、翌年度初めに監査手続を実施して、重要な虚偽表示を発見した場合には、会社と対応策について協議すべきであった。
 なお、当該非連結子会社は、連結監査の対象ではなく、当該子会社の状況の視察やレビューを目的としていたと思われるため、リスク評価の見直し等には関係していない。ここに落とし穴があったのであろう。

結論
 本事例も多くの事例と同様、監査人のリスク感覚の無さまたは不足による監査の失敗であろう。
 たとえ、当該非連結子会社の状況視察やレビューを目的としていたとしても、往査して懸念事項に気付いたときには、懸念を払拭するまで監査手続を実施することが必須であることを銘記すべきである。
 それにしても、監査人は不用意に非連結会社にタッチしない-監基報に準拠して連結範囲から除外した-ことを主張して、降りかかる火の粉の回避のためには必要なのかもしれない。それでも、タッチしたならば、徹底的にタッチして-実施可能ならば、監査を実施して-重要な虚偽表示がないことに確信をもてるまで検証することが必要である。

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