監査事例の検討-13(直送取引)

事例の概要
 会社は、従来の事業から撤退したことから新規事業の開拓が急務であったため、A社から仕入れた商品をB社が委託販売する新規事業を開始した。商品はA社の仕入先メーカーからB社に直送され、エンドユーザーへ販売・納品されていた。当該取引は会社の売上高の約70%を占めていた。B社はA社の親会社であり、代表者も同一人物であった。
 会社は、B社倉庫納品時に仕入先からの請求書に基づき仕入を計上し、エンドユーザーの注文書(写し)に基づき納品予定日に売上を計上していた。
 監査人は、当該取引に係る収益認識に不正リスクを識別していた。また、親子関係であるA社(仕入先)とB社(販売委託先)との取引であるため、監査人は取引の経済合理性に関する検討を実施したが、両社は代表者が同一であるものの、法人格が異なり、モノや資金の流れが分離されているため、一連の取引は金融取引ではなく売買取引に該当すると理解していた。
 仕入に関する監査手続としてA社からの請求書と仕入明細との突合を実施し、売上に関してはエンドユーザーへの納品予定日が記載されたB社とエンドユーザー間の納品予定日が記載された注文書の写しと売上明細との突合を実施していた。B社倉庫発行の出庫記録や運送業者の運送記録等の出荷の事実は確認していなかった。
 B社への委託販売は会社の業務の重要な部分を占めるが、B社の内部統制については理解していなかった。
 監査人は棚卸立会場所として、複数あるB社倉庫のうち主要倉庫との説明を受けたB社に最も近い場所にある倉庫を選択したが、在庫金額が最も大きな倉庫ではなかった。立会未実施の倉庫からは預け在庫の残高確認をB社より入手し、在庫数量との一致を確認したが、倉庫別在庫金額を認識していなかったため、立会場所の変更や追加は行っていなかった。

判明した事項
 後日、直送取引の全てが架空取引であったことが判明し、当該取引全てが取り消された。
 B社は棚卸立会が行われた倉庫の在庫を帳簿残高と一致するように調整していた。

監査上の問題点
 監査人は、A社とB社の代表者が同一であるものの、法人格が異なりモノや資金の流れが分離されているため一連の取引は金融取引ではなく売買取引であるとの判断は、取引形態の判断であり、会社が早期に開拓しなければならない状況下における新規事業についての会社の展望や事業計画等を慎重に検討した事業の合理性に係る判断ではなかった。また、A社とB社が共謀することによって容易に架空取引を捏造して会社を欺くことができることに思い至らなかった。
 監査人は不正リスクを識別していたにもかかわらず、実施した取引に関した監査手続は、A社とB社の作成した証憑書類との突合であり、両者の関係を考慮すれば、その証明力は低いと判断せざるを得ない。
 監査人の立会場所の選択に際して、B社に最も近い倉庫が主要倉庫であるとの説明を鵜呑みして、在庫の実態、在庫金額の大きな倉庫を選択しなかった。

監査人が実施すべきであったリスク評価、監査手続等
 監査人による、A社とB社の代表者が同一であるものの、法人格が異なりモノや資金の流れが分離されているため一連の取引は金融取引ではなく売買取引であるとの判断は、物品の流通を介在させた循環取引に準じた金融取引ではないかとの疑問が生じたが、法人格が異なりモノや資金の流れが分離されていることがその疑問を打ち消したことによる判断であったのであろうか。しかし、そのような理由は、金融取引でないとする根拠にはなり得ないと考える。したがって、監査人による当該判断そのものを理解できない。
 会社の状況を勘案して、親子会社であるA社とB社が関与する事業上の合理性が不明瞭であり、親子会社は容易に不正を共謀できる関係にあり、直送取引であることを考慮すれば、A社とB社が共謀することによって架空取引を捏造して会社を欺くことができることに思い至る必要があった。
 監査人は、収益認識に不正リスクを識別していたのであるから、不正リスクに対応する証明力の高い監査証拠の入手が必要であった。取引について高い証明力の監査証拠を入手するためには、例えば、商品の実際の移動を検証するため、A社仕入先のメーカーからの仕入取引に関する監査証拠(注文請書、納品書、請求書等)またはB社が納品したエンドユーザーとの取引に関する監査証拠(出荷伝票、運送記録、検収書等)をA社またはB社から入手または往査して取引を検証することが必要であった。
 監査人の立会場所の選択に際して在庫金額の大きな倉庫を選択しなかったことは、不正の兆候に気づく機会を逃していたと思われる。もっとも、倉庫別在庫金額を把握していなかったのであるから、立会倉庫を選択できなかったのであり、立会場所を監査人が選択する余地がなかったということであろう。監査の基本ができていなかった証左である。
 収益に不正リスクを識別していたのであるから、棚卸資産および売掛金についても同様に不正リスクを識別すべきであった。棚卸資産については、多くの倉庫の立会を実施することを検討すべきであった。また、立会未実施倉庫の在庫確認(在庫証明)の入手は、監査人が発送し直接返送される方式でなければならないにもかかわらず、B社から入手していることは監査証拠と判断できないと解する。これも監査の基本ができていなかった証左である。
 会社の説明による主要な倉庫が在庫金額の最大な倉庫と異なることは、在庫集計の検討に際して容易には把握できるため、会社の説明が不正による重要な虚偽表示の兆候であると判断して、不正リスクを識別して、立会を実施した倉庫以外の倉庫での棚卸立会の実施の要否を検討すべきであった。
 売掛金に対する監査手続については言及されていないので詳細は不明であるが、通常の売掛金残高確認を実施してもB社からは確認金額と同額の回答があったものと推測される。したがって、このような確認から不正の兆候を識別することは困難である。
 また、監査人はB社の内部統制については理解していなかったと指摘されているが、その根拠は当該取引が業務委託であるとの理解によっていると思われる。しかし、監査人は、当該販売を委託販売という形態をとった売買取引と認定しており、販売業務を委託したとは理解していなかったと思われる。この監査人の理解に誤りはないと解する。そうであれば、内部統制監査における業務委託に係る内部統制の検証は対象外である。なお、当該取引が販売業務の委託であれば、実施すべき監査手続は全く異なったものとなるが、そこまでの指摘は無い。

結論
 監査人は、親子会社間取引に会社が介在する取引を通常の売買取引と判断したことが監査の失敗の最大の要因であったと考える。一連の取引に基本的に問題なしと自信をもって判断したがゆえに、識別した不正リスクにかかわりなく、仕入取引と売上取引について親子会社グループ内の証憑突合のみの検証を行ったであろう。しかし、不正リスクを識別したのであるから、そのような監査手続では不十分である。
 親子会社の法人格が異なることをもって独立した取引と認定した形式的な判断、収益認識を不正リスクとすることを求めるGAASを形式的・機械的に遵守し、実質判断を行っていない監査人は監査を失敗してしまう典型的事例であろう。

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