監査事例の検討—22不動産鑑定評価書

事例の概要
 不動産業である会社の保有不動産(棚卸資産)は総資産の20%を超えていた。
会社が不動産開発を行っていたA物件(保有不動産)は、市況低迷により長期間開発中断となっていた。A物件の評価に不動産鑑定士による不動産鑑定評価を利用していた。
 監査人は、棚卸資産の評価について特別な検討を必要とするリスクを識別し、経営者の利用する専門家である不動産鑑定士の適性を検討するために当該不動産鑑定士のウェブサイトにより鑑定評価実績、資格情報、経歴等を確かめたとともに。不動産鑑定評価書の閲覧、鑑定評価書記載金額と会社作成資料の突合を実施した。
 また、監査人は、不動産鑑定評価書が前提としている開発計画の内容について経営者とディスカッションを行い計画に変更がないことを確かめた。

判明した事項
 外部からの指摘により、当該不動産鑑定評価は、保有不動産の置かれた状況が考慮されておらず、前提となる仮定や方法が対象物件の不動産開発に関する規制上の取扱いに適合しない内容となっていたことが判明し、適切に行われていなかった不動産鑑定の評価結果に基づく資産価額が誤っていたため、会社は過年度財務諸表を訂正した。

監査上の問題点
 保有不動産の評価について特別な検討を必要とするリスクを識別していたにもかかわらず、監査人の実施した監査手続はリスクに対応する手続として不足していた。すなわち、経営者の利用する専門家の業務の適切性の評価が十分でなかった。

監査人が実施すべきであったリスク評価、監査手続等
 監査人が保有不動産の評価を特別な検討を必要とするリスクとして識別・評価したことに問題は無い。しかし、監査人は、不動産鑑定評価書が前提としている開発計画の内容について経営者とディスカッションを行い計画に変更がないことを確かめただけで、不動産鑑定評価において採用されている重要な仮定および方法の適合性と合理性の検討(法令等規制上の適合性を含む。)については十分な検討を実施していなかったことが、識別したリスクに対応していなかったということである。
 監査人は、経営者が利用した専門家の業務を利用する場合には、当該専門家の適性を評価し、業務の目的、範囲、方法、仮定その他を理解し、当該業務が監査目的に照らして妥当か否か、監査証拠としての十分性、適切性を検討することが求められている。
 したがって、監査人は、当該専門家の専門分野、どのような重要な仮定および方法が採用されているかを理解し、基礎データが多用されている場合等は専門家が使用する内外のデータまたは情報の性質を理解すべきであった。
 しかし、このような経営者の利用した専門家と実施した業務の内容や方法を理解して、その業務結果を監査証拠として利用できるかどうかを判断することだけは、重要な虚偽表示のリスクを識別・評価した場合と同様である。特別な検討を必要とするリスクを識別していたのであるから、監査人は独自の不動産評価を行う必要があるため、監査人が専門家(不動産鑑定士)に依頼して当該物件の不動産評価を行い、必要なコミュニケーションを行って、監査人独自の評価とすることが必要であった。

結論
 「外部からの指摘」が内部告発、JICPA品質管理レビューまたは金融庁検査によるものかは不明であるが、監査人は不動産評価結果に全く問題はないと判断していたものと推測する。そうであれば、特別な検討を必要とするリスクとして識別・評価したことは形式的なことであったのであろうか。
 本事例も識別・評価したリスクに対応して実施する監査手続についての理解が不足していたことが根本原因であると考える。

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