2019 監基報701 読み解き(その6)

 今回は、未公表の情報をKAMとして記載する場合、経営者の対応、その他の記載内容の考慮およびKAMに関する監査調書について読み解きます。

28.未公表の情報をKAMとして記載する場合
 監査人は、本来、未公表の情報をKAMとして記載しないことが大原則であるにもかかわらず、監査人が未公表の情報(第一次情報)をKAMとして記載する場合について、さきに続けて、しかしながら、当該事項を監査上の主要な検討事項として決定した理由及び監査上の対応について説明するために、法令等によって禁止されない限り、監査人は企業に関する未公表の情報を含む追加的な情報を記載することが必要であると考えることがある(A36項)としています。
 冒頭の「当該事項」が何を指すか理解できません。そのため、ISAをみると、”However, the auditor may consider it necessary to include additional information to explain why the matter was considered to be one of most significance in the audit and therefore determined to be a key audit matter, and how the matter was addressed in the audit, provided that disclosure of such information is not precluded by law or regulation.”(しかし、監査人は、監査において特に重要であると判断した事項と考えた理由とそれゆえに監査上の主要な検討事項である決定した理由、およびその事項に監査上どのように対応したかを説明するために、そのような情報の開示が法令によって禁止されていないならば、追加的情報を含むことが必要と考えることがある。)です。このISAの文節は、特に重要であると判断した事項と考えた理由とそれゆえに監査上の主要な検討事項である決定した理由、およびその事項に監査上どのように対応したかを説明するために必要な情報を追加開示することを求めているだけです。
 監基報の「当該事項」がISAの記述から特に重要であると判断した事項であることが判明しましたが、監基報は特に重要であると判断した事項が監査上の主要な検討事項と同じ事項を指しているため、あえて訳出しなかったと解します。そうであれば、「当該事項」がなくとも文意は通るため、不要な誤解を回避するため削除すべきです。
 また、ISAでは追加情報には未公表の情報は含まれていません。監基報は未公表の情報に関連する項であるため意図的に追加されたものと解しますが、不要な追加であると考えます。さらに、追加情報の記載は財務諸表等における開示であると解しますが、監基報の記述からは監査報告書の記載と誤解される可能性が高いように思います。
 監基報は先に続けて、その場合、監査報告書において企業に関する未公表の情報を提供することを決定する前に、監査人は経営者に追加の情報開示を促すとともに、必要に応じて監査役等と協議を行うことが適切である。この際、企業に関する情報の開示に責任を有する経営者には、監査人からの要請に積極的に対応することが期待される。また、経営者の職務の執行を監視する責任を有する監査役等には、経営者に追加の開示を促す役割を果たすことが期待される(A36項)としています。「その場合」が、未公表の情報を含む追加的な情報を記載することが必要であると考えた場合であると解します。そうであれば、「未公表の情報を提供することを決定する前に」ということが理解できません。
 また、さきの文節がISAとは結構な隔たりがあるため、この文説についてもISAをみると、”When such information is determined to be necessary by the auditor, the auditor may encourage management or those charged with governance to disclose additional information, rather than the auditor providing original information in the auditor’s report.”(監査人が追加情報を必要と決定したとき、監査人は、監査報告書に未公表の情報(第一次情報)を提供するのではなく、経営者または監査役等に追加情報を開示するよう促す。)です。ISAではあくまで追加情報の開示を促すことを規定しているだけで。
 しかし、監基報は、改訂監査基準 二 1(5)の「企業に関する未公表の情報を含める必要がある判断した場合には、経営者に追加の情報開示を促すとともに、必要に応じて監査役等と協議を行うことが適切である」との一文を取り込んだものと解します。また、監査基準・監基報では監査役等の役割の違いから、追加開示を促す相手は経営者に限定して、監査役等とは協議することを求めています。このことを明確にするために、「その際」の記述を追加しています。
 このように監基報は、ISAの記述とはニュアンスが大きく異なった記述となっているために、この項全体の理解が十分理解できなくなっていると思います。その最大の理由は、改訂監査基準が「監査人が『監査上の主要な検討事項』を記載するに当たり」としてKAM に未公表の情報を含めることを前提としていることを踏襲して、この項が「未公表の情報を提供すること」を前提としているからと解します。この点については、さらに後に検討したいと思います。
 以上の読み解きから、この項は、このような前提を置かない「追加情報の開示」についての記述とすることが必要と解します。

29.経営者の対応
 追加情報の開示に対する経営者の対応について、経営者は、監査上の主要な検討事項が監査報告書において報告されることを考慮して、財務諸表又はその他の記載内容に、監査上の主要な検討事項に関連する追加的な情報を開示することを決定することがある。例えば、適正表示の観点から、財務諸表の利用者が適切に財務諸表を理解するために、会計処理の背景となる、より詳細な情報を財務諸表に追加して注記することがある(A37項)としています。
 監基報とISAには、ニュアンスの違いや記述内容の異なる箇所があります。まず、監基報の「監査上の主要な検討事項が監査報告書において報告されることを考慮して」は、ISAでは”in light of the fact that the matter will be communicated in the auditor’s report”((監査上の主要な検討)事項が監査報告書において報告されるという事実に照らして)であり、幾分柔らかな表現となっています。
 また、「追加的な情報を開示する」は、”include new or enhanced disclosure”(新たなまたは強調する開示を含める)であり、追加情報の内容を明らかにした記述となっていますが、監基報はすでに追加情報の内容を記述しているために冗長な記載を省略したものと解します。
 記述内容の異なる箇所は、例示の記述です。ISAは”Such new or enhanced disclosure, for example, may be included to provide more robust information about the sensitivity of key assumptions used in accounting estimate or the entity’s rationale for a particular accounting practice or policy when acceptable alternatives exist under the applicable financial reporting framework.”(そのような新たなまたは強調する開示は、例えば、適用可能な財務報告の枠組みの下で認められた代替手続が存在するとき、会計上の見積りに用いられた主要な仮定に関する感応度または特定の会計実務や方針に関する企業の根拠についてより強固な情報を提供するために含められることがある。)です。
 「適正表示の観点」は「適用可能な財務報告の枠組み」である適正表示の枠組みを指しており、ISAが具体的な例を記述しているにもかかわらず監基報は、財務諸表の利用者が適切に財務諸表を理解するために、会計処理の背景となる、より詳細な情報として、ISAの饒舌な記述を避けて相当に凝縮した記述となっています。そのため、監基報はISAのニュアンスとは大きくかけ離れた記述となっていると思います。
 いずれにせよ、監査人の要請に基づいて、経営者が財務諸表その他に追加情報を記載することがあるということです。これだけのことであれば、この項は不要であると考えます。

30.その他の記載内容の考慮
 監査人は、監査上の主要な検討事項の記述を検討する際に、その他の記載内容を考慮することがある。また、企業又はその他の信頼できる情報源により公表され、利用可能なその他の情報を考慮することもある(A38項)としています。
 「その他の記載内容」は、ISA720に規定されている「財務諸表が含まれる開示書類におけるその他の記載内容」(A35項)のことです。
 この項は、ISAとは大きく異なった記述となっています。ISAは、ISA720が年次報告書を定義して年次報告書の一部となっている経営者報告書(management report)、経営者コメント(management commentary)、事業および財務の外観(operating and financial review)、取締役報告書(directors’ report)、取締役会議長声明(a chairman’s statement)、コーポレート・ガバナンス声明(corporate governance statement)や内部統制およびリスク評価報告書(internal control and risk assessment reports)のような文書を説明し、年次報告書に含まれている財務諸表以外のその他の情報に関係する監査人の責任に対応しているとして、さらに、財務諸表に対する監査人の意見はその他の情報を対象としていない(not cover)が、監査上の主要な検討事項の記載について明確にする(formulating)際に、企業または信頼できる源泉によるその他の公開されている利用可能なコミュニケーション(other publicly available communications)と同様に、その他の情報を検討する(consider)ことがある、としています。したがって、監基報は、ISA720が記述している年次報告書に含まれる文書が我が国の制度上の開示書類には無いため、それに関連していないISAの最後の文章を簡潔に記述していると解します。
 A38項は、その他の情報からKAMを検討することを求めているのではなく(そのようなことは皆無ではないかもしれないが)、KAMに関する文案等の検討に際して、決定したKAMに関連するその他の情報を参考にする場合があることを記述しているだけと解します。これによって、矛盾等がないことなどを確かめられることがあるとしても、KAMの取り扱いや監査対応に影響があるとは思われない。念押し的な指針にすぎないため、なくとも良い規定と考えます。
 ただし、英文のAnnual ReportにはISAの記述する文書が含まれている会社が増加しています。その英文財務諸表(比較財務諸表方式で注記を相当に追加しています。)に対する監査報告書は金商法に基づくGAASに準拠した監査意見が比較財務諸表方式で表明されています。
 私見では、我が国の監査制度上適用がない比較財務諸表方式に関する監基報の規定を削除すべきと述べてきました。しかし、監基報710(改定前)に係る監査基準委員会委員の説明では、Annual Reportに対する監査のような任意監査には比較財務諸表方式に関する規定の適用があるとされていますから、同様の取扱いとなりそうです。それにもかかわらず、KAMに関する啓蒙または解説論文等にはそのような取り扱いについて言及されていないようです。したがって、監査基準委員会は、このようなその他の情報についての取扱いをどうするかを明確にすべきではないでしょうか。私見では、上記の金商法を基礎としたAnnual Reportにおける比較財務諸表方式に基づく監査意見表明は我が国の制度とは異なっています。任意監査であっても、少なくとも、監査意見は当年度のみを対象とし、対応数値方式によるべきと考えます。

31.KAMに関する監査調書
 監査人が監査の実施過程において作成した監査調書は、監査上の主要な検討事項の記述を検討する(formulating)際に有用である。例えば、監査役等との書面又は口頭によるコミュニケーションに関する監査人の記録及びその他の監査調書は、監査報告書における監査上の主要な検討事項の有用な基礎(a useful basis)となる(A39項)としています。
 特に重要であると判断した事項に関する検討やKAMの決定に関して監査人は十分な監査調書を作成することが必要であることは言うまでもありません。また、監査人がKAMの記載を検討したり文案を作成したりする際には、監査調書に記載されている情報(監査証拠)に基づくことにならざるを得ないため、A39項の記述は当然と言えば当然のことでしかないと思います。KAMの取り扱いや監査対応に影響がない念押し的な指針にすぎないため、不要な規定と考えます。
 監基報は続けて、これは、監査基準委員会報告書230「監査調書」に従って、監査の実施過程で生じた重要な事項とその結論及びその際になされた職業的専門家としての重要な判断、実施した監査手続の種類、時期及び範囲、当該手続の結果、並びに入手した監査証拠を監査調書に記載することが求められているためである。このように、監査調書は、監査報告書において監査上の主要な検討事項として決定した理由を監査人が記述する際に役立つ(A39項)としています。
 このA39項後半の規定の「これは」が何を指しているか、また、監査調書の記載内容の記述がKAMの記載とどのように関連するかが十分理解できません。そのため、ISAをみると、”This is because audit documentation in accordance with ISA 230 is intended to address the significant matters arising during the audit, the conclusions reached thereon, and significant professional judgment made in reaching those conclusions, and serves as a record of the nature timing and extent of the audit procedures performed, the result of those procedures, and the audit evidence obtained. Such documentation may assist the auditor in developing a description of key audit matters that explains the significance of the matter and also in applying the request in paragraph 18.”(その理由は、ISA 230に準拠した監査調書が、監査の実施中に生じた重要な事項、その事項について到達した結論およびその結論に到達する際になされた重要な職業的専門家としての判断に対応するように、また、実施した監査手続の種類、時期と範囲、当該手続の結果、および入手した監査証拠の記録として役立つように意図されているからである。このような監査調書は、事項の重要性を説明する監査上の主要な検討事項の記載を展開する際に監査人に役立ち、また、18項の要求事項の適用に際しても役立つことがある)です。
 監基報とISAの記述にはニュアンスの差があります。監基報は、監査調書の記載内容について説明し、KAMを決定した理由の記載に役立つとしていますが、ISAでは、監査調書の作成意図を説明し、KAMの記載を行う際に監査調書が役立つことを記述しています。私見では、ISAの記述の方がすんなりと理解できます。監基報の記述は些か断定し過ぎのように思います。
 なお、ISAの記述にある、18項(監基報17項)はKAMに関する監査調書の作成に関する要求事項です。監基報は、一般的な監査調書の作成内容を記述したためKAMに関する監査調書に係る要求事項と必ずしもマッチしないために省略されたものと解します。


 次回は、財務諸表の注記事項への参照、個々の監査上の主要な検討事項の内容、監査上の主要な検討事項に決定した理由の記載などを読み解きます。

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