2019 監基報701 読み解き(その7)

 今回は、財務諸表の注記事項への参照、個々の監査上の主要な検討事項の内容、監査上の主要な検討事項に決定した理由の記載、監査上の主要な検討事項の記述に際しての考慮要因、監査上の主要な検討事項に決定した理由の記載に言及する事項、および監査上の主要な検討事項に対する監査上の対応を読み解きます。

32.財務諸表の注記事項への参照
 要求事項12項「監査上の主要な検討事項に係る記載」において求められている「監査上の主要な検討事項」区分に記載しなければならない」(1)から(4)の事項について読み解いていきます。
 (1)は 、関連する財務諸表における注記事項がある場合は、当該注記事項への参照を求めています。この要求事項に関連して、監査上の主要な検討事項は、財務諸表に注記されている内容を繰り返して記載することを意図するものではないが、関連する財務諸表における注記事項へ参照を付すことで、経営者が財務諸表を作成する上で当該事項をどのように取り扱ったかについて、想定される財務諸表の利用者が理解を深めることが可能となる(A40項)としています。
 監査報告書の「監査上の主要な検討事項」区分に記載する、監査上の主要な検討事項に関連する財務諸表の注記の番号等を参照する(リファレンスを付す)ことによって、注記を再度繰り返して(reiteration)記載するという二重手間を省略し、経営者の対応について利用者の理解を深めることが可能となるとしています。
 想定利用者が合理的利用者であれば、当該注記を読んで理解しているはずですから、利用者の理解を深めることを意図する必要はないと考えます。したがって、(1)の利用者は、既に指摘したように、A34項には記述されていない「合理的な監査に関する知識を有していない利用者」(ISA A34項)です。そうであれば、A4項の合理的な利用者と明らかに矛盾した記述です。
 ところで、財務諸表の注記が詳細に記述されているときには、監査人は、監査上の主要な検討事項にどのように対応したかをより的確に記述するために、「関連する注記事項への参照を付すだけでなく、例えば以下のように、その内容を用いて記述することがある」(A41項)としています。
・企業が会計上の見積りに関してより具体的な注記を行っている場合、監査上の主要な検討事項に該当すると判断した理由および監査上の対応を説明するために、監査人は主要な仮定、見込まれる結果の範囲、見積りの不確実性の主な原因または重要な会計上の見積りに関するその他の定性的及び定量的な注記事項に言及することがある。
・監査人は、継続企業の前提に関する重要な不確実性がないと結論付けた場合でも、結論に至るまでに検討した事項を監査上の主要な検討事項として決定することがある。そのような状況においては、監査報告書における監査上の主要な検討事項の記載において、重要な営業損失、利用可能な借入枠、負債の借換えまたは財務制限条項への抵触の可能性、およびこれらを軽減する要因など、財務諸表またはその他の記載内容に開示された特定の事象・状況に言及することがある。

 したがって、監査人は、監査上の主要な検討事項に関連する注記へのリファレンスを付すだけでなく、例示されている会計上の見積りの場合や継続企業の前提に重要な不確実性がない場合のみでなく、必要に応じて注記の内容についても記述するということです。
 なお、継続企業の前提に重要な不確実性がある場合には、監基報570により「継続企業の前提に関する重要な不確実性」区分に記載しなければなりません。

33.個々の監査上の主要な検討事項の内容
 要求事項12項(2)は、個々の監査上の主要な検討事項の内容について記載することを求めています。
 この規定は、監査人が監査計画の立案に際して特に注意した事項の中から決定した特に重要と判断した事項について監査役等とのコミュニケーションによって決定した監査上の主要な検討事項のそれぞれの内容を、「監査上の主要な検討事項」区分に小見出しを付して記載することを求めています。

34.監査上の主要な検討事項に決定した理由の記載
 要求事項12項(3)は、財務諸表監査において特に重要であるため、当該事項を監査上の主要な検討事項に決定した理由を記載することを求めています。
 この要求事項に関連して、監査人が当該理由を監査報告書においてどのように記述するかを検討する際に、監査上の主要な検討事項の決定に関する要求事項および適用指針(8項、9項、A12項からA29項参照)は役立つことがある。監査人が監査において特に注意を払い、特に重要であると判断した要因の説明に、想定される財務諸表の利用者は関心を持つことが多い(A42項としています。
 監査人は、関連する要求事項・適用指針に基づいて、特に注意を払った事項の中から特に重要であると判断した事項を決定し、その中から監査上の主要な検討事項を決定します。そのため、監査上の主要な検討事項の決定理由を監査報告書にどのように記述するかを検討する際に、監査上の主要な検討事項の決定に関する要求事項・適用指針が役立つ、すなわち、要求事項・適用指針が決定理由の書き方の参考になる、とは思われません。
 また、利用者が監査報告書に記載された監査上の主要な検討事項に関心を持つことは当然かと思います。しかし、監査人は、利用者の関心の高いと判断した事項を勘案して、特に注意を払った事項を決定する(A24項に関連した私見参照)のであって、利用者の関心が監査上の主要な検討事項を決定する関係にはないことに留意が必要です。

35.監査上の主要な検討事項の記述に際しての考慮要因
 上述の利用者の関心に関連して、監査上の主要な検討事項をどのように記述するかを決定する際に考慮する要因には、想定される財務諸表の利用者にとっての情報の目的適合性がある。監査上の主要な検討事項の記述によって、想定される財務諸表の利用者の監査及び監査人の判断に対する理解が深まる場合、当該記載内容は想定される財務諸表の利用者にとって目的適合性があることになる(A43項)としています。
 利用者の目的や関心を監査人が知り得ることはまずありえないので、「利用者にとっての目的適合性」を理解できません。そのため、ISAを参照すると、”The relevance of information for intended users is a consideration for auditor in determining what to include in the description of a key audit matter. This may include whether the description would enable a better understanding of the audit and the auditor’s judgments.”(想定利用者に対する情報の関連性は、監査上の主要な検討事項の記述に何を含めるか決定する際の監査人の考慮事項である。このことは、記述が監査および監査人の判断についてより良く理解することを可能にするかどうかを含むことがある。)です。
 ”the relevance of information for intended users”は「想定利用者にとっての目的適合性」ではなく、「想定利用者に対する情報の関連性」または「想定利用者に向けた情報の適合性」と解します。つまり、監査上の主要な検討事項の記載が想定利用者の関心とマッチしているかどうか、ということです。そうであれば、A43項は、監査上の主要な検討事項の記載が想定利用者の関心とマッチし、その記述によって利用者の理解が深まることがある、ということです。
 要求事項12項(3)に関連して、監査上の主要な検討事項を企業の特定の状況に直接関連付けて記載することにより、監査上の主要な検討事項が過度に標準化されることや、翌年度以降の監査上の主要な検討事項の有用性が低下する可能性を低減できる場合がある。例えば、産業の状況または産業特有の財務報告の複雑性により、特定の産業の多くの企業において、ある事項が監査上の主要な検討事項と判断されることがある (A44項)としています。
 監査上の主要な検討事項が企業の特定の状況に直接関連付けられずに監査報告書に記載されることはあり得ません。そのため、監査上の主要な検討事項が企業の特定の状況に直接関連付けられないで監査報告書に記載された場合には、監査上の主要な検討事項の記載の有用性が時の経過により低下する(less useful over time)ことは理解できます。しかし、監査上の主要な検討事項の記載が過度に標準化される(become overly standardized)ということが理解できません。
 この「過度に標準化される」ことは、すでに述べたように、ISA 701公開草案に示された監査上の主要な検討事項(KAM)の四つの例示についての反対コメントである、すべての状況で報告されるKAMを特定することは決まり文句となる(boilerplate)ことを指しているかと思います。そうであれば、例示はすべて削除されたため、この一文は理解できない、誤解を与えかねないと思うので、削除すべきではないかと考えます。
 したがって、例示は、監査上の主要な検討事項が企業の特定の状況に直接関連付けられていることを示しており、過度の標準化や有用性の低下には関連していないと解します。
 また、さきに続けて、しかしながら、このような状況においても、当該企業に特有の状況(例えば、当年度の財務諸表における経営者の判断に影響を与えた状況)を記載することにより、想定される財務諸表の利用者にとって目的適合性が増すことがある。このことは、複数期間にわたって同一の事項を繰り返して監査上の主要な検討事項として記載する場合においても重要である(A44項)としています。
 さきの理解からは「このような状況においても」ということが全く理解できません。そのため、ISAを参照すると、”In describing why the auditor considered the matter to be one of most significance, it may be useful for the auditor to highlight aspects specific to the entity (e.g., circumstances that affected the underlying judgments made in the financial statements of the current period) in order to make the description more relevant for intended users. This also may be important in describing a key audit matter that recurs over periods.”(特に重要と判断した事項と監査人が考えた理由を記述するに際して、監査人が、想定利用者により関連する記述を行うために、企業の特定の局面(例えば、当年度の財務諸表に行われた基本的な判断に影響する状況)を強調することは有用である。これはまた、数年度にわたって繰り返して監査上の主要な検討事項を記述する際にも重要である。)です。
 したがって、「このような状況においても」は、「特に重要であると判断した事項であると監査人が考えた理由を記述するに際して」であり、特に重要であると判断した事項、すなわち監査上の主要な検討事項の理由を記述する状況です。つまり、要求事項12項(3)が求めている理由を記載する状況と解します。
 しかし、この文節以前にはこのような状況について記述されてなかったため、規定はあいまいな表現としたのではないかと推測します。そのように解しても、「しかし」とせずに、「監査上の主要な検討事項の理由を記述する状況では」のように記述すれば良いように思います。

36.監査上の主要な検討事項に決定した理由の記載に言及する事項
 監査上の主要な検討事項に決定した理由の記載において、監査業務の状況に照らして、監査人が特に重要か否かを判断する際に考慮した主な事項に言及することがある(A45項)とし、以下を例示しています。
・監査証拠の入手可能性に影響を与えた経済情勢。例えば、特定の金融商品に関する市場の流動性が低下しており、公正価値の入手が困難な状況
・新規の事象または見解が定まっていない事象(例えば、監査チームが監査事務所内において専門的な見解の問合せを実施した、企業または産業に特有の事象)に関する会計方針
・財務諸表に重要な影響を与える、企業の戦略またはビジネスモデルの変更

 例示されている経済情勢、会計処理方法がまだ定まっていない取引・事象や業界に特有な事象や会計処理については、通常、監査上の主要な検討事項として特に重要であると判断した理由を説明するために記載せざるを得ないであろうと考えます。
 というよりも、これらの例示のみでなく、監査上の主要な検討事項の理由の説明のために、関連する状況や考慮事項などを記載することが通常であると考えます。したがって、この考慮事項の例示は限定的例示と解することは誤りであると解します。

37.監査上の主要な検討事項に対する監査上の対応
 要求事項12項(4)は「監査上の主要な検討事項に対する監査上の対応」を記載することを求めています。
 この監査上の対応に関連して、監査上の対応に関する記載の詳細さの程度は、監査人の職業的専門家としての判断に係る事項である(A46項)として、監査上の対応についての記載は以下のいずれかまたは組み合わせによるとしています。
・監査上の主要な検討事項に最も適合しているまたは評価した重要な虚偽表示リスクに焦点を当てた監査人の対応または監査アプローチの内容
・実施した手続の簡潔な概要
・監査人による手続の結果に関連する記述
・当該事項に関する主要な見解

 最初の記載事項は、二番目から最後の四番目の事項をまとめただけのように思います。二番目から最後の四番目の事項は、実施した監査手続、その結果および監査人の見解という監査対応に関連した記述ですから、特に異論はありません。
監査上の対応に関する記載に関連して、監査人は、監査上の主要な検討事項に対する監査人の対応の結果に関連する記載をおこなう場合には、当該記載が個々の監査上の主要な検討事項に対する個別の意見を表明しているとの印象または全体としての財務諸表に対する監査意見に疑問を抱かせるような印象を与えないように注意する(A51項)としています。
 この規定は、後述する、A47項の四番目に留意事項と同様に、監査上の主要な検討事項の記載は、個別意見(separate opinion)ではないことが求められている(10項(2)参照)ため、この事項も当然の記述であり、あらためて記述する必要はないと解します。
 これらのA46項に規定されている事項に関連した実務指針について、次回以降読み解いていきます


 次回は、監査人の対応または監査アプローチの内容の記載、専門家の利用に関する記載、実施した監査手続、その結果および監査人の見解の記載などを読み解きます。

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