2019 監基報701 読み解き(その10 最終回)

 最終回の今回は、除外事項付意見の表明、不適正意見の表明、強調事項、監査上の主要な検討事項がない場合の記載、監査上の主要な検討事項として決定した事項が「監査上の主要な検討事項」区分以外で報告した事項のみである場合の記載例、個別財務諸表の監査報告書において記載を省略している場合の記載例、監査役等とのコミュニケーション、監査役等への貢献、監査役等とのコミュニケーションに際しての留意事項、および監査調書について読み解きます。

47.除外事項付意見の表明
 要求事項4項(2)の監査上の主要な検討事項が「除外事項付意見の表明の代替」ではないことに関連して、監査人が、…限定意見又は否定的意見を表明する場合、その原因となる事項を除外事項付意見の根拠区分において記載することにより、想定される財務諸表の利用者が除外事項付意見が表明されていることを認識し、その理由を理解することに役立つ。したがって、除外事項付意見の原因となる事項を『監査上の主要な検討事項』区分に記載された他の事項と区別して記載することにより、監査報告書において除外事項への注意を促すことができる(A6項)としています。
 規定の前段は、除外事項付意見(限定意見または不適正意見)を表明する場合、その原因となった除外事項(重要な虚偽表示)を限定意見または不適正意見の根拠区分に記載するという一般論を記述しています。しかし、後段(「したがって」から)の記述が、除外事項が監査上の主要な検討事項の区分に他の検討事項と区分して記載されるかのように理解される可能性があるように思われ、十分理解できません。
 そのため、ISAを参照すると、”Separating the communication of this matter from other key audit matters described in the Key Audit Matters section therefore gives it the appropriate prominence in the auditor’s report.”(したがって、この事項(限定意見または不適正意見の原因となった除外事項)の報告を、監査上の主要な検討事項の区分に記載された監査上の主要な検討事項から分離することは、監査報告書において除外事項に適切な目立ちをもたらす。)です。たとえ除外事項(虚偽表示)が監査上の主要な検討事項に該当する場合であっても、除外事項は限定意見または不適正意見の根拠区分に記載し、重要な検討事項は監査上の主要な検討事項の区分に記載するという当然なことを記述しているだけです。
 このような限定意見または不適正意見の根拠区分の記載や監査上の主要な検討事項の区分の記載が利用者にとって目立つことになり、それによって有用な情報を提供できるということと解します。
 また、監査人が限定意見または否定的意見を表明する場合にも、限定意見又は否定的意見を表明する原因となる事項に加え、その他の事項について監査上の主要な検討事項として報告を行うことは、想定される財務諸表の利用者の監査に関する理解を高めることにつながる。したがって、このような場合にも、監査上の主要な検討事項の決定に関する要求事項が適用される(A7項)としています。
 この規定文も、除外事項とその他が共に監査上の主要な検討事項として報告されると理解してしまうように思います。そのため、ISAを参照すると”When the auditor expressed a qualified or adverse opinion, communicating other key audit matters would still be relevant to enhancing intended users’ understanding of the audit, and therefore the requirements to determine key audit matters apply.”(監査人が限定意見または不適正意見を表明するとき、(除外事項以外の)監査上の主要な検討事項を報告することは、監査についての想定利用者憲明を高めることにまだ関連しており、それゆえに監査上の主要な検討事項を決定するための要求事項が適用される。)です。これは、除外事項以外の監査上の主要な検討事項がある場合、当該検討事項を監査上の主要な検討事項の区分に記載することを記述しているだけです。監基報からはこのような単純な記述とは読み取れません。

48.不適正意見の表明
 さきのA7項に続く「ただし書き」として、否定的意見を表明する場合には、特に以下の点を考慮する(A7項)としています。(以下の考慮事項に関する記述は加筆しています。)
 ・監査人は、否定的意見(不適正意見)を表明する原因となる事項(重要な虚偽表示)の影響の大きさに鑑み、その事項以外には監査上の主要な検討事項に該当する事項は存在しないと判断する場合は、「監査上の主要な検討事項」区分に、「不適正意見の根拠」に記載されている事項を除き、監査上の主要な検討事項は無い旨を記載する。
 ・監査人は、否定的意見(不適正意見)を表明する原因となる事項(重要な虚偽表示)以外にも監査上の主要な検討事項が存在すると決定した場合、除外事項(重要な虚偽表示)を「不適正意見の根拠」区分に記載し、検討事項を「監査上の主要な検討事項」区分に記載するが、財務諸表全体の信頼性が高まるという誤った印象を与えないようにすることが特に重要である。

 この規定は、否定的意見を表明する場合の考慮事項というよりも、監査報告書の書き方を記述しているだけです。

49.強調事項
 監査人が「「強調事項」区分又は「その他の事項」区分を記載する必要があると判断した場合、「強調事項」区分または「その他の事項」区分は、監査報告書において、監査上の主要な検討事項」区分とは別に記載される。ただし、一つの事象が監査上の主要な検討事項であると同時に、強調事項又はその他の事項に該当する場合、監査上の主要な検討事項として記載することとなる(A8項)としています。
 監査人が監査報告書に「強調事項」または「その他の事項」を記載すると決定した場合には、それぞれの記載区分に記載することが原則ですが、当該事項が監査上の主要な検討事項でもあるときは、「監査上の主要な検討事項」区分に記載することを規定しています。
 しかし、監査上の主要な検討事項の重要さを考えると、その事項が強調事項やその他の事項と重複すると判断されることは実務上あり得ないであろうと解します。

50.監査上の主要な検討事項がない場合の記載
 監査人は、企業および監査に関する事実および状況を踏まえて、報告すべき監査上の主要な検討事項がない場合(9項、13項参照)、(除外事項付意見を表明する原因となる事項または継続企業の前提に関する重要な不確実性)以外に監査上の主要な検討事項がない場合(14項参照)、または、個別財務諸表の監査報告書において監査上の主要な検討事項の内容等の記載を省略している場合(12項参照)には、監査報告書に「監査上の主要な検討事項」の見出しを付した区分を設けて、その旨を記載しなければならない(15項参照、括弧書き追加)としています。
 要求事項は、報告すべき監査上の主要な検討事項がない場合には、監査報告書の「監査上の主要な検討事項」区分に、当該事項が無い旨を記載することを求めています。
 それにもかかわらず、報告すべき監査上の主要な検討事項がない場合について、監査上の主要な検討事項は、監査人が特に注意を払った事項の相対的な重要性に基づいて判断される。したがって、上場企業の監査において、監査人が監査役等とコミュニケーションを行った事項の中には、監査報告書において報告すべき監査上の主要な検討事項がないと判断することはまれであり、少なくとも一つは存在していると考えられる。しかしながら、例えば、企業の実質的な事業活動が極めて限定される状況においては、監査人が特に注意を払った事項がないため、…監査上の主要な検討事項がないと監査人が判断することがある(A59項)としています。
 まず指摘しておくべきことは、「上場企業」とあるのはISAの“a listed entity”の訳出ですが、我が国では監査上の主要な検討事項の記載が「法令により監査報告書において監査上の主要な検討事項の記載が求められる監査」(5項)に適用されますが、具体的には、上場企業の監査(金商法監査)に限定されずに会社法の会計監査人の監査にも任意で適用されることが想定されているため、「企業」と記述すべきと解します。
 A59項は、監査上の主要な検討事項の決定プロセスは、監査人が監査計画の立案に際して特に注意を払った事項を抽出し、その重要性を勘案して特に重要と判断した事項について監査役等とのコミュニケーションを介して、監査上の主要な検討事項を決定することをあらためて記述しています。次いで、監査役等とのコミュニケーションを行った複数の特に重要と判断した事項から「少なくとも一つ」の監査上の主要な検討事項を決定することが想定されています。換言すると、監査人が監査上の主要な検討事項が無いと判断できる状況は、企業の実質的な事業活動が極めて限定され、特に注意を払った事項がないことは極めて稀な場合としていると解します。
 したがって、通常の監査の場合、監査上の主要な検討事項の数は、少なくとも一つから多くて数点(a smaller number)までの間と解します。

51.監査上の主要な検討事項がないと監査人が判断した場合の記載例
 9項に規定されているように、監査上の主要な検討事項がないと監査人が判断した場合、および13項に規定されているように、監査上の主要な検討事項を監査報告書において報告しないと監査人が判断しており、また、それ以外に監査上の主要な検討事項がないと判断している場合の監査報告書の記載例は次の通りです(A57項、A58項参照)。

監査上の主要な検討事項
 監査上の主要な検討事項とは、(中略)・・個別に意見を表明するものではない。
 当監査法人は、監査報告書において報告すべき監査上の主要な検討事項はないと判断している。

52.監査上の主要な検討事項として決定した事項が「監査上の主要な検討事項」区分以外で報告した事項のみである場合の記載例
 14項に規定されているように、監査上の主要な検討事項として決定した事項が「監査上の主要な検討事項」区分以外で報告した事項(除外事項付意見を表明する原因となる事項または継続企業の前提に関する重要な不確実性)のみである場合の監査報告書の記載例は次の通りです(A57項、A58項参照)。

監査上の主要な検討事項
 監査上の主要な検討事項とは、(中略)・・個別に意見を表明するものではない。
 当監査法人は、「[除外事項付意見]の根拠」区分(または「継続企業の前提に関する重要な不確実性」区分)に記載されている事項を除き、監査報告書において報告すべき監査上の主要な検討事項はないと判断している。

53.個別財務諸表の監査報告書において記載を省略している場合の記載例
 12項のただし書きに規定されているように、連結財務諸表および個別財務諸表の監査を実施しており、連結財務諸表の監査報告書に記載されている監査上の主要な検討事項と同一内容であるため個別財務諸表の監査報告書においてその記載を省略している場合の監査報告書の記載例は次の通りです(A57項、A58項参照)

監査上の主要な検討事項
 監査上の主要な検討事項とは、(中略)・・個別に意見を表明するものではない。
xxx(小見出し)
 連結財務諸表の監査報告書に記載されている監査上の主要な検討事項(参照番号xx)と同一内容であるため、記載を省略している。

54.監査役等とのコミュニケーション
 監査人は、以下に関して監査役等とコミュニケーションを行わなければならない(16項)としています。
 (1)監査人が、監査上の主要な検討事項と決定した事項
 (2)企業及び監査に関する事実及び状況により、監査報告書において報告すべき監査上の主要な検討事項がないと監査人が判断した場合はその旨

 監査人が監査役等とコミュニケーションを適時に行わなければならないことは監基報260「監査役等とのコミュニケーション」によって求められています。それに関連して、監査上の主要な検討事項に関するコミュニケーションの適切な時期は、業務の状況により様々である。しかしながら、監査人は、計画した監査の範囲と実施時期についてコミュニケーションを行う際に、通常、監査上の主要な検討事項となる可能性がある事項についてもコミュニケーションを行う。また、これらの監査上の主要な検討事項となる可能性がある事項については、監査の過程で新たに追加したものを含め、監査上の発見事項を報告する際に更にコミュニケーションを行うこととなる。これらにより、財務諸表の発行に向けた最終段階における、監査上の主要な検討事項についての議論がより円滑になる(A60項)としています。
 監査上の主要な検討事項に関する監査役等とのコミュニケーションを、監査計画を立案したとき、監査の実施中に追加したとき、発見事項を報告するときおよび財務諸表の作成の最終段階(監査の最終段階)において実施することをあらためて記述しているだけです。したがって、監査人は、監査上の主要な検討事項に関連して、監査の実施プロセスの様々な段階で、必要に応じて、監査役等とのコミュニケーションを行うことが必要ということです。もっとも、監査上の主要な検討事項に関連していなくとも、監査人は監査役等とのコミュニケーションを密に行うことが必要です。
 余談ですが、そのコミュニケーションは、対等な立場での二方向の対話形式によることが望ましいのですが、最後の段落がISAでは“Doing so may help to alleviate the practical challenges of attempting to have a robust two-way dialogue about key audit matters at the time the financial statements are being finalized for issuance.”(そうすることが、財務諸表の発行に向けて最終としているときに、監査上の主要な検討事項についての率直な二方向の対話を行うことを試みるという実務的なチャレンジを楽にすることに役立つことがある)と記述しているところをみると、必ずしもそうではないようです。その点、監基報は「議論がより円滑になる」と巧く対応していると思います。

55.監査役等への貢献
 監査人とのコミュニケーションを通じて、監査役等は、監査人が監査報告書において報告することを想定している監査上の主要な検討事項を認識し、必要に応じて理解を深める機会を得ることができる。監査役等との協議を促進するために、監査報告書の草案を監査役等に提示することは有用である。そのような監査人とのコミュニケーションにより、監査役等は、監査上の主要な検討事項に関する監査人の判断の根拠および当該事項が監査報告書において、どのように記述されているかを理解することができ、それが、監査役等が財務報告プロセスを監視する重要な役割を果たすことにつながる。また、監査人とのコミュニケーションによって、監査役等は、監査上の主要な検討事項が監査報告書において報告されることを踏まえて、当該事項に関連する追加的な情報を開示することが有用かどうかの検討に役立てることができる(A61項)としています。
 この規定は、監査役等が監査人とコミュニケーションを行うことによって得られる有用な点を記述していますが、監査役等がこのように思うかどうかは監査人の知り得るところではありません。監査の実施に関連しない監査人サイドの憶測を規定する意味はあまりないように思います。

56.監査役等とのコミュニケーションに際しての留意事項
 監査役等とのコミュニケーションに際しての留意事項として、16項(1)の監査役等とのコミュニケーションには「監査上の主要な検討事項と決定された事項について、監査報告書において報告しない極めて限定的な状況の場合も含まれる(13項、A54項参照)(A62項)としています。
 また、16項(2)に規定されているように、監査人が監査報告書において報告すべき監査上の主要な検討事項がない旨について監査役等とコミュニケーションを行う場合には、監査人は、当該監査及び監査上の主要な検討事項ではない重要な事項に精通している他の者(審査担当者を含む。)とより慎重に協議することがある。当該協議により、監査上の主要な検討事項がないという決定を、監査人が見直すことがある(A63項)としています。
 これらの留意事項について特段のコメント等はありませんが、なくとも良い規定と思います。

57.監査調書
 監査人は、監査調書に以下を含めなければならない(17項)としています。
 (1)監査人が特に注意を払った事項および監査上の主要な検討事項となるかどうかの監査人の決定の根拠
 (2)監査報告書において報告する監査上の主要な検討事項がないと監査人が判断した場合、または報告すべき監査上の主要な検討事項が除外事項もしくは継続企業の前提に関する重要な不確実性以外にない場合はその根拠
 (3)監査上の主要な検討事項であると決定された事項について監査報告書において報告しないと監査人が判断した場合はその根拠

 上記の監査調書に記載すべき事項のうち(2)と(3)のそれぞれの根拠の記載についての読み解きは不要と思います。
 (1)の監査上の主要な検討事項の決定に関して、監査役等とコミュニケーションを行った事項の中から監査人が特に注意を払った事項を決定すること、及び監査人が特に注意を払った事項から、更に監査上の主要な検討事項を決定することが含まれる(A64項)としています。したがって、監査調書に記載するのは、監査人が特に注意を払った事項、その中から決定し監査役等とのコミュニケーションの対象とした特に重要と判断した事項、および監査役等とのコミュニケーションを勘案して決定した監査上の主要な検討事項に係るそれぞれの決定の根拠です。
 そして、これらの監査人の判断の根拠は、通常、監査役等とのコミュニケーションに関する監査調書、個別の事項の監査調書(A39項参照)、およびこれら以外の重要な事項に関する監査調書に記載される(A64項)としています。
 さらに、監査役等とコミュニケーションを行った事項のうち、監査人が特に注意を払った事項としなかったものについて、その理由を監査人が文書化することは要求していない(A64項)としています。この規定は、監査人が特に注意を払った事項に該当しないと判断した根拠を監査調書に記載する必要がないということです。
 この規定を穿って解釈すると、特に注意を払った事項のうち特に重要と判断した事項に該当しないとした事項、また、特に重要と判断した事項のうち監査上の主要な検討事項として決定しなかった事項について、その理由を監査調書に記載することが必要となります。

以上

 ようやく監基報701の読み解きを終了することができました。
 来月から、監基報200を読み解いていきます。

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