2019年 監基報200 読み解き(その8)

 今回は、職業専門家としての懐疑心の保持の効果、職業的懐疑心としての監査証拠の批判的な評価、監査証拠として利用する情報の信頼性、職業的懐疑心と経営者の誠実性、および職業的懐疑心の程度について読み解きます。

35.職業専門家としての懐疑心の保持の効果
 監査の過程を通じて職業的懐疑心を保持することは、例えば、監査人が以下のリスクを抑えるために必要である(A18項)としています。
 ・通例でない状況を見落とすリスク
 ・監査手続の結果について十分な検討をせずに一般論に基づいて結論を導いてしまうリスク
 ・実施する監査手続の種類、時期及び範囲の決定およびその結果の評価において不適切な仮定を使用するリスク
 職業的懐疑心の保持によって例示のリスクを抑えることができるということは、職業懐疑心、すなわち監査人の姿勢としての「疑問を持つ心構え」(a questioning mind)を保持することの効果にほかなりません。また、職業的懐疑心は保持するだけでは意味がないため、当然に発揮することを包含していることに留意が必要です。したがって、職業的懐疑心の保持は、職業的懐疑心の保持・発揮を意味していると解することが必要です。
 最初の項目に関して、監査人は漫然と監査を実施するのではなく、メリハリを利かせて実施するためにも、職業的懐疑心(疑問を持つ心構え)を常に保持・発揮することによって緊張感をもって監査を実施して、通例でない状況(異常な状況)を見落とないようにすることが必要です。
 通例でない状況(異常な状況)に気づくことができるためには、通例の状況について十分に理解しておくことが必要です。これは、監査人が企業とその環境(内部統制を含む。)をどこまで十分理解しているかにかかっています。
 「疑問を持つ心構え」を発揮した質問や分析的手続(趨勢分析または比率分析)の実施によって些細な通例でない状況(異常な状況)に気付いた場合には、「疑問を持つ心構え」のレベルを一段あげて発生しているかもしれない虚偽表示の態様(what can go wrong)に対応する監査手続を実施して重要な虚偽表示の端緒や兆候に気付く、あるいは当該端緒や兆候がないことを確かめるためことが必要です。なお、通例でない状況(異常な状況)が必ず虚偽表示につながるわけではないことを念頭に持っていることも必要です。
 さらに、重要な虚偽表示の端緒や兆候に気付いた場合、「疑問を持つ心構え」のレベルをさらにもう一段あげて、発生が予想される虚偽表示の態様に対応する監査手続を実施して重要な虚偽表示が実際に存在するかどうかを確かめます。重要な虚偽表示が実際に存在する可能性が高まった場合には、不正リスクまたは特別な検討を必要とするリスクは最高レベルにまで高まり、職業的懐疑心は「疑問を持つ心構え」から「疑義・疑念」に変わります。
 2番目の項目は、例えば、売掛金残高確認の回答が確認依頼金額に合致しているとき、その確認回答の信頼性を確かめずに、確認結果に問題なしと結論付けてしまうように、実施した監査手続の結果について十分な検討をしないで安易に虚偽表示がないと結論付けてしまうリスクです。
 また、このリスクは、事業所の視察や業務の観察によって監査証拠が入手できるものの、視察や観察を行っていないときに同一の業務遂行等が行われていると判断できないという観察手続の限界に関連するリスクにも関係すると思います。
 最初の項目と2番目の項目に関連するリスクは、監査手続の実施方法や入手した監査証拠の評価に職業的懐疑心(疑問を持つ心構え)を保持・発揮していれば回避できるということになります。しかし、このような評価の問題は職業的懐疑心の問題というよりも、実施する監査手続の選択の問題(後述する「監査判断」の問題)であり、監査手続の性質や効果に関する監査人の理解の問題と思います。
 それのもかかわらず、監査手続の実施結果として監査人が知りえた情報や状況に基づいて判断せざるを得ないため、常に、そうではない情報や状況があり得るのではないかと疑問を持つことが必要であるということであれば、それは職業的懐疑心の発揮の一端です。2番目の項目はこのようなことを述べているものと解います。
 3番目の項目の「実施する監査手続やその範囲と実施時期の決定…において不適切な仮定を使用するリスク」は、監査計画の立案の一環として監査手続書を作成する際に不適切な仮定を使用するリスクです。
 監査計画の策定・立案に際して決定される、監査上の重要性、重要な虚偽表示のリスクなどの決定はいずれも監査人の判断すなわち予断(予めの判断)であることに留意が必要です。この監査人の予断は、仮定や推定と言い換えることもできます。
 継続監査の場合、当期監査の監査計画(監査手続書の作成を含む。)の立案に際して、重要な変更がないことを確かめた前期の監査で入手した情報や理解に基づいて、前期と同様の状況を前提または仮定することが通常です。これは、前期の監査において入手した監査証拠と同等のレベルの有効な監査証拠を入手できると判断(想定)していることであり、「入手しようと計画している監査証拠の評価」(監査証拠の有効性の事前評価)に関連しています。
 この監査証拠の有効性の事前評価において不適切な仮定を使用することは、前期監査で入手した情報や理解に重要な変更があったり、会社の経営環境が著しく変化していたりしているにもかかわらず、そのような重要な変更や著しい変化に気付かずに前年度と同様の状況を前提または仮定することです。
 監査証拠の有効性の事前評価結果は監査人の「予断」(予めの判断)にほかなりません。そのため監査人は、監査の実施・進捗につれて、当該予断が依然として有効であるかどうかを常にチェックすることが必要です。このことを職業的懐疑心の発揮といえばいえるのかも知れません。
 また、監査手続の実施結果の評価において不適切な仮定を使用するリスクは、入手した監査証拠の十分性と適切性の評価に際して不適切な仮定を使用するリスクですが、このリスクが何を指しているのかが十分理解できません。監査サンプリングによって監査手続を実施して、その結果に基づいて母集団における虚偽表示やコントロールの逸脱数(割合)の算定に際して不適切な仮定を使用する場合などが考えられます。しかし、このようなことを述べているにかどうか定かではありません。いずれにせよ、入手した監査証拠の十分性と適切性の評価に際して何らかの間違いを生じさせないように、監査証拠に対する批判的な評価としての職業的懐疑心を保持・発揮することを求めているものと解します。

36.職業的懐疑心としての監査証拠の批判的な評価
 職業的懐疑心は、監査証拠を批判的に評価するために必要である。これは、監査証拠の矛盾や、記録や証憑書類の信頼性、または経営者や監査役等から入手した質問への回答又はその他の情報の信頼性について、疑念を抱くことを含む(A19項)としています。この記述は、職業的懐疑心の監査証拠に対する批判的な評価に関する説明にほかなりません。また、すでに読み解いたように、「疑念を抱くこと」(questioning)は、疑うことではなく、疑問を持つことです。
 職業的懐疑心としての監査証拠に対する批判的な評価は、十分性と適切性との観点から、入手した(入手する)監査証拠を批判的に評価することであり、入手した(入手する)十分な監査証拠の信頼性(有効性)について、関連する証拠との間に矛盾はないかあるいは証拠として疑義はないかと批判的に検討することです。
 余談ですが、マウツ・シャラフが職業的懐疑心を監査論に導入したのは、監査証拠の批判的評価を記述するためだったことを踏まえると、職業的懐疑心は監査証拠に対する批判的な評価と切り離すことができないと言えるのかもしれません。そのように理解すると、職業的懐疑心の構成要素としての「疑問を持つ心構え」を具体的に監査の計画、実施に際して監査人の行為として発現させることの一つが「監査証拠に対する批判的な評価」であると考えます。
 それゆえに、職業的懐疑心の二つの構成要素である「疑問を持つ心構え」と「監査証拠の批判的な評価」はそれぞれ切り離して別々に考えるよりも、二つの構成要素は渾然一体として機能する(保持・発揮される)と理解することが必要であろうと考えます。したがって、監基報のように、監査証拠を鵜呑みにしないこと(「疑問を持つ心構え」)が、監査証拠に対する批判的な評価に包含されていると理解することは、職業的懐疑心の重要な部分が強調されなくなることには賛成しがたい。
 また、例えば、不正リスク要因が存在し、かつ、その性質上不正の可能性がある単独の記録や証憑書類が財務諸表の重要な金額を裏付ける唯一の証拠である場合など、その状況に照らして、入手した監査証拠の十分性と適切性について検討することを含む(A19項)としています。
 監査証拠を批判的に評価することは、監査証拠の十分性と適切性について批判的に評価することであるため、その評価は監査証拠を入手した状況に照らして批判的に検討することです。このような批判的な評価は、どんな状況であってもその状況に照らして行われることは当然です。
 例示は、不正リスク要因があり、その要因に関係する単独の記録・証憑種類が不正の可能性がある事象・取引に係る唯一の監査証拠であり、他の監査証拠が存在しない(他の監査証拠を入手できない)場合です。この場合には、監査人は、唯一の監査証拠が不正による重要な虚偽表示の存在を否定する監査証拠(反証)であるかどうかを判断しなければなりません。
 唯一であっても監査証拠がある場合には、その記録や証憑書類が偽造・変造されていることが明らかな場合を除き、不正による重要な虚偽表示が存在すると判断することに監査人は躊躇すると思います。しかし、不正リスク要因に関連する不正が行われている可能性を否定できないという状況証拠により、不正による重要な虚偽表示が存在する可能性を否定できないときには、唯一の監査証拠が十分かつ適切な監査証拠であると判断できないと思われるため、監査人は、十分かつ適切な監査証拠を入手できなかったことをもって、限定付意見または意見不表明(意見差控え)を表明するかどうかを検討することになります。

37.監査証拠として利用する情報の信頼性
 監査証拠の評価に関連して、監査人は、記録や証憑書類の真正性に疑いを抱く理由がある場合を除いて、通常、記録や証書類を真正なものとして受け入れることができる。しかしながら、監査人は、監査証拠として利用する情報の信頼性を検討することが要求される(A20項)としています。
 監査人は、監査証拠として利用する情報(証拠資料(evidential matter))である記録や証憑書類が偽造・変造されている可能性があると判断する場合を除き、証拠資料を正しく事象・取引を裏付けていると判断できるが、証拠資料の信頼性を検討することが必要であるとしています。留意すべきことは、記録や証憑書類が偽造・変造されている可能性があると判断する場合にその信頼性を検討するのみでなく、すべての証拠資料の信頼性を検討することです。
 監査証拠として利用する情報(information to be used as audit evidence)は、監査証拠そのものではなく、監査証拠として利用される情報です。したがって、それは、入手する監査証拠を意味します。監基報500「監査証拠」6項は、監査証拠の証明力(reliability of audit evidence)と監査証拠として利用される情報の信頼性(reliability of information to be used as audit evidence)を峻別しています。詳細は監基報500において読み解きますが、私見では、いずれも質の評価ですが、監査証拠は監査手続を実施した後に入手され、その評価が証明力です。一方、監査証拠として利用する情報は、監査手続を実施する以前の監査計画の策定・立案に際して監査証拠として利用できるか(入手できるか)を検討して、その信頼性(立証力)を評価することであると解します。
 そうであれば、監査証拠として利用(入手)しようと予定している情報(証拠資料)の十分性および適切性(有効性(validity))とともに、その信頼性(立証力)を評価することが、証拠資料が偽造・変造されている可能性はない場合であっても必須です。A20項はこのことを記述していると解します。
 また、監基報は、情報の信頼性に疑義(doubt)がある、または不正の可能性の兆候がある場合(例えば、監査の過程で把握した状況により、ある記録や証憑書類が真正でないと疑われる場合、または偽造されていると疑われる場合)、監査人に対し、さらに調査を実施し、問題事項を解消するため監査手続の種類、時期および範囲に修正または追加が必要であるか否かを決定することを要求している (A20項)としています。
 この規定文は、監査証拠として利用する情報ではなく、職業的懐疑心を保持・発揮して、監査手続の実施により入手した監査証拠が偽造・変造されている可能性などが疑われる場合には、監査手続を追加するかどうかの検討が必要なことを記述していると解します。

38.職業的懐疑心と経営者の誠実性
 監査人が、過去の経験に基づいて、経営者、取締役等および監査役等は信頼が置ける、または誠実であると認識していたとしても、それによって職業的懐疑心を保持する必要性が軽減されるわけではなく、また、合理的な保証を得る際に心証を形成するに至らない監査証拠に依拠することが許容されるわけでもない(A21項)としています。
 この規定がISA200 A24項とは些かニュアンスが異なっているように思います。ISA200 A24項は”The auditor cannot expected to disregard past experience of the honesty and integrity of the entity’s management and those charged with governance. Nevertheless, a belief that management and those charged with governance are honest and have integrity does not relieve the auditor of need to maintain professional skepticism or allow the auditor to be satisfied with less than persuasive audit evidence when obtaining reasonable assurance.”(監査人は、企業の経営者およびガバナンスを担う人々の正直さおよび誠実性に関する過去の経験を無視することを期待されていない。それにもかかわらず、経営者およびガバナンスを担う人々が正直であり誠実であるという信念は、職業的懐疑心を保持する必要性について監査人を救済(軽減)しないし、合理的保証を入手するときに説得力の低い監査証拠に満足することを監査人に許容しない。)です。
 心証を形成するに至らない監査証拠は”less than persuasive audit evidence”(私見では、説得力の低い監査証拠)です。この証拠は、さきに見た、心証的証拠(私見の説得的証拠)(persuasive audit evidence)のうち信頼性(証明力)(reliability)の低い監査証拠のことです。私見では、このような監査証拠は、信頼性のない監査証拠であるため、監査人の心証を形成させる監査証拠ではありません。
 規定は、さきに読み解いた、2004年12月改定ISA200 16項の前身である2001年改定ISA200 6項は、監査を計画し、実施するに当たって、監査人は、経営者が正直でないとかあるいは問題なく正直であると仮定しない、としていました。この規定は2003年10月のISA200改定に際しても修正されていませんでした。しかし、2004年12月改定ISA200 16項において上記のように改定されました。この規定の記述内容は、ISA240 25項(現行の13項)とほぼ同一でした。さらに、2004年12月改定ISA200 16項およびクラリティ版ISA200 A23項に基づいて制定された監基報200において上記のように規定されています。
 2001年改定ISA200 6項の、監査を計画し、実施するに当たって、監査人は、経営者が正直でないとかあるいは問題なく正直であると仮定しないという記述が、いわゆる「中立概念(neutral concept)」を意味していると説明されていました。また、すでに述べたように、平成14年改訂監査基準への対応の実質的最後の実務指針として、2003年(平成15年)3月に公表された監査基準委員会報告書第24号「監査報告」の職業専門家としての懐疑心も中立概念としての懐疑心でした。
 この中立概念は、2004年12月改定ISA200 16項(我が国では監基報200の公表)により今日では、変更あるいは消滅したと理解すべきなのでしょうか。筆者は、監基報では翻訳が省略されている、上記のISA200の「監査人は企業の経営者およびガバナンスを担う人々の正直さと瀬実さに関する過去の経験を無視することを期待されていない」としていることは、監査人が前期監査において経営者等が正直であり誠実であると形成した心証を、当期監査に際して払拭することはできないため、そもそも中立概念のように仮定することが監査人にとって無理があったと解します。
 そのため、経営者が正直であり誠実であるという信念は、職業的懐疑心を保持する必要性について監査人を救済(軽減)しない(監基報の「職業的懐疑心を保持する必要性が軽減されるわけではない」)スタンスに変更され、過年度の監査において経営者等が正直であり誠実であると形成した心証を無理やり払拭することを求めずに、職業的懐疑心の保持を強調しているのであって、その背後には、依然として中立概念としての懐疑心が存在していると解します。また、重要なことは、「合理的な保証を得る際に心証を形成するに至らない監査証拠に依拠することが許容されない」、すなわち十分かつ適切な監査証拠の入手を求めていることです。これは、クラリティ版ISAが強調する十分かつ適切な監査証拠に関連して規定されていると解します。
 したがって、当期の監査において、監査人が経営者、監査役等またはその他の役職者などが正直であり誠実であると信じていても、経営者などから入手した質問への回答その他の情報(証拠)の信頼性について、疑念を抱いたり(すなわち、十分かつ適切な監査証拠であるかどうかを監査人が自分自身に疑問を投げかけること)、批判的に評価・検討したりして、その質問への回答その他の情報(証拠)の十分性と適切性について評価することです。すなわち、経営者等の質問への回答や説明等を鵜のみにしないで関連する裏付けを入手することであり、入手した監査証拠の信頼性(証明力)の程度に納得(満足)することです。このことは、いわゆる中立概念そのものであると考えます。

39.職業的懐疑心の程度
 監査における不正リスク対応基準は、監査人は、職業的懐疑心を高め、不正による重要な虚偽の表示の疑義に該当するかどうかを判断し、当該疑義に対応する監査手続を実施しなければならない(第一 5)と規定して、その趣旨について、監査手続を実施した結果、不正による重要な虚偽の表示の疑義に該当するかどうかを判断する場合や、不正による重要な虚偽の表示の疑義に該当すると判断した場合には、職業的懐疑心を高めて監査手続を実施することを求めている(前文二4(2))としています。
 この規定から、不正による重要な虚偽の表示の疑義に該当するかどうかを判断する場合または不正による重要な虚偽の表示の疑義に該当すると判断した場合を除き、職業的懐疑心の程度(レベル)を高めなくとも良いことになります。つまり、職業的懐疑心の程度は上げ下げできることになります。
 職業的懐疑心の程度を具体的にどのように上げ下げするのか、またその程度はどれくらいかについては不明ですが、例えば、虚偽表示リスクの程度(度合)と職業的懐疑心のレベルを関連付けると次のようになると考えられます。
 予想する虚偽表示の発生可能性がほとんどない場合-職業的懐疑心は低い
 予想する虚偽表示の発生可能性があまりない場合-職業的懐疑心は中程度
 予想する虚偽表示の発生可能性がありそうな場合-職業的懐疑心は高い
 このように理解すると、財務諸表項目に関連するアサーションごとに職業的懐疑心の程度が異なってしまうことが想定できます。また、監査全体では、多様な職業的懐疑心の程度が混在することとなり、監査人および監査チーム・メンバーの混乱要因になってしまうようにすら思います。
 それゆえ、職業的懐疑心の程度は、高めたり低めたりするのではなく、監査リスクを低く抑えて十分かつ適切な監査証拠を入手するために、正当な注意や独立性とともに監査の実施に際して監査人が常に相応の高い程度で保持・発揮していなければならないと解します。つまり、監査人は財務諸表に重要な虚偽表示があるかもしれないことを前提に監査を実施することが職業的懐疑心の保持・行使であると解します。
 もっとも、予想する虚偽表示の発生可能性がありそうな場合には、少なくとも関連するアサーションについて、一定の高い程度をさらに高めることが求められます。それは監査の実施に際しての心構えを強化して、監査手続を実施して実際に虚偽表示が存在するかどうか、存在する場合にはどれほどの大きさかを確定させることです。このことは、さらに高める懐疑心の程度はさほど大きくなく、監査対応をとる際の意識や感覚あるいは緊張感の相違を示しているように思います。それゆえに、場合によっては相応の高い程度を高めることなく監査対応することで問題ないこともあります。
 また、虚偽表示がありそうだとの疑念・疑義が生じている場合であっても中立概念としての職業的懐疑心を行使しますが、その程度は疑念・疑義としての懐疑心と同じ程度になると解します。したがって、両者の職業的懐疑心の程度にはさほどの相違はないように解します。
蛇足ながら次のことに留意ください。財務諸表には重要な虚偽表示がないと判断する(想定する)ことは、今日のリスク・アプローチ(risk based approach)の下ではできません。財務諸表に重要な虚偽表示があり得ることを前提とした監査を実施することが求められています。反対に、財務諸表に重要な虚偽表示が存在すると判断する(疑念をもつ)ことは、監査人が重要な虚偽表の存在を監査実施以前に知り得ている状況ですから、会計不正か誤謬かにかかわらず、財務諸表監査の着手を延期・休止して、直ちに不正調査と同様の作業等に取り掛かることが必要と解します。その作業は財務諸表監査の範疇には含められないと考えます。
 なお、監査人は、重要な虚偽表示のリスクを適切に識別・評価するため、また、監査手続の実施に際して重要な虚偽表示の兆候や疑義の存在に気づくために、なによりもリスク感覚を研ぎ澄ますことが肝要と考えます。


 次回は、職業専門家としての判断、職業専門家が判断する事項、職業専門家としての判断の行使、十分かつ適切な監査証拠と監査リスクなどについて読み解きます。

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