2019年 監基報220 読み解き(その1)

 今回から、監基報220「監査業務における品質管理」の読み解きを開始します。初回は、「はじめに」において監基報の制定・改正を説明し、監基報220の範囲、監査の品質、品質管理のシステム、監査チームの役割、監基報220の目的、定義、品質管理に関する責任、職業倫理およびチーム・メンバーが遵守していない場合の対応について読み解きます。

はじめに
 監基報220「監査業務における品質管理」(以下、監基報220という。)は、国際監査基準(ISA)のクラリティ版への改正に対応するため、監査基準委員会報告書の新起草方針に基づいて2011(平成23)年12 月に制定しました。その後、2013(平成25)年3月に制定された企業会計審議会「監査における不正リスク対応基準」(以下「不正リスク対応基準」という。)およびそれに伴う監査基準改訂に対応するために2013(平成25)年6月に改正され、2015(平成27)年5月に監査等委員会の加筆のための一部改正が行いました。さらに、2019(平成31)年2月27日に監基報701の「監査上の主要な検討事項」の制定および監基報250の違法行為に関連した「違法行為への対応に関する指針」の追加に伴い改正しました。
 監基報220の前身である監査基準委員会報告書第32号「監査業務における品質管理」は、2005(平成17)年10月に制定された企業会計審議会「監査に関する品質管理基準」に対応するために、2006(平成18)年3月に品質管理基準委員会報告書第1号「監査事務所における品質管理」(以下「品基報1号」という。)とともに公表しています。

1.監基報220の範囲
 監基報220は、監査事務所が品質管理基準委員会報告書第1号を遵守していることを前提として(2項)、個々の監査業務における年度監査と中間監査の品質管理および審査担当者に関する実務上の指針を提供し、職業倫理に関する規定と併せて適用します(1項参照)。また、「不正リスク対応基準」に準拠した監査の実施に際して遵守を求める適用指針(項番にFが付されている。)を含んでいます(1-2項参照)。
 監基報220は適用範囲を財務諸表監査(an audit of financial statements)の年度監査および中間監査に限定しています。財務諸表監査には財務諸表の適正性(適正表示)監査と特別目的の監査、および会社法の会計監査人監査(計算書類と連結計算書類)が含まれるため、これらの監査業務の年度監査または中間監査が対象であることは明らかです。
 このような適用範囲の限定は、国際監査基準(ISA)の範囲が財務諸表監査の年度監査(海外では中間監査は行われていない。)にとどまるため、1項の規定を首肯できます。しかし、我が国においては、財務諸表監査を実施している監査人は、内部統制監査、四半期レビューまたは監査業務に準じた業務(例えば、増資等に際しての証券会社への書簡の発行)も行っています。
 これらの業務も監基報220の適用範囲であると解します。そのため、監基報は我が国に適合した規定を行うことが必要と考えます。

2.監査の品質
 監基報において「監査の品質」について定義が無いようです。監査研究者は、種々の指標に基づいて監査の品質を測定しようとしています。また監査法人のガバナンス報告書等においてそのような指標によって監査の品質を確保できていることを説明しています。しかし、そのような試みは監査の局面や断面における品質であって、監査の品質全体を捉えていないと考えます。そのため、私見を吐露しておきます。
 監査の品質は、監査人が財務諸表の適正性(適正表示)監査を実施する際に、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準や指定国際会計基準(IFRS)に準拠して会計処理や開示しているかどうかを判断し、一般に公正妥当と認められる監査の基準に準拠して行動することによって確保されると説明されているため、監査の品質とは、GAAPおよびGAASに準拠した監査の結果である。
「監査の品質」は「監査の質」と同義に用いられています。監査論研究者の多くは「監査の質」を用いています。私見では、監査の質(audit quality)はGAAPおよびGAASに準拠した監査の結果であることに反論はしませんが、GAAPおよびGAASに準拠した監査であっても高質な監査(quality audit)であるとは考えません。GAAPおよびGAASに準拠した監査の実施によって最低限の監査の質を確保できますが、監査の質は監査人がどこまで納得できる監査を実施したかにかかっていると解しています。
 余談ですが、平成14年改訂監査基準「第二 一般基準」6に「監査が一般に公正妥当と認められる監査の基準に準拠して適切にされるために必要な質を管理(以下「品質管理」という。)」することが初めて規定されました。この平成14年改訂監査基準の議論に際して監査の質が問題とされたとき、JICPAが以前から「監査の品質」の用語を利用していたため、「監査の品質」が採用され、平成17年に制定された「監査に関する品質管理基準」に踏襲され確立しました。
 私見では、「品質」という用語は、品物の質ということであり、工業製品の品質のように統一された規格(standards)または画一的な製品といったイメージにつながり、監査の品質という用語から統一されたまたは画一的な監査を連想してしまうのは筆者の偏見でしょうか。私見を述べるときには「監査の質」を用いたいと思います。

3.品質管理のシステム
 監査事務所は、品基報第1号に準拠して、監査業務の品質を合理的に確保するために、品質管理システムを機能させる方針及び手続を整備・運用する責任を有する(2項参照)として、以下の事項を確保できる品質管理システムを構築しなければなりません。
 (1)監査事務所および専門要員が職業的専門家としての基準および適用される法令等を遵守すること。
 (2)監査事務所または監査責任者が状況に応じた適切な監査報告書を発行すること。

 監査事務所は、監査事務所および監査責任者・監査担当者(監査補助者や専門家)が一般に公正妥当と認められる監査の基準および金商法や会社法等の監査に関連する法令等を遵守して監査を実施して、適切な監査報告書を発行できるように品質管理システムを整備・運用することが求められています。
 監査事務所の品質管理システムの整備・運用について規制している品基報1号は、(1)品質管理に関する責任、(2)職業倫理および独立性、(3)契約の新規の締結および更新、(4)専門要員の採用、教育・訓練、評価および選任、(5)業務の実施、および(6)品質管理のシステムの監視に関する方針・手続を確立することを求めています(A1項参照)。
 監査事務所の品質管理システムについては、監基報の読み解きの範囲を越えているため、これ以上の詳細については言及しません。

4.監査チームの役割
 監査チームの構成員は、個々の監査業務に品質管理システムの方針・手続を適用し、関与先(client)に対する独立性に関連する情報を監査事務所に提供しなければなりません(3項参照)。
 また、監査チームは、監査事務所または第三者から品質管理のシステムに改善を要する事項が存在する旨の通知がない限り、例えば、専門要員の適性を確保するための採用及び研修、独立性を評価するための独立性に関連する情報の蓄積や伝達、関与先との契約を締結又は更新するための契約の締結及び更新のシステム、および適用される法令等を遵守するための監視のプロセスに関する品質管理システムの方針・手続に依拠できる(4項およびA2項参照)としています。
 「第三者から品質管理のシステムに改善を要する事項する旨の通知がない」ことは、監査公認会計士審査会の検査またはJICPA品質管理レビューによる改善事項の指摘がない場合です。また、監査事務所の改善の必要性は、監査事務所が自ら行っている品質管理のシステムの監視によって発見した改善事項による改善の必要性です。
 監査チームは、監査事務所の品質管理システムに準拠して個々の監査業務を実施しなければなりません。そのため、改善事項の通知を受領したときや改善中のときであっても改善前の品質管理システムを適用し、その改善後の適用日から改善後の品質管理システムに準拠することになります。

5.監基報220の目的
 監基報の目的は、監査業務の品質を合理的に確保するため、監査人が(1)職業的専門家としての基準及び適用される法令等を遵守すること、および(2)状況に応じた適切な監査報告書を発行すること関する品質管理の手続を個々の監査業務において適用することである(5項)としています。
 この目的は、2項の品質管理システムについて規定されているところと同一です。

6.定義
 用語の定義として、(1) 監査業務の定期的な検証、(2) 監査事務所、(3) 監査事務所外の適格者、(4) 監査責任者、(5) 監査チーム、(6) 社員等、(7) 職業的専門家としての基準および適用される法令等、(8) 審査、(9) 審査担当者、(10) 専門職員、(11) 専門要員、(12) 大会社等、(13) ネットワーク、(14) ネットワーク・ファーム、(15) 品質管理のシステムの監視、および(16) 我が国における職業倫理に関する規定が列挙されています(6項参照)。これらの用語のうち、類似した用語や理解しておくべき用語について、読み解きます。
 類似した用語として、(4) 監査責任者、(5) 監査チーム、(6) 社員等、(10) 専門職員および(11) 専門要員があげられます。
 監査責任者は、監査業務の責任者であり、社員は監査法人の業務執行社員であり、個人事務所や共同事務所の業務執行責任者のことです。専門職員は、監査業務に従事する社員等以外の者をいい、専門要員は社員等および専門職員全体をいいます。監査チームは、個々の監査業務に従事する者をいい、そのメンバーは、専門要員であり社員等および専門職員のことです。これらの用語には、監査事務所が雇用する専門家(会計または監査以外の分野において専門知識を有する個人)を含みます。
 理解しておくべき用語に、(7)職業的専門家としての基準および適用される法令等、(12) 大会社等、および(16)我が国における職業倫理に関する規定があります。
 (7)職業的専門家としての基準及び適用される法令等は、専門業務を実施するに当たって遵守しなければならない基準および適用される法令等をいい、監査基準・不正リスク対応基準(法令により準拠が求められている場合)・監査基準委員会報告書・監査に関する品質管理基準・品質管理基準委員会報告書、公認会計士法・同施行令・同施行規則、金融商品取引法、会社法、日本公認会計士協会が公表する会則・倫理規則・報告書・実務指針・通達その他から構成される、としています。これらの法令や基準が、我が国おける一般に公正妥当と認められる監査の基準を構成しています。
 なお、ISAの定義では、職業専門家の基準(professional standards)はISAsと関連した倫理上の要求事項(relevant ethical requirements)(7項(m))である、としています。
 (12) 大会社等は、ア全ての上場会社等、イ法令により、監査を実施するに当たり、上場会社等と同じ独立性の要件が求められる事業体、ウ独立性に関する指針第1部第26項により追加的に大会社等と同様に扱うこととした事業体である、としています。
 アの上場会社等の「等」は、非上場会社で有価証券報告書の提出義務を負っている会社です。イの事業体は、金商法監査の対象ではない、会社法上の会計監査人設置会社です。ウの独立性に関する指針によって大会社等と同様に扱われる事業体は、例えば、一定規模以上の信用金庫等の金融機関(独立性に関する指針(26項参照)です。
 公認会計士法上の大会社等は、会計監査人設置会社(ただし、資本金100億円未満かつ負債合計額1,000億円未満の会社を除く。)、金商法の規定により監査証明を受けなければならない会社(ただし、資本金5億円未満等の会社)、銀行、長期信用銀行、保険会社およびその他上記に準ずる会社(信用金庫連合会、労働金庫連合会、信用協同組合連合会、農林中央金庫等)です。
 この公認会計士法上の大会社等は、アおよびイの要件を満たしている(6項(12)参照)としています。したがって、大会社等には、公認会計士法上の大会社および一定規模以上の信用金庫が含まれる、ということです。
なお、ISAには大会社等の概念がないため、上場企業(7項g)に関する定義がされています。ISA220の適用範囲は上場企業の財務諸表監査に限定されています。したがって、6項(12)の規定は我が国に特有の規定です。
 (16)我が国における職業倫理に関する規定は、監査事務所ならびに監査チームおよび審査担当者が従うべき職業倫理に関する規定をいい、公認会計士法・同施行令・同施行規則、日本公認会計士協会が公表する会則、倫理規則、独立性に関する指針、利益相反に関する指針、違法行為への対応に関する指針及びその他の倫理に関する規定から構成される、としています。
 ISAの「関連する倫理上の要求事項」(relevant ethical requirements) (7項n)は、IESBA Codeに規定していますが、JICPAの倫理規則は、我が国の取扱いに基づいているためにCodeとは異なる規定を行っています。したがって、6項(16)の規定は我が国に特有の規定です。
 なお、(16)の定義は、監基報250の違法行為に関連した「違法行為への対応に関する指針」による一部文言の追加改正がされています。

7.品質管理に関する責任
 監査責任者は、監査事務所が定める品質管理のシステムに準拠し、実施する監査業務の全体的な品質に責任を負わなければならない(7項)としています。監査責任者は、監査業務の遂行に関するすべての責任を負いますから、当然に、監査事務所の品質管理システムに準拠して実施する監査の品質管理を行うとともにその品質に責任を負います。
 監査責任者は、実施する監査の品質を確保するために、監査チーム・メンバーへの適切なメッセージとして、(1)監査の品質が重要であるため、①職業的専門家の基準および法令等を遵守して監査を実施すること、②品質管理システムを遵守すること、③状況に応じた適切な監査報告書を発行すること、および④監査チーム・メンバーが不服と疑義を申立てても不当な取扱いを受けないことの強調、および(2)監査業務の実施において品質が重視されることについて伝達することが必要です(A3項参照)。
 (1)の①から③はすでに読み解いた事項です。④は、監査チーム・メンバーが監査の実施が品質管理システムに準拠していないこと、監査の基準に準拠していないまたは十分かつ適切な監査証拠を入手していないなどのために監査の品質が確保されていないことに気付いた場合に、監査事務所内のヘルプラインまたはホットライン(コーポレートガバナンスに関連して内部通報制度ともいわれています。)を通じて品質管理責任者に報告しても、報告者が不利とならないことを伝達することです。
 このような報告によって報告者が不当な対応を受けることはあってはならないことですが、それ以前に、些細な問題等でも気付いたり、発見したりした場合には、監査責任者やマネジャーに報告・相談できる監査チームであること、すなわち、風通しの良い監査チームを構築することが監査責任者やマネジャーの重要な仕事であると考えます。

8.職業倫理
 監査責任者は、監査業務の全ての局面において、必要に応じて質問等を行うことにより、監査チームのメンバーが監査事務所の定める職業倫理の遵守に関する方針及び手続を遵守していない形跡がないかについて留意しなければならない(8項)としています。
 監査責任者が、監査チーム・メンバー一人一人に職業倫理に関する方針・手続を遵守していないかを質問すれば、チーム・メンバーは監査責任者に対して不信感をもつかもしれません。そのため、「遵守していない」かどうかを質問するよりも、監査責任者自身を含めてチーム全員が「遵守しなければならない」ことを強調することの方が効果的と考えます。
 また、監査チーム・メンバーが職業倫理に関する方針・手続を遵守していない形跡があるかどうかは、監査責任者とマネジャーが、監査調書のレビューや監査チーム・メンバーとの協議や行動の観察を行うことによって知ることができます。
 なお、監基報は「必要に応じて質問等を行う」としていますが、ISAでは「観察および必要に応じて質問を行う」(observation and making inquiries as necessary)としています。その趣旨は、読み解きと同じと解します。
 ところで、監査事務所の定める職業倫理の遵守に関する方針および手続には、多くの場合、倫理規則、独立性に関する指針、利益相反に関する指針、違法行為への対応に関する指針などに規定されている事項、およびネットワークに所属している場合には、ネットワークの倫理に関する要求事項が含まれています。
 なお、倫理規則は、専門業務を実施するに際し、以下の基本原則の遵守を求めている(A4項)としています。
 (1)誠実性の原則
 (2)公正性の原則
 (3)職業的専門家としての能力及び正当な注意の原則
 (4)守秘義務の原則
 (5)職業的専門家としての行動の原則
 また、定義されている「監査事務所」、「ネットワーク」および「ネットワーク・ファーム」が、倫理規則等の職業倫理に関する規定に用いられている用語や定義と異なっていることがあること、独立性に関する指針には「ネットワーク」および「ネットワーク・ファーム」に関する指針が記載されていること、および8項から10項の要求事項を遵守するに当たっては、倫理規則および独立性に関する指針において定められている定義を参照することを留意事項としています(A5項参照)。
 A4項とA5項は、留意規定であり、監査の実施には関係していないので不要な規定と考えます。

9.チーム・メンバーが遵守していない場合の対応
 監査責任者は、監査事務所の品質管理のシステム等を通じて監査チームのメンバーが職業倫理に関する規定を遵守していないことに気付いたときには、適切な者へ専門的な見解の問合せを行うなどの適切な対応をとらなければならない(9項)としています。
 監査責任者は、監査チーム・メンバーが品質管理システムの職業倫理に関する規定を遵守していないことに気付いた場合、品質管理システムに規定されている専門的な見解の問い合わせ(consultation)を行うことを求めています。
 しかし、監査責任者またはマネジャーは、チーム・メンバー(監査補助者)が倫理に関する規定を遵守していないことに気付いたとき、専門的な見解を問い合わせる(相談協議)以前に、当該メンバーの行為が規定に違反していることを注意し、それを是正するための措置を講ずることが必要であると考えます。そして、是正措置を講ずることができない、または是正できないことが分かった時点で、監査責任者は、品質管理部門の責任者等と相談協議(consultation)して、事後処理の対策を講ずることが必要と考えます。
 なお、監基報は「適切な者へ専門的な見解の問合せを行うなど」としていますが、ISAでは「監査事務所の適切な者へ専門的な見解の問合せを行って(いる状態で)」(in consultation with others in the firm)適切な対応をとることを求めています。したがって、適切な対応が専門的な見解の問い合わせではなく、品質管理責任者等と協議相談を行いながら適切な対応をとることと解します。


 次回は、独立性、独立性に関する指針における阻害要因の検討、監査契約の新規締結と更新、独立性に関する指針における監査契約の締結または更新に関する阻害要因への対応その他について読み解きます。

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