2019年 監基報220 読み解き(その3)

 今回は、監査チームの選任、専門要員の教育・訓練の考慮、業務の指示、監督および実施、監査調書のレビューについて読み解きます。

17.監査チームの選任
 監査責任者は、職業的専門家としての基準及び適用される法令等に準拠して監査を実施し、状況に応じた適切な監査報告書を発行することができるように、監査チームと監査人が業務を依頼する外部の専門家が、全体として適切な適性及び能力を有していることを確かめなければならない(13項)としています。
 「監査人が業務を依頼する外部の専門家」は、監査事務所に雇用されていない(所属していない)会計・監査の特定分野に関する専門家(expertise)です。規定は、監査人が監査チームと外部の専門家の全体として適切な適性および能力を有していることを確かめることを求めています。
 しかし、監査チームと外部の専門家の全体として(collectively)適性および能力(competence and capabilities)が、監査チーム・メンバーまたは外部専門家という個々の人たちの適性・能力ということであると解しても、その適性・能力を確かめる(評価する)ことは難しいため、それを求める規定を十分理解できません。そのため、ISAを参照すると、「確かめなければならない」は”shall be satisfied”(満足されなければならない)です。したがって、監査責任者は、監査チーム・メンバーおよび外部専門家の個人としての適性・能力に満足できなければならない、ということです。
 そして、監査人が監査チーム・メンバーに期待する適切な適性と能力を検討する場合の考慮事項が例示されています(A9項)。
 ・業務の内容と複雑さの程度が類似した監査業務への従事および適切な訓練を通じて得られた監査業務の理解の程度ならびにこれまでの実務経験
 ・職業的専門家としての基準および適用される法令等についての理解
 ・ITの知識および会計または監査の特定の領域を含む専門的知識
 ・関与先が属する産業に関する知識
 ・職業的専門家としての判断能力
 ・監査事務所の定める品質管理に関する方針および手続についての理解

 監査人は、監査チーム・メンバーがそのレベルに相応してこれらの事項を充足していると判断した場合には、各メンバーの適性と能力に満足できることになると解します。
 しかし、監査人は、特定の者を監査チーム・メンバーとすることに関する阻害要因の重要性の程度が許容可能な水準ではない状況の場合には、その阻害要因を除去するか、またはその重要性の程度を許容可能な水準にまで軽減するためにセーフガードを適用することができるかどうか検討しなければなりません(独立性に関する指針10項参照)。
 この規定における、阻害要因の除去は、当該特定者を監査チーム・メンバーから外すことです。監査チーム・メンバーの適性と能力の不足に対処するセーフガードは、その不足を監査人やマネジャーの指揮・監督あるいは他のメンバーによってカバーできるかどうかにあると考えます。
 普通の監査チーム・メンバーでは、ITの知識および会計または監査の特定の領域を含む専門的知識に不足していることがあります。その場合、チームの能力不足をカバーするために、監査事務所に所属する専門家を監査チームの一員とするかまたは外部の専門家に依頼することが必要です。
 ところで、特定分野の専門家に見解の問合せ(相談・協議)を行ったのみの場合、当該専門家は監査チームのメンバーではない(A8項参照)としていますが、外部専門家に特定の業務に関する手続の実施を依頼する場合、その結果に関する責任は監査人が負うからだと思いますが、この外部専門家も監査チームの一員である(A8項参照)と解することには賛成できません。監査チーム・メンバーは、あくまで、監査事務所に所属する専門職によって構成されるべきと考えます。

18.専門要員の教育・訓練の考慮
 監査チームに期待される適切な適性および能力を検討する場合、監査責任者は、監査事務所が提供する不正に関する教育・訓練を通じて得られた、専門要員の知識及び能力の程度を考慮することがある(FA9-2項)としています。
 この規定は、不正対応基準第三3の「監査事務所は監査実施者の教育・訓練に関する方針及び手続を定め、監査実施者が監査業務を行う上で必要な不正事例に関する知識を習得し、能力を開発できるよう、監査事務所内外の検証等を含め、不正に関する教育・訓練に適切な機会を提供しなければならない」を参照しているものと解します。
 不正対応基準は、監査事務所が品質管理システムに不正に関する教育・訓練(不正事例に関する知識の習得を含む。)に関する方針・手続を定めることを求めています。FA9-2項の規定は、さらに一歩さきに進めて、その教育・訓練によって得た、不正に関する知識・能力を監査チーム・メンバーの適性・能力の判定に際して考慮することを求めています。
 専門要員は社員等および専門職員全体のこと(6項(11)参照) で、監査チームを構成する監査人(監査責任者)、マネジャー、スタッフのことです。

19.業務の指示、監督および実施
 監査人(監査責任者)は、(1)職業的専門家としての基準及び適用される法令等に準拠して監査業務を指示、監督および実施すること、および(2)状況に応じた適切な監査報告書を発行すること、に関する責任を負わなければなりません(14項参照)。
 (1)はGAASに準拠して監査を実施している際に、監査人は監査スタッフに対して指示、監督をすることです。また、(2)は監査人が入手した十分かつ適切な監査証拠に基づいて適切な監査意見を表明することです。これらに関して監査人が責任を有することは、監査人が実施している監査業務の最終責任者であるため、当然の規定です。
 また、監査責任者は、監査事務所が不正リスクに適切に対応できるように定めた監査業務に係る監督に関する方針及び手続に従って監督する責任を負わなければならない(F14-2項)として、品質管理システムにしたがって不正リスクに適切に対応し、その実施状況を監督する責任を監査人は負っていることを規定しています。
 監査人が、監査チーム・メンバーに対して行う指示(direction)には、以下の事項を伝えることが含まれています(A10項参照)。
 ・監査チーム・メンバーの責任。これには、職業倫理に関する規定の遵守および職業的専門家としての懐疑心を保持して監査を計画し実施することを含む。
 ・監査業務に複数の監査責任者が関与している場合、それぞれの監査責任者の責任
 ・実施する作業の目的
 ・企業の事業内容
 ・リスクに関連する問題(issues)
 ・生じるかもしれない問題(problems)
 ・監査実施への詳細なアプローチ

 指示事項の監査チーム・メンバーの責任は、倫理に関する規定を遵守し、独立性を堅持し、職業的懐疑心を保持・発揮して、監査計画において実施が求められている監査手続を的確に実施することです。この目的を遂行するために、他の指示事項の伝達が求められているものと解します。他の指示については、補足するまでもないと思います。
 また、監査チーム・メンバー間で討議を行うことによって、経験の浅いメンバーがより経験のあるメンバーに適宜質問を行い、適切なコミュニケーションが監査チーム内で行われるようになる(A10項参照)としています。
 監査チームにおける討議については監基報315と監基報240において規定されているため、詳細な読み解きはそれぞれの規定に読み解きに際して行います。ここでは、監査チームの討議はメンバー間の討議ではなく、監査チーム・メンバー(監査責任者を含む。)のほぼ全員が集合して、ブレイン・ストーミングの方法によって、参加者全員が忌憚なく討議することが必要であることを強調しておきます。
 監査チームによる作業の実施に関連して、監査チームの経験の浅いメンバーが割り当てられた作業の目的を的確に理解するためには、チームワークを適切に図り、訓練を適切に実施することが有益である(A11項)としています。
 経験の浅いメンバーに対する指導がチームワークと訓練であるということですが、「チームワークを適切に図り、訓練を適切に実施する」ことが十分理解できません。チームワークを適切に図ることは、監査人が適切に監査チームを機能させるように目論むことと解しますが、そうであれば、経験の浅いスタッフ(新人やチームに初めて配属されたスタッフ)との関係が理解できません。経験の浅いスタッフを他のチーム・メンバーが面倒をみてやることをチームワークというのであれば、チームワークが経験の浅いスタッフを支援することになります。しかし、チームワークを適切に図ることとは異なるものと考えます。
 訓練を適切に実施することは、経験の浅いスタッフに訓練を行うことですが、研修・訓練と記述されている監査事務所の実施する各種の研修・訓練を指しているのではなく、監査チームにおける訓練であると解します。つまり、オン・ザ・ジョブ・トレーニング(OJT)です。したがって、監査人やマネジャーが行う指導・監督であると解します。ただし、この指導・監督は、経験の浅いスタッフのみでなくスタッフ全員に対して実施します。
 ところで、14項(1)に規定されている監督には、以下のような事項が含まれる(A12項)としています。
 ・監査の進捗状況を把握すること。
 ・監査チームの個々のメンバーの適性、能力及び経験、個々のメンバーがそれぞれの作業を実施するのに十分な時間が確保されているかどうか、個々のメンバーが各自に与えられた指示を理解しているかどうか、並びに作業が監査計画に従って実施されているかどうかについて検討すること。
 ・監査の過程で発見された重要な会計及び監査上の問題となる可能性がある事項をより経験のある監査チーム内のメンバーに報告するように指示し、当該事項の重要性の程度を検討し、監査計画を適切に修正すること。
 ・専門的な見解の問合せが必要な事項又はより経験のある監査チームのメンバーが検討を必要とする事項を特定すること。

 最初の監査の進捗状況の把握は、監査チーム全体の作業進捗度の把握であると解します。そうであれば、それは監査業務の管理の問題であり、監査チーム・メンバーに対する監督ではないと考えます。
 二番目の事項のうち、監査チーム・メンバー各人の適性・能力・経験、および各人が作業を実施するのに十分な時間が確保されているかどうか、を検討することは、監査現場での監督ではなく、監査チームの選任(13項)または監査契約の新規締結または更新(11項)に際してすでに検討されています。後半の「個々のメンバーが各自に与えられた指示を理解しているかどうか、並びに作業が監査計画に従って実施されているかどうかについて検討すること」が監査現場における監督に該当します。
 監査チーム・メンバーそれぞれが指示を理解しているかどうか、作業の進捗度が計画から著しく遅れていないかどうかについて、監査人またはマネジャーは、メンバー各人の作業実施を観察し、スタッフの疑問や気付いた問題に関して協議し、監査調書のレビュー(査閲)に際しての質疑や協議を通じて理解して、必要に応じて、指示を追加します。
 三番目の事項は、監査スタッフが問題またはその兆候を発見または気付いたときにはマネジャーに速やかに報告することは事前に指示されている事項です。監督は、監査スタッフから報告された問題またはその兆候について監査人およびマネジャーが実際に不正や虚偽表示となる可能性を検討した結果、必要な監査計画を修正して監査スタッフに追加手続の実施を指示することと解します。なお、報告された問題や兆候の結論等について当該スタッフの指導・教育のために伝えることが必要と考えます。
 最後の専門的な見解の問合せまたはマネジャーが検討を必要とする事項を特定することは、このような検討事項を事前に特定することではなく、監査を実施していくにつれて、発見または気付いた問題等についてマネジャーが検討するかまたは専門的な問い合わせ(相談協議)を行うかを監査人が決定することであると解します。しかし、マネジャー(または権限移譲されたシニア・スタッフ)が発見または気付いた問題等のすべてを検討することが必要ですから特定するかどうかの問題ではないと考えます。また、問題等について専門的な見解の問い合わせを行うかどうかは監査人が決定すべきことであるため、監督には該当しないと考えます。
 さらに、専門家の利用に関連して、会計又は監査の特殊な領域において専門知識を有する者を監査チームのメンバーとして利用する場合、当該専門知識を有する者に対する指示、監督及び監査調書の査閲には、以下のような事項が含まれることがある(A17項)としています。
 ・専門知識を有する者の作業の内容、範囲及び目的、並びに当該専門知識を有する者と監査チームの他のメンバーのそれぞれの役割並びにコミュニケーションの内容、時期及び範囲について合意すること。
 ・当該専門知識を有する者の発見事項又は結論の適合性及び合理性、並びに他の監査証拠との整合性を含め、当該専門知識を有する者の作業の適切性を評価すること。

 専門家の作業目的・内容・範囲、他のチーム・メンバーとの役割分担、報告等の内容・時期・範囲に関する合意は、専門家が監査事務所所属しチーム・メンバーの一員であれば指示に該当し、作業結果の適切性の評価は監督に該当すると解します。しかし、外部の専門家の場合は、監査チーム・メンバーではないため、指示・監督には該当しないと解します。なお、これらの合意や評価は、専門家を利用する際に行うことが求められている項目です。

20.監査調書のレビュー
 監査責任者は、監査事務所の監査調書の査閲に関する方針及び手続に従って実施される査閲に対する責任を負わなければならない(15項)とし、監査責任者は、監査事務所が不正リスクに適切に対応できるように定めた監査調書の査閲に関する方針および手続に従って査閲が行われていることに対する責任を負わなければならない(F15-2項)としています。
 監査調書のレビューは監査人が監査の質を確保するための重要な手段であるため、監査人は、品質管理システムにおいて規定されている監査調書の査閲に関する方針・手続にしたがってマネジャーや監査スタッフが作成した監査調書をレビュー(査閲)しなければなりません。
 しかし、監査調書のレビューは、品質管理のために実施されるのではなく、監査人の目や耳となり、手足となって監査スタッフが監査手続を実施して入手した監査証拠に基づいた判断(結論・所見)が、監査人が経営者や監査役等との協議によって入手した情報等と矛盾していないことを確かめて、監査人の判断をスタッフのそれと同一化する、またはスタッフの判断に満足・納得して自己の判断とすることです。
 監査調書のレビューア(査閲者)に関して、品基報は監査調書の査閲に関する監査事務所の方針及び手続は、監査チームのより経験のあるメンバーが経験の浅いメンバーの作成した監査調書を査閲するという原則に基づいて定めることとされている(A13項)としています。このことは、監査事務所が品質管理システムにおいて定める監査調書のレビューア(査閲者)を、監査人がレビュー権限を委譲したマネジャーやシニア・スタッフとすることができるということです。
 しかし、監査人は、識別した重要な虚偽表示のリスクや特別な検討を必要とするリスク(不正リスクを含む。)に関連した重要な監査調書などおよびマネジャーが作成した監査調書を必ずレビューすることが必要です。監査における重要事項および監査人が懸念する事項や気になっている事項に関連する監査調書も監査人がレビューすべきです。
 監査調書のレビュー(査閲)を行う際の考慮事項が次のように例示されています(A14項参照)。
 ・職業的専門家としての基準及び適用される法令等に従って作業を行っているかどうか。
 ・重要な事項を詳細に検討しているかどうか。
 ・専門的な見解の問合せを適切に実施しており、その結論を文書化し、かつ対処しているかどうか。
 ・監査手続の種類、時期及び範囲を変更する必要があるかどうか。
 ・到達した結論は、実施した作業によって裏付けられているか、またそれが適切に監査調書に記載されているかどうか。
 ・入手した監査証拠は、監査意見を裏付けるものとして十分かつ適切であるかどうか。
 ・監査手続の目的は達成されているかどうか。

 監査人は、通常、監査調書のレビューに際して、職業的専門家としての基準及び適用される法令等に従って作業を行っているかどうかを考慮していません。GAASに準拠して監査を実施するように策定・立案した監査計画の一環として作成した「監査手続書」(audit program)に準拠した監査手続の実施状況を考慮します。
 二番目の事項は、識別した重要な虚偽表示のリスクや特別な検討を必要とするリスク(不正リスクを含む。)などに関連した重要な事項に対して、必要な監査手続を実施して十分かつ適切な監査証拠を入手しているかどうかを確かめ、スタッフの結論が適切であるかどうか(換言すると、結論に同意できるかどうか)を判断します。これらが確かめられ、判断できれば、監査手続の目的は達成された問い判断することになります。このことは、五番目から七番目の考慮事項も一緒に検討したことになります。
 十分かつ適切な監査証拠がまだ入手されていないことが監査調書のレビューで判明した場合には、必要に応じて、監査手続の追加や変更または監査範囲の拡大(サンプル数の拡大)によって入手した監査証拠によって十分かつ適切な監査証拠を入手することが不可欠です。
 ところで、三番目の専門的な見解の問合せを監査チーム・メンバー個人が行うことは、個人的な問合せの場合除き、あり得ないことであり、またその個人的な問合せ自体は監査調書に関連しません。監査責任者またはマネジャーが問い合わせた内容または得られた見解や協議結果を適切に監査調書に記載することが必要です。この監査調書は、監査人とマネジャーが協同して作成するため、通常、監査調書のレビューの対象となりません。
 なお、15項に関連する指針としてA17項が参照されていますが、すでに読み解いたので、ここでは省略します。


 次回は、監査調書レビューの実施時期、専門的な見解の問合せ、審査、審査の実施項目、監査上の主要な検討事項、不正を示唆する状況および審査担当者の検討する事項を読み解きます。

この記事へのコメント