監査人の交代について考える(その5)
今回は、前任監査人の後任監査人への情報の提供について考えます。
前任監査人の後任監査人への情報の提供
79号報告は、前述のように、監査業務の引継ぎの必要性・重要性を強調していたにもかかわらず、前任監査人が引継ぎに積極的に対応しなくともよいことを容認していたため、前任監査人から後任監査人へ積極的に情報を提供することは求めていなかった。
33号報告書は、監査業務の引継ぎに際して「後任監査人が監査契約の締結の可否を判断する上で有用な情報」(4項) を前任監査人から提供することによって、後任監査人が「監査契約の締結に伴うリスクを的確に判断」(7項(1))できるようにし、「監査を効果的かつ効率的に実施」(7項(3))できるようにするため、また、後任監査人が「監査を実施する上で有用な情報を提供する」(4項)ために、前任監査人が把握していた「監査意見に影響を及ぼした、又は監査意見に影響を及ぼす可能性のある財務諸表における重要な虚偽の表示に関わる情報又は状況」(5項)を後任監査人に伝達しなければならないとした。
旧監基報900は、33号報告書を踏襲して、前任監査人は監査意見に影響を及ぼしたまたは及ぼす可能性のある重要な虚偽表示に関わる情報または状況を把握していた場合には、後任監査人にそれらを伝達しなければならない(15項)としていた。
新監基報900は、前任監査人は、不正リスクへの対応状況、監査基準委員会報告書で監査役等とのコミュニケーションが求められている事項等、前任監査人が識別した監査上の重要な事項を、後任監査人に伝達しなければならない(14項)として、不正リスクへの対応状況という記述の追加などがあるが、それまでの33号報告書および旧監基報900とあまり大きな変更はない。
しかし、新監基報900は、伝達しなければならない重要な事項として、また、前任監査人の監査意見に影響を及ぼした重要な虚偽表示に関わる情報または状況、または期中交代の場合は前任監査人が監査意見に影響を及ぼす可能性があると判断した当期の財務諸表における重要な虚偽表示に関わる情報または状況(14項)として以下の重要な事項が含まれる(A7項)としている。
・ 特別な検討を必要とするリスクを生ずる事項
・ 監査手続を実施した結果重要な虚偽表示の可能性を示した事項
・ 当初の重要な虚偽表示リスクの評価やその対応を修正する必要を生じさせた事項
・ 監査手続の実施に重大な支障をきたした状況
・ 監査意見に影響を与えた(又はその可能性があった)事象
・ 強調事項を付した(又はその検討を行った)事項
これら事項のうち、貸借対照表項目や偶発事象に関する事項は、後任監査人が監査する事業年度以降の財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性があるため、前任監査人は十分な説明を付すことが適切である(A7項)とし、前任監査人は、経営者または監査役等に提出した監査実施結果を記載した報告書の写し、および会社から入手した経営者確認書を用いて、監査上の重要な事項を後任監査人に説明することが有用である場合、後任監査人からの求めに応じて、前任監査人はこれらの写しを提供することがある(A8項)とした。
これらの伝達しなければならない重要な事項の具体的な例示は、オリンパス事件の行政処分の影響によって新たに追加された事項である。すなわち、これらの事項がオリンパス事件の前任監査人から後任監査人に伝達されていなかったため、後任監査人が不正会計に十分に対応できなかったことにより、前任監査人・後任監査人ともに行政処分が行われたということなのであろう。
しかし、オリンパス事件の前任監査人は、第三者調査報告書などから、少なくとも関与した最終事業年度では発見した問題等をすべてクリアしていると判断していたであろうと推測される。そうであれば、上記の追加事項等が残留していたとは判断していなかったと思われる。
前任監査人が識別していなかった不正による重要な虚偽表示やその可能性は、どんなに詳細に監査業務の引継ぎを行ったとしても、後任監査人に伝達されることはない。また、前任監査人が不正による重要な虚偽表示やその可能性を識別していたにもかかわらず、それを看過していたならばそれは監査人としての任務懈怠にほかならない。
したがって、前任監査人から上記のような事項があったがすべて解消されたと伝達された後任監査人は、前任監査人と会社とのトラブルの原因の一端を知ることができる程度のことではないだろうか。
そのトラブルの原因の一端から不正による重要な虚偽表示のリスクを識別・評価できるかどうかは後任監査人の責任であり、後任監査人がそのリスクを識別できなかったとしても、それは前任監査人の責任ではないと考える。
ところで、上記の後任監査人に伝達すべき重要な事項は、監査調書に記載すべき重要な事項として規定されている事項(監基報230 A8項)であり、概要において、監査人の交代に際して伝達すべき重要な事項として指摘されていた(p.150)。不正リスク対応基準の議論が始まっていたため、公権的解釈論としてありなのかもしれないが、後出しジャンケンにほかならない。この概要に記述されていた事項を新監基報900として正式に規定したということであろう。
前任監査人の後任監査人への情報の提供
79号報告は、前述のように、監査業務の引継ぎの必要性・重要性を強調していたにもかかわらず、前任監査人が引継ぎに積極的に対応しなくともよいことを容認していたため、前任監査人から後任監査人へ積極的に情報を提供することは求めていなかった。
33号報告書は、監査業務の引継ぎに際して「後任監査人が監査契約の締結の可否を判断する上で有用な情報」(4項) を前任監査人から提供することによって、後任監査人が「監査契約の締結に伴うリスクを的確に判断」(7項(1))できるようにし、「監査を効果的かつ効率的に実施」(7項(3))できるようにするため、また、後任監査人が「監査を実施する上で有用な情報を提供する」(4項)ために、前任監査人が把握していた「監査意見に影響を及ぼした、又は監査意見に影響を及ぼす可能性のある財務諸表における重要な虚偽の表示に関わる情報又は状況」(5項)を後任監査人に伝達しなければならないとした。
旧監基報900は、33号報告書を踏襲して、前任監査人は監査意見に影響を及ぼしたまたは及ぼす可能性のある重要な虚偽表示に関わる情報または状況を把握していた場合には、後任監査人にそれらを伝達しなければならない(15項)としていた。
新監基報900は、前任監査人は、不正リスクへの対応状況、監査基準委員会報告書で監査役等とのコミュニケーションが求められている事項等、前任監査人が識別した監査上の重要な事項を、後任監査人に伝達しなければならない(14項)として、不正リスクへの対応状況という記述の追加などがあるが、それまでの33号報告書および旧監基報900とあまり大きな変更はない。
しかし、新監基報900は、伝達しなければならない重要な事項として、また、前任監査人の監査意見に影響を及ぼした重要な虚偽表示に関わる情報または状況、または期中交代の場合は前任監査人が監査意見に影響を及ぼす可能性があると判断した当期の財務諸表における重要な虚偽表示に関わる情報または状況(14項)として以下の重要な事項が含まれる(A7項)としている。
・ 特別な検討を必要とするリスクを生ずる事項
・ 監査手続を実施した結果重要な虚偽表示の可能性を示した事項
・ 当初の重要な虚偽表示リスクの評価やその対応を修正する必要を生じさせた事項
・ 監査手続の実施に重大な支障をきたした状況
・ 監査意見に影響を与えた(又はその可能性があった)事象
・ 強調事項を付した(又はその検討を行った)事項
これら事項のうち、貸借対照表項目や偶発事象に関する事項は、後任監査人が監査する事業年度以降の財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性があるため、前任監査人は十分な説明を付すことが適切である(A7項)とし、前任監査人は、経営者または監査役等に提出した監査実施結果を記載した報告書の写し、および会社から入手した経営者確認書を用いて、監査上の重要な事項を後任監査人に説明することが有用である場合、後任監査人からの求めに応じて、前任監査人はこれらの写しを提供することがある(A8項)とした。
これらの伝達しなければならない重要な事項の具体的な例示は、オリンパス事件の行政処分の影響によって新たに追加された事項である。すなわち、これらの事項がオリンパス事件の前任監査人から後任監査人に伝達されていなかったため、後任監査人が不正会計に十分に対応できなかったことにより、前任監査人・後任監査人ともに行政処分が行われたということなのであろう。
しかし、オリンパス事件の前任監査人は、第三者調査報告書などから、少なくとも関与した最終事業年度では発見した問題等をすべてクリアしていると判断していたであろうと推測される。そうであれば、上記の追加事項等が残留していたとは判断していなかったと思われる。
前任監査人が識別していなかった不正による重要な虚偽表示やその可能性は、どんなに詳細に監査業務の引継ぎを行ったとしても、後任監査人に伝達されることはない。また、前任監査人が不正による重要な虚偽表示やその可能性を識別していたにもかかわらず、それを看過していたならばそれは監査人としての任務懈怠にほかならない。
したがって、前任監査人から上記のような事項があったがすべて解消されたと伝達された後任監査人は、前任監査人と会社とのトラブルの原因の一端を知ることができる程度のことではないだろうか。
そのトラブルの原因の一端から不正による重要な虚偽表示のリスクを識別・評価できるかどうかは後任監査人の責任であり、後任監査人がそのリスクを識別できなかったとしても、それは前任監査人の責任ではないと考える。
ところで、上記の後任監査人に伝達すべき重要な事項は、監査調書に記載すべき重要な事項として規定されている事項(監基報230 A8項)であり、概要において、監査人の交代に際して伝達すべき重要な事項として指摘されていた(p.150)。不正リスク対応基準の議論が始まっていたため、公権的解釈論としてありなのかもしれないが、後出しジャンケンにほかならない。この概要に記述されていた事項を新監基報900として正式に規定したということであろう。
"監査人の交代について考える(その5)" へのコメントを書く