「監査報告の展開」の紹介(その5)
前回に引き続き、D.R. Carmichael 博士とAlan J. Winters 博士の共同執筆による「監査報告の展開」(Evolution of Audit Reporting)を拙訳により紹介する。今回は、マケンソン・ロビンス社事件の物語である。
画期的なできごとⅤ―証券法とマケンソン・ロビンス社事件
1932年から1934年までの往復書簡によるAIAとNYSEの努力は金融業界と会社経営者に対する厳しい社会の批判という環境のなかで生じている。この懸念への対応としてアメリカ議会は一連の証券法を制定し、それを管轄する証券取引委員会(the Securities and Exchange Commission; SEC)を創設した。証券法は増加する法的責任の観点および会計・監査に関する職業専門家基準の改善の必要性の双方から会計プロフェッションに新たに重大な責任を課した。
SECは、会計原則および監査人の報告書の様式と内容を規定する権限を授けられたにもかかわらず、会計士協会の代表者の説得により部分的にプロフェッションにイニシアティブを残すことを決定した。SECは監査人の報告書の厳格な様式を規定することを拒否して、「代わりに、監査の範囲および登録者が採用した会計原則の質の双方に関して明らかにしていなければならないという証明を求める」こととした。
会計および監査の基準の展開に際してイニシアティブをとる努力の一部として、会計士協会は1936年の連邦準備公報を改訂した。公報が内部統制に関する討議およびそれに関連する監査テストを拡大したが、報告書様式案に係る改訂はなかった。
実務を行っている会計士は、マケンソン・ロビンス社の不正が表面化したとき、改訂公報の手引きを実行しはじめた。SECは、(1)実施した監査の詳細と範囲、(2)監査手続に関する普及している基準にしたがっている範囲、および(3)認められている監査手続の適切性を決定するために公聴会を開催した。この調査(inquiry)の一つの結果が、債権確認および実地棚卸立会に関するAIAの要求であった。
SECの報告書は、AIA が1936年公報に採用されていたいくつかのポジションの修正を採択したが、1940年まで発表されなかった。修正は、「監査手続の拡張」と題したパンフレットによって公表された。そしてそれは協会から発行される一連の監査手続書(Statements on Auditing Procedure; SAP)の最初(SAP No.1)として再発行された。
SECの調査(investigation)結果を認識して、新しいSAPは次のように監査人の標準報告書を修正した。
我々は、1939年12月31日現在のABC会社の貸借対照表およびその日に終了する事業年度の損益・剰余金計算書を検証し、会社の内部統制システムと会計手続をレビューして、さらに、取引に関して詳細な監査を行っていないが、会社の会計記録およびその他の証憑書類を我々が適切と考える方法と範囲で検証またはテストした。
我々の意見では、このような検証に基づいて、添付されている貸借対照表および関連する損益・剰余金計算書は、前年度に継続して適用されている一般に認められた会計原則に準拠して、1939年12月31日現在のABC会社の状況および事業年度の経営成績を適正に表示している(present fairly)。
新しい報告書の重大な変更は範囲区分にあった。しかし、意見区分における編集上の改善として意図されていたものがプロフェッション内の議論の主要なテーマになることが後日証明された。
範囲区分の改訂は監査の重要な要素として内部統制のレビューを強調して、詳細なテストの代わりにシステムへの監査人の依拠を暗黙裡に正当化した。この内部統制への言及がテストの範囲を縮小させるためにコントロールの強さに関する広範囲の利用に先立っていた。新しい報告書上の語句が、監査の質について十分知っている読者ほどに実務を変更させる触媒(catalyst)としての役割を果たした。また、職業専門家の判断の概念が適切と考えられる監査の「方法」とテストの範囲による証拠の収集への言及によって範囲区分に明示された。
意見区分の改訂は「適正に」と「表示している」の文言の位置を代え(注:訳文上巧く訳出できていない。)、「GAAPに準拠して」の文言を「適正に表示している」から分離した。GAAPへの言及の位置代えの理由は、継続性への言及の意味を明確にすることであった。一部の会計士は改訂前の報告書の「年度において継続的に保持している」ことが当年度の原則を前年度の原則に関係させていないと明らかに信じていた。変更された文言は混乱を解消させたが、適正表示とGAAPの関係をあいまいにした。
SAP 1の発行も新しい報告書のカテゴリー、留保意見(withheld opinion)を導入した。SAP 1以前では、会計上の不備、監査手続の省略またはその他の監査報告書における類似の制限事項を特定して、「前述の事項を条件として」(subject to the foregoing)のような文言を最終の意見表明の導入部とすることが一般的な報告実務であった。したがって、報告書は第三者が全体としての財務諸表を信頼できる範囲に関しての意思決定を第三者に委ねた。
SAP 1の発行によって、会計士は、財務諸表上の不備または監査業務の範囲に対する請願がそのような意見を保障(warrant)しないとき、全体としての財務諸表に対して意見を提供することが禁止された。SAP 1は、意見表明に際して以下のことが要求される状況の下では、監査人がすべての除外事項および制限事項を記載した後に財務諸表に対する意見を表明する報告書のタイプを実務から排除した。
独立している公認会計士は、除外事項が意見を否定的にするようなときあるいは必要と判断する検証の範囲に満たないときには、一般に認められた会計原則に準拠して、財務諸表が会社の状況および経営成績を適正に表示しているとの意見を表明してはならない。
しかし、SAP 1は、CPAが実施した作業の範囲およびその作業の結果としての発見事項を示す報告書のタイプを除外した。事実、SAP 1は、監査業務の限定された範囲という状況のもとで以下を記載している報告書を明示的に認識していた。
…独立している公認会計士は、報告書を発見事項および適切であれば意見を表明しない理由(reasons for omitting an expression of opinion)について述べることに制限されなければならない。
「適切であれば」というフレーズは、意見を表明するかまたは意見を差し控えるかのいずれかの報告書を発行することを監査人に許容した。
画期的なできごとⅤ―証券法とマケンソン・ロビンス社事件
1932年から1934年までの往復書簡によるAIAとNYSEの努力は金融業界と会社経営者に対する厳しい社会の批判という環境のなかで生じている。この懸念への対応としてアメリカ議会は一連の証券法を制定し、それを管轄する証券取引委員会(the Securities and Exchange Commission; SEC)を創設した。証券法は増加する法的責任の観点および会計・監査に関する職業専門家基準の改善の必要性の双方から会計プロフェッションに新たに重大な責任を課した。
SECは、会計原則および監査人の報告書の様式と内容を規定する権限を授けられたにもかかわらず、会計士協会の代表者の説得により部分的にプロフェッションにイニシアティブを残すことを決定した。SECは監査人の報告書の厳格な様式を規定することを拒否して、「代わりに、監査の範囲および登録者が採用した会計原則の質の双方に関して明らかにしていなければならないという証明を求める」こととした。
会計および監査の基準の展開に際してイニシアティブをとる努力の一部として、会計士協会は1936年の連邦準備公報を改訂した。公報が内部統制に関する討議およびそれに関連する監査テストを拡大したが、報告書様式案に係る改訂はなかった。
実務を行っている会計士は、マケンソン・ロビンス社の不正が表面化したとき、改訂公報の手引きを実行しはじめた。SECは、(1)実施した監査の詳細と範囲、(2)監査手続に関する普及している基準にしたがっている範囲、および(3)認められている監査手続の適切性を決定するために公聴会を開催した。この調査(inquiry)の一つの結果が、債権確認および実地棚卸立会に関するAIAの要求であった。
SECの報告書は、AIA が1936年公報に採用されていたいくつかのポジションの修正を採択したが、1940年まで発表されなかった。修正は、「監査手続の拡張」と題したパンフレットによって公表された。そしてそれは協会から発行される一連の監査手続書(Statements on Auditing Procedure; SAP)の最初(SAP No.1)として再発行された。
SECの調査(investigation)結果を認識して、新しいSAPは次のように監査人の標準報告書を修正した。
我々は、1939年12月31日現在のABC会社の貸借対照表およびその日に終了する事業年度の損益・剰余金計算書を検証し、会社の内部統制システムと会計手続をレビューして、さらに、取引に関して詳細な監査を行っていないが、会社の会計記録およびその他の証憑書類を我々が適切と考える方法と範囲で検証またはテストした。
我々の意見では、このような検証に基づいて、添付されている貸借対照表および関連する損益・剰余金計算書は、前年度に継続して適用されている一般に認められた会計原則に準拠して、1939年12月31日現在のABC会社の状況および事業年度の経営成績を適正に表示している(present fairly)。
新しい報告書の重大な変更は範囲区分にあった。しかし、意見区分における編集上の改善として意図されていたものがプロフェッション内の議論の主要なテーマになることが後日証明された。
範囲区分の改訂は監査の重要な要素として内部統制のレビューを強調して、詳細なテストの代わりにシステムへの監査人の依拠を暗黙裡に正当化した。この内部統制への言及がテストの範囲を縮小させるためにコントロールの強さに関する広範囲の利用に先立っていた。新しい報告書上の語句が、監査の質について十分知っている読者ほどに実務を変更させる触媒(catalyst)としての役割を果たした。また、職業専門家の判断の概念が適切と考えられる監査の「方法」とテストの範囲による証拠の収集への言及によって範囲区分に明示された。
意見区分の改訂は「適正に」と「表示している」の文言の位置を代え(注:訳文上巧く訳出できていない。)、「GAAPに準拠して」の文言を「適正に表示している」から分離した。GAAPへの言及の位置代えの理由は、継続性への言及の意味を明確にすることであった。一部の会計士は改訂前の報告書の「年度において継続的に保持している」ことが当年度の原則を前年度の原則に関係させていないと明らかに信じていた。変更された文言は混乱を解消させたが、適正表示とGAAPの関係をあいまいにした。
SAP 1の発行も新しい報告書のカテゴリー、留保意見(withheld opinion)を導入した。SAP 1以前では、会計上の不備、監査手続の省略またはその他の監査報告書における類似の制限事項を特定して、「前述の事項を条件として」(subject to the foregoing)のような文言を最終の意見表明の導入部とすることが一般的な報告実務であった。したがって、報告書は第三者が全体としての財務諸表を信頼できる範囲に関しての意思決定を第三者に委ねた。
SAP 1の発行によって、会計士は、財務諸表上の不備または監査業務の範囲に対する請願がそのような意見を保障(warrant)しないとき、全体としての財務諸表に対して意見を提供することが禁止された。SAP 1は、意見表明に際して以下のことが要求される状況の下では、監査人がすべての除外事項および制限事項を記載した後に財務諸表に対する意見を表明する報告書のタイプを実務から排除した。
独立している公認会計士は、除外事項が意見を否定的にするようなときあるいは必要と判断する検証の範囲に満たないときには、一般に認められた会計原則に準拠して、財務諸表が会社の状況および経営成績を適正に表示しているとの意見を表明してはならない。
しかし、SAP 1は、CPAが実施した作業の範囲およびその作業の結果としての発見事項を示す報告書のタイプを除外した。事実、SAP 1は、監査業務の限定された範囲という状況のもとで以下を記載している報告書を明示的に認識していた。
…独立している公認会計士は、報告書を発見事項および適切であれば意見を表明しない理由(reasons for omitting an expression of opinion)について述べることに制限されなければならない。
「適切であれば」というフレーズは、意見を表明するかまたは意見を差し控えるかのいずれかの報告書を発行することを監査人に許容した。
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