監査事例の検討-5(売掛金残高確認)
事例の概要
収した子会社(重要な構成単位)は、会社のノンコア事業である製品の開発販売を行っていた。製品は製造を外部に委託し、販売先には委託先から直送していた。
当該製品の販売は、販売先からは販売代理店を通じて注文を受け、委託先からの出荷による運送会社発行の出荷案内書兼物品受領書に基づいて売上高を認識・計上していた。
当該製品の売上高は、二期連続で期末日近くに年間売上のほとんどが計上されており、翌事業年度において返品が多額に発生し、売掛金の多くは滞留していた。
監査人は、当該子会社を親会社とともに監査を実施していた。子会社の売上高(収益認識)について不正リスクを識別していた。
監査人は、子会社の売上取引の検証として注文書、見積書、請求書(控)、出荷案内書兼物品受領書等の関連証憑書類と突合していた。販売先に対して売掛金残高確認を実施したが、未検収のため不一致または回答未入手であったため、確認回答の差異調整または未回答の代替手続として、請求書(控)および出荷指図書を検証した結果、特段の問題はないと判断したため、売掛金の回収可能性に重点を置き貸倒引当金の計上について検討していた。
判明した事項
内部告発により、子会社の売上取引が架空であったことが判明した。不正は、販売先から正式な発注がないにもかかわらず、販売代理店と共謀して代理店が偽造注文書を発行し、運送会社とも共謀して運送会社が偽造出荷案内書兼物品受領書を発行して、利益創出のために二年度連続で期末日近くに多額の架空売上高が計上されていた。
監査上の問題点
二年連続で、前年度の売掛金の多くが未回収のまま滞留しているにもかかわらず、期末日近くに多額の売上が計上され、売掛金残高確認の回答の多くが不一致または未回答である状況が異常な状況、すなわち「不正による重要な虚偽表示の兆候」であると認識して、売上高のみでなく、売掛金についても不正リスクを識別し、識別したリスクに対応した監査手続を実施しなかったことが問題であった。
監査人が実施すべきであったリスク評価、監査手続等
子会社の売上高および売掛金について不正リスクを識別し、識別したリスクに対応した監査手続を実施することが必要であったと指摘することは容易であるが、本事例では、販売代理店および運送会社との共謀があり、社外で作成された証憑書類である注文書や出荷案内書兼物品受領書は真正な取引に使用される証憑書類を使用した偽造証憑書類であることからそれらが偽造されていることを見抜くことは著しく困難である。
しかし、収益認識に不正リスクを識別していたのであるから、通常実施すべきである監査手続としてのこれらの証憑書類の突合のみでは、不正リスクに対応する監査手続では不十分であった。
不正リスクに対応するためには、識別したリスクから発生すると見込まれる虚偽表示の態様を判断して、当該虚偽表示を発見できる実証手続を立案・実施することが必要であった。例えば、取引明細を添付した売上取引に係る確認を実施することが考えられる。
また、売掛金残高への対応としては、重要な確認差異の徹底的な調査および未回収確認の売掛金を構成する取引の大半を対象とした詳細な代替手続の実施が考えられるが、本事案の場合、調査・代替手続に利用する注文書や出荷案内書兼物品受領書が偽造されているため、虚偽表示を発見することは困難であろうと思われる。
また、調査・代替手続の一環として、取引先への視察等があげられることがあるが、取引先が不存在のときには有効かもしれないが、本事例のように販売先、販売代理店および運送会社が実際に存在するときには何ら意味のない手続であると考える。
それゆえ、期末近くの多額の売上計上という状況を勘案すると、売上先に対して監査人が直接電話等による問合せを行うことが有効であったかもしれない。
結論
本事例は、売掛金残高確認の差異調整または未回答に係る代替手続の実施の問題以前の、監査人のリスク意識の欠乏または不足の問題(鈍感なリスク感覚)に起因している、特に期末近くに売上高が集中していることが不正の兆候ではないかと疑問を持つ(職業懐疑心の行使する)ことなかったこととともに、リスクへ態様に対応する実証手続を特別に立案・実施する必要があることについての理解不足による監査の失敗であったと解する。
重要な虚偽表示のリスクを識別・評価することは、そのリスクに対応して実施する監査手続によって十分かつ適切な査証拠を入手することを計画することである。換言すると、監査手続を実施する財務諸表項目を識別・評価することである。
しかし、不正リスクを識別した場合、識別した不正リスクから生じる虚偽表示の態様を検討して、その発生するかもしれない虚偽表示に対応する特別な監査手続を立案し、通常実施すべき監査手続とともに実施することが必要である。
確認残高の差異が会社の出荷時と先方の検収(入荷)時のズレに起因していることが判明する場合など以外には、重要な確認差異の調整や確認未回答の代替手続の実施によって十分かつ適切な監査証拠を入手することが結構難しいことに留意が必要である。
なお、本事例も確認の実施に問題があった。基本的な監査手続である確認にいくつもの事例があるということは、監査の基本ができていない兆候のような気がする。このような危惧を感じながら、次回以降も監査事例を検討していくこととする。
ところで、監査の失敗には、監査人の実施すべきであった監査手続を実施していなかったことに起因する場合と、巧妙な共謀による不正を見抜けなったことを起因とする場合がある。本事例は後者に分類することもできそうであるが、評者は前者であると判断する。
収した子会社(重要な構成単位)は、会社のノンコア事業である製品の開発販売を行っていた。製品は製造を外部に委託し、販売先には委託先から直送していた。
当該製品の販売は、販売先からは販売代理店を通じて注文を受け、委託先からの出荷による運送会社発行の出荷案内書兼物品受領書に基づいて売上高を認識・計上していた。
当該製品の売上高は、二期連続で期末日近くに年間売上のほとんどが計上されており、翌事業年度において返品が多額に発生し、売掛金の多くは滞留していた。
監査人は、当該子会社を親会社とともに監査を実施していた。子会社の売上高(収益認識)について不正リスクを識別していた。
監査人は、子会社の売上取引の検証として注文書、見積書、請求書(控)、出荷案内書兼物品受領書等の関連証憑書類と突合していた。販売先に対して売掛金残高確認を実施したが、未検収のため不一致または回答未入手であったため、確認回答の差異調整または未回答の代替手続として、請求書(控)および出荷指図書を検証した結果、特段の問題はないと判断したため、売掛金の回収可能性に重点を置き貸倒引当金の計上について検討していた。
判明した事項
内部告発により、子会社の売上取引が架空であったことが判明した。不正は、販売先から正式な発注がないにもかかわらず、販売代理店と共謀して代理店が偽造注文書を発行し、運送会社とも共謀して運送会社が偽造出荷案内書兼物品受領書を発行して、利益創出のために二年度連続で期末日近くに多額の架空売上高が計上されていた。
監査上の問題点
二年連続で、前年度の売掛金の多くが未回収のまま滞留しているにもかかわらず、期末日近くに多額の売上が計上され、売掛金残高確認の回答の多くが不一致または未回答である状況が異常な状況、すなわち「不正による重要な虚偽表示の兆候」であると認識して、売上高のみでなく、売掛金についても不正リスクを識別し、識別したリスクに対応した監査手続を実施しなかったことが問題であった。
監査人が実施すべきであったリスク評価、監査手続等
子会社の売上高および売掛金について不正リスクを識別し、識別したリスクに対応した監査手続を実施することが必要であったと指摘することは容易であるが、本事例では、販売代理店および運送会社との共謀があり、社外で作成された証憑書類である注文書や出荷案内書兼物品受領書は真正な取引に使用される証憑書類を使用した偽造証憑書類であることからそれらが偽造されていることを見抜くことは著しく困難である。
しかし、収益認識に不正リスクを識別していたのであるから、通常実施すべきである監査手続としてのこれらの証憑書類の突合のみでは、不正リスクに対応する監査手続では不十分であった。
不正リスクに対応するためには、識別したリスクから発生すると見込まれる虚偽表示の態様を判断して、当該虚偽表示を発見できる実証手続を立案・実施することが必要であった。例えば、取引明細を添付した売上取引に係る確認を実施することが考えられる。
また、売掛金残高への対応としては、重要な確認差異の徹底的な調査および未回収確認の売掛金を構成する取引の大半を対象とした詳細な代替手続の実施が考えられるが、本事案の場合、調査・代替手続に利用する注文書や出荷案内書兼物品受領書が偽造されているため、虚偽表示を発見することは困難であろうと思われる。
また、調査・代替手続の一環として、取引先への視察等があげられることがあるが、取引先が不存在のときには有効かもしれないが、本事例のように販売先、販売代理店および運送会社が実際に存在するときには何ら意味のない手続であると考える。
それゆえ、期末近くの多額の売上計上という状況を勘案すると、売上先に対して監査人が直接電話等による問合せを行うことが有効であったかもしれない。
結論
本事例は、売掛金残高確認の差異調整または未回答に係る代替手続の実施の問題以前の、監査人のリスク意識の欠乏または不足の問題(鈍感なリスク感覚)に起因している、特に期末近くに売上高が集中していることが不正の兆候ではないかと疑問を持つ(職業懐疑心の行使する)ことなかったこととともに、リスクへ態様に対応する実証手続を特別に立案・実施する必要があることについての理解不足による監査の失敗であったと解する。
重要な虚偽表示のリスクを識別・評価することは、そのリスクに対応して実施する監査手続によって十分かつ適切な査証拠を入手することを計画することである。換言すると、監査手続を実施する財務諸表項目を識別・評価することである。
しかし、不正リスクを識別した場合、識別した不正リスクから生じる虚偽表示の態様を検討して、その発生するかもしれない虚偽表示に対応する特別な監査手続を立案し、通常実施すべき監査手続とともに実施することが必要である。
確認残高の差異が会社の出荷時と先方の検収(入荷)時のズレに起因していることが判明する場合など以外には、重要な確認差異の調整や確認未回答の代替手続の実施によって十分かつ適切な監査証拠を入手することが結構難しいことに留意が必要である。
なお、本事例も確認の実施に問題があった。基本的な監査手続である確認にいくつもの事例があるということは、監査の基本ができていない兆候のような気がする。このような危惧を感じながら、次回以降も監査事例を検討していくこととする。
ところで、監査の失敗には、監査人の実施すべきであった監査手続を実施していなかったことに起因する場合と、巧妙な共謀による不正を見抜けなったことを起因とする場合がある。本事例は後者に分類することもできそうであるが、評者は前者であると判断する。
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