監査事例の検討-6(確認差異の調査)

事例の概要
 会社は、得意先からの受注に基づいて、仕入先に製造を発注し、完成後に仕入先から直接納品するという直送取引を行っていた。
会社の主要な顧客である得意先は業界大手であり、取引量が多く金額も大きかった。当該得意先との取引には、得意先の検収書に個人印が押印されていたり、得意先の書式とは異なる受領書が使用されていたりしていた。また、当該得意先との取引では長期未検収品や長期未回収売掛金が散見された。
 監査人は、直送取引があることを理解しており、売上高について収益認識に係る不正リスクを識別していた。
 売上取引について実証手続のサンプル数を増やして証憑突合を実施した。売掛金残高確認を実施し、確認差異の調査は差異金額上位10 件を機械的に選定して実施した。当該得意先に対する売掛金残高確認の結果、多額の差異があったため、次の確認差異の調査を行った。
長期未検収の取引についての質問に対して正式な検収までに時間がかかっているとの営業担当者の説明に納得し、追加の手続を実施しなかった。また、長期未回収となっている売掛金についても質問したが、業界大手であるから回収可能性には問題ないという説明を受け、内容を十分に検討しなかった。
 確認差異の調査に際して関連証憑と突合し、当該得意先の検収書、受領書等に個人印のものや当該得意先の書式と異なる受領書等について質問し、営業担当者から得意先と懇意にしているから個人印でも問題ないこと、得意先の受領書が不足していたなどの説明に納得し、追加の手続は実施しなかった。

判明した事項
 得意先からの問合せにより、当該取引は架空売上であったことが判明した。不正を行った営業担当者は証憑類を偽造していた。

監査上の問題点
 不正リスクを識別していた売上高に対する監査手続が不十分であった。また、確認差異の調査に係る手続が不十分であった。

監査人が実施すべきであったリスク評価、監査手続等
 得意先の検収書、受領書等に個人印が押印されていたり、得意先の書式と異なる受領書があったり、長期未検収品や長期未回収売掛金があったりする状況は、売上取引の詳細テストを実施している過程で認識されていたはずである、あるいは少なくとも売掛金残高確認の差異調査で把握したのであるから、当然に当該得意先との取引は異常であり受領書が偽造されている可能性があると判断して、不正があるかもしれないと判断すべきであった。そのため、売上高だけでなく、売掛金残高についても不正リスクを追加識別する必要があった。
 不正リスクを識別した財務諸表項目に関しては、識別した不正リスクによって生じる可能性のある虚偽表示の態様を予測(予想)して、その虚偽表示を発見できる監査手続を立案し実施することが必要であるが、サンプル数を拡大した証憑突合および売掛金残高確認を実施しただけでは、十分かつ適切な監査証拠を入手するための監査手続としては不十分である。とくに、売掛金残高確認の差異調整のための監査手続が質問への回答として入手した説明を裏付ける監査証拠を入手する必要があった。
 架空売上・売掛金に関しては、例えば、取引明細を添付した確認(取引確認)を実施することが考えられる。また、個人印が押印されていた受領書や得意先の書式と異なる受領書および長期未検収や長期未回収となっている売上取引について、詳細な質問(追及)や関連する仕入先からの直送品出荷に係る証憑書類や情報を入手して照合する等の監査手続も有効であろう。
 また、確認差異の調査範囲を機械的に上位10 件とするのではなく、重要な差異のあるものについては詳細な差異発生理由を明らかにすることが必要である。

結論
 本事例は、売掛金残高確認差異の調査の問題以前に、監査人のリスク感覚が欠如または著しく不足していたことが大問題であると考える。リスク・アプローチの監査を理解していないのではないかと思われるほどである。
 売上高の不正リスクの識別は、監査の基準で求められているから行っているだけのように思われる。
 問題の売掛金残高の差異調査に関しても、形式的に質問しているだけで虚誤表示があるかもしれないことにまったく疑問を有していなかったのであろう。質問のみでは十分かつ適切な監査証拠を入手できないため、回答・説明について何らかの裏付け証拠を入手しなければならないことが理解されていなかったのであろう。
 本事例も監査人のリスク感覚の欠如または著しい不足および実施する監査手続についての理解不足による監査の失敗である。

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