2019 監基報701 読み解き(その3)

 今回は、監査人が特に注意を払った事項に関する監査役等とのコミュニケーション、監査人が特に注意を払った事項に関する考慮項目、特別な検討を必要とするリスクまたは重要な虚偽表示リスクが高いと評価された領域、経営者の重要な判断を伴う領域に関連する監査人の重要な判断、および当年度に発生した重要な事象または取引が監査に与える影響について読み解きます。

13.監査人が特に注意を払った事項に関する監査役等とのコミュニケーション
 監査人が監査の実施において特に注意を払う可能性が高い事項を監査計画の立案時に検討し、監査役等とコミュニケーションを行うことは有用であるが、監査上の主要な検討事項は監査の結果または監査の実施過程を通じて入手した証拠に基づいて最終的に決定される(A16項)としています。
 このA16項は、ISA 701 A16項 ”The auditor may develop a preliminary view at the planning stage about matters that are likely to be areas of significant auditor attention in the audit and therefore may be key audit matters. The auditor may communicate this with those charged governance when discussing the planned scope and timing of the audit. … However, the auditor’s determination of key audit matters is based on the result of the audit or evidence obtained throughout the audit.”(監査人は、(これから実施する)監査において特に注意を払う領域になると見込まれる事項や結果的に監査上の主要な検討事項となるかもしれない事項について、監査計画の立案段階において予備的見解を展開することがある。監査人は、…計画した監査範囲や実施時期について協議するときに、この予備的見解を監査役等とコミュニケーションを行うことがある。しかし、監査上の主要な検討事項に関する監査人の決定は、監査を通じて入手した監査の結果または証拠に基づいている)とはニュアンスが異なっているように思います。
 ISAは、監査人が監査計画の立案に際して、それまでに入手した企業に関する情報・知見に基づいて特に注意を払う領域・事項について予備的見解(preliminary view)(私見では「予断」(予めの判断)といっています。)を持ち、監査計画に関する監査役等とのコミュニケーションにおいて、監査役等と協議するとしています。これに対して監基報は、予備的見解という用語を用いずに「監査計画の立案時に検討(する)」としているものと解しますが、「予備的見解」を記述する方が理解されると解します。
 したがって、監査役等とのコミュニケーションが、監査の最終段階のみでなく、監査計画の立案時や期中で必要なときにも行われなければならないこととともに、「監査人が特に注意を払った事項」が自動的に「監査上の主要な検討事項」に該当するわけではないことに留意が必要と考えます。
 また、監査役等とのコミュニケーションについて、特に重要であると判断した事項に関連して、監査人が特に注意を払った事項は、監査役等と重点的にコミュニケーションが通常行われる。監査役等とのコミュニケーションの内容および程度は、どの事項が監査において特に重要であるかを示唆していることが多い。例えば、監査人または経営者の重要な判断が必要な重要な会計方針の適用等、より困難かつ複雑な事項について、監査人は監査役等とより深度のあるコミュニケーションを頻繁に行うことが適切である(A27項)として、監査人が特に注意を払った事項についての監査役等とのコミュニケーションについて記述しています。
 しかし、この記述を十分理解できません。そのため、ISAを参照すると、”Matters that required significant auditor attention also resulted in significant interaction with those charged with governance. The nature and extent of communication about such matters with those charged governance often provides an indication of which matters are of most significance in the audit. For example, the auditor may have had more in-depth, frequent or robust interactions with those charged governance on more difficult and complex matters, such as the application of significant auditor or management judgment.”(監査人が特に注意を払った事項も監査役等との重大な相互作用の結果である。当該事項についての監査役等とのコミュニケーションの内容や範囲は、しばしば、どの事項が特に重要であると判断した事項の兆候をもたらす。例えば、監査人は、監査人や経営者の重大な判断の適用のような、より難しく複雑な事項に対する、監査役等とのより綿密な、より多くの頻度でまたはより強固な相互作用を有していることがある。)です。監基報は、コミュニケーションについて規定していますが、ISAの”interaction”につぃて規定していないため相当にニュアンスが違うように思います。
 ”interaction”(相互作用)は、コミュニケーションだけでなく、監査人と監査役等との協働を包含していると解します。そのため、監査計画の立案に際して決定した「監査人が特に注意を払った事項」について監査役等とのコミュニケーションや協働の内容や範囲(程度)によって監査人が特に注意を払った事項の中から「特に重要であると判断した事項」を決定することができ、監査役等とのコミュニケーションや協働の内容や範囲(程度)はより難しく複雑な事項に対してより綿密な、より多くの頻度でまたはより強固であると解します。

14. 監査人が特に注意を払った事項に関する考慮項目
 監査人が特に注意を払った事項を決定する際に「監査人は以下の項目等を考慮しなければならない」(8項)としています。
 (1) 特別な検討を必要とするリスクまたは重要な虚偽表示リスクが高いと評価された領域
 (2) 経営者の重要な判断を伴う領域に関連する監査人の重要な判断。例えば、見積りの不確実性が高いと識別された会計上の見積り
 (3) 当年度に発生した重要な事象または取引が監査に与える影響
 これらの考慮項目は、2018(平成30)年改訂監査基準の「二1(2)『監査上の主要な検討事項』の決定」にも記述されています。それぞれの項目に関連する規定については、後にあらためて読み解きます。
 監査人が特に注意を払った事項を考慮するのは、監査がリスク・アプローチに基づいて行われているため(A12項)としていますが、A12項は、リスク・アプローチに基づく監査について一般的な説明しているだけで、KAMの記載とリスク・アプローチに基づく監査の関連性については何も説明していません。したがって、リスク・アプローチに基づく監査に関する一般的な説明は不要と解します。
 また、考慮項目(1)から(3)は、監査役等とコミュニケーションを行う事項の内容となる項目であり、財務諸表上の事項に直接的に関連していることが多く、想定される財務諸表の利用者が特に関心を持つ可能性がある財務諸表監査の領域であるが、考慮項目に関連する事項の全てが監査上の主要な検討事項となるわけではなく、特に注意を払った事項(考慮項目(1)から(3))の中から更に監査人が職業的専門家として特に重要であると判断した事項のみが監査上の主要な検討事項となる(A17項参照)とし、さらに、考慮事項(1)から(3)は、例えば(2)または(3)に該当する事項が(1)の特別な検討を必要とするリスクとして識別される場合など相互に関係したり複数の事項に該当したりする場合は監査人が当該事項を監査上の主要な検討事項として識別する可能性は高くなる(A17項参照)としています。しかし、A17項の記述は、KAMの決定プロセスに関連する説明であり、とくに必要な記述とは思えません。
 ところで、財務諸表に明記されない事項であっても、特に注意を払った事項となる可能性がある(A18項)として、例えば、当期において新しいITシステムが導入された場合または既存のITシステムに重要な変更が行われた場合には監査の基本的な方針に重要な影響を与え、また、収益認識に影響するシステムの更新または変更のように特別な検討を必要とするリスクに関連するときには、ITシステムの新規導入や重要な変更が監査人の特に注意を払った事項となることがあるとして、上記の考慮項目(1)から(3)以外についても監査役等とコミュニケーションを行うことがあり、それらが監査人の特に注意を払った事項となることがある(A18項参照)としています。
 このような財務諸表に表示または注記されていない事項をKAMとして決定して監査報告書に記載することは、第一次情報(original information)の提供となると解するため、あらためて考えます。
 さらに、監査人がリスク・アプローチに基づく監査を実施していくなかで、考慮項目(1)から(3)の他に、監査上の主要な検討事項を決定するに当たって、十分かつ適切な監査証拠を入手する上で、又は財務諸表に対する意見を形成する上で直面した困難な状況を考慮することがある(A13項)としています。
 監査人は、十分かつ適切な監査証拠の入手または監査意見の形成に際して直面した困難な状況を考慮してKAMを決定することは自明のことと考えます。そのために「以下の項目等」としているものと解します。改訂監査基準も同様に「等」が付されています。
しかし、考慮項目だけを考慮すれば足りるとする形式的・機械的な監査の実施に対して警告するのであれば、監査人は例えば以下の項目を考慮しなければならないとすれば足り、A13項の規定は不要と考えます。

15.特別な検討を必要とするリスクまたは重要な虚偽表示リスクが高いと評価された領域
 監査人が特に注意を払った事項を決定する際の考慮項目である、特別な検討を必要とするリスクまたは重要な虚偽表示リスクが高いと評価された領域(8項(1))について、監査人は特別な検討を必要とするリスクについて監査役等とコミュニケーションを行うことが求められており、それ以外の重要な虚偽表示リスクが高い領域への対応について監査役等とコミュニケーションを行うことがあり(A19項参照)、経営者の重要な判断に依存している領域および重要かつ通例でない(異常な)取引は、特別な検討を必要とするリスクとして識別されることが多いため、特別な検討を必要とするリスクは監査人が特に注意を払った事項と判断することが多い(A20項参照)が、全ての特別な検討を必要とするリスクが監査上の主要な検討事項となるわけではなく、例えば、収益認識および経営者による内部統制(controls)の無効化について不正リスクを推定または識別して特別な検討を必要とするリスクとすることが求められているが、これらの特別な検討を必要とするリスクは、その状況によっては、監査人が特に注意を払った事項には該当しないことがある(A21項参照)としています。
 したがって、全ての特別な検討を必要とするリスクが監査上の主要な検討事項となるわけではないが、特別な検討を必要とするリスクや重要な虚偽表示のリスクが高い領域は、原則として、監査人が特に注意を払った事項に該当するということです。
しかし、重要な虚偽表示のリスクはその発生可能性が高くかつその影響度合いが大きな取引・事象をいうため、重要な虚偽表示のリスクが高い領域(higher assessed risks of material misstatement)という表現は不適切であり、より高いリスクを識別した場合には特別な検討を必要とするリスクとして識別して必要な監査上の対応をとるべきと解します。
 なお、最近のISAや監査論において、この重要な虚偽表示のリスクが高い領域(higher assessed risks of material misstatement)という用語の頻度が高まっているように思います。その多くは、特別な検討を必要とするリスク(significant risk)を指しているように解されます。また、その用語の訳出は「より高いと評価された重要な虚偽表示のリスク」とすべきであり、そのような用語を利用するのであれば、重要な虚偽表示のリスクの定義を変更する必要があると考えます。
 ところで、監査人がアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクに関する評価を修正した場合や立案した監査手続を再検討した場合、例えば、重要な虚偽表示リスクが高いと評価された領域(an area with higher assessed risks of material misstatement)において内部統制(controls)が監査期間を通して有効に運用されていると想定していたが、内部統制が有効に運用されていないという監査証拠を入手したため監査アプローチの重要な変更を行った場合には、監査人は特に注意を払う必要がある領域と判断することがある(A22項参照)としています。
 監査人が特に注意を払った事項は、監査計画の立案時に決定される場合のほかに、監査の実施中に入手した監査証拠に基づいてリスク評価または実施する監査手続を変更した場合に、追加決定されることがあるということです。

16.経営者の重要な判断を伴う領域に関連する監査人の重要な判断
 監査人が特に注意を払った事項を決定する際の考慮項目である、経営者の重要な判断を伴う領域(例えば、見積りの不確実性が高い会計上の見積り)に関連する監査人の重要な判断(8項(2))について、監査人は、企業の会計実務の重要な質的側面(会計方針、会計上の見積りおよび財務諸表における表示・注記を含む。)に関する見解について、監査役等とコミュニケーションを行うことが求められているが、多くの場合、これらの事項は重要な会計上の見積りや関連する注記に関係しているため、監査人の特に注意を払った事項となる可能性が高く、また、特別な検討を必要とするリスクとしても識別されることがある(A23項参照)としています。
 この規定は、経営者の重要な判断を伴う領域(例えば、見積りの不確実性が高い会計上の見積り)や、監査人が実質判断を行うことが求められている会計実務の重要な質的側面に関する見解は監査役等とのコミュニケーションに含められ、特別な検討を必要とするリスクとして識別されることもあるため、多くの場合、監査人が特に注意を払った事項に該当するということです。
 また、財務諸表の利用者は、見積りの不確実性が高いと識別した会計上の見積りまたは財務諸表の理解に影響する重要な会計方針(変更を含む。)関心を示すことがあり、特に同業他社の多くが適用している会計方針と異なる場合に高い関心を示すことがあるため、これらの場合は、特別な検討を必要とするリスクとして識別されていない場合であっても、監査人が特に注意を払った事項に該当することがある(A24項参照)としています。
 しかし、財務諸表の利用者の関心がどこにあるかを監査人は知る由がなく、たとえ一部の利用者の関心を知ることがあったとしてもそれに迎合することができないため、監査人が財務諸表の利用者の関心が高いと判断した事項・領域を、特別な検討を必要とするリスクを識別していなくとも、特に注意を払った事項と決定することがあるということと解します。
 しかし私見では、監査人が財務諸表の利用者の関心が高いと判断した事項・領域を識別した場合、その事項・領域に特別な検討を必要とするリスクを識別して、十分な監査上の対応をとるべきと考えます。

17.当年度に発生した重要な事象または取引が監査に与える影響
 監査人が特に注意を払った事項を決定する際の考慮項目である、当年度に発生した重要な事象または取引が監査に与える影響(8項(3))について、財務諸表または監査に重要な影響を与える取引(例えば、関連当事者との重要な取引または企業の通常の取引過程から外れた重要な取引や通例でない重要な取引)は、監査人が特に注意を払った領域に該当することがあり、特別な検討を必要とするリスクとして識別されることもあり、さらに、これらの取引の認識、測定、表示・注記に関して経営者の行った困難なまたは複雑な判断が監査の基本的な方針に重要な影響を与える可能性がある(A25項参照)としています。
 関連当事者との重要な取引、企業の通常の取引過程から外れた重要な取引または通例でない重要な取引は、特別な検討を必要とするリスクとして識別することが求められています。したがって、そのような取引以外で、監査に重要な影響を及ぼす、当年度に発生した重要な事象・取引を監査人が特に注意を払った事項として決定することがあると解します。
 また、当年度に発生した重要な事象に含まれている、経営者の仮定または判断に影響を与える重要な経済、会計、規制、産業その他の変化が全般的な監査アプローチに影響を与えている場合、監査人が特に注意を払う事項となることがある(A26項参照)としています。
 企業を取り巻く環境の変化が監査人の特に注意を払う事項として決定されることがあると解します。そうであれば、企業環境の変化のみでなく、企業の事業内容、財務報告システム等の変化・変更も、監査人が特に注意を払う事項に該当することがあり得ます。

 次回は、特に重要であると判断した事項の決定、監査上の主要な検討事項の決定に関する考慮事項、監査上の主要な検討事項の決定などについて読み解きます。

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