2019 監基報701 読み解き(その4)

 今回は、特に重要であると判断した事項の決定、監査上の主要な検討事項の決定に関する考慮事項、監査上の主要な検討事項の決定、監査上の主要な検討事項の数、および監査上の主要な検討事項の報告について読み解きます。

18.特に重要であると判断した事項の決定
 すでにみたように、監査人は、特に注意を払った事項の中から更に、当年度の財務諸表の監査において、職業的専門家として特に重要であると判断した事項を監査上の主要な検討事項として決定しなければならない(9項)としています。
 この要求事項に関連して、特に重要であると判断した事項の概念は、個々の監査業務において適用される。したがって、監査人は、当該監査における相対的な重要性を考慮して、被監査会社に特有の事項を識別し、監査上の主要な検討事項を決定する(A28項)としています。しかし、この規定における「特に重要であると判断した事項」と「監査上の主要な検討事項」との関係が理解できません。
 それゆえに、ISAを参照すると、”The concept of matters of most significant is applicable in the context of the entity and the audit that performed. As such, the auditor’s determination and communication of key audit matters is intended to identify matters specific to the audit and to involve making a judgment about their importance relative to other matters in the audit.”(特に重要であると判断した事項の概念は、企業と実施する監査との関連で適用される。そのように、監査上の主要な検討事項に関する監査人の決定とコミュニケーションは、監査に特有な事項を識別するように、また監査におけるその他の事項にとって相対的な大事さについての判断に関連するように意図されている)です。
 したがって、A28項の規定は、特に重要であると判断した事項の概念が監査対象企業と監査人が実施する監査に関連した具体的な事項であること、また、監査上の主要な検討事項に関する決定とコミュニケーションが監査に特有の事項(監査上の主要な検討事項)を識別することを目的としており、その識別に際して、監査上の主要な検討事項とならなかった特に重要であると判断した事項の監査における大事さについて判断することが必要ということと解します。つまり、いくつもの特に重要であると判断した事項から、数点(a smaller number)の監査上の主要な検討事項を決定するということです。
 なお、監基報が、”significance”や“importance”をいずれも「重要(性)」と訳出しているために、監査上の重要性(audit materiality)と同義と理解されがちであるため、異なる用語を用いる方がベターと考えます。

19.監査上の主要な検討事項の決定に関する考慮事項
 監査役等とコミュニケーションを行った事項(a matter)の相対的な重要性(the relative significance)及び当該事項が監査上の主要な検討事項(a key audit matter)となるかどうかの決定に関連するその他の考慮事項には、例えば以下が含まれる(A29項)としています。
 この監査役等とコミュニケーションを行った事項が特に重要と判断した事項であり、この規定では単数の事項に関する考慮事項について記述していることに留意が必要です。
 特に重要と判断した事項が監査上の主要な検討事項として決定する際の考慮事項として列挙されている事項・項目は次の通りです(A29項参照)。
・想定される財務諸表の利用者による財務諸表の理解にとっての重要性(importance)、特に、当該事項の財務諸表における重要性(materiality)
・当該事項に関する会計方針の特性(nature)、または同業他社と比較した場合の、経営者による会計方針の選択における複雑性または主観的な判断の程度(the complexity or subjectivity)
・当該事項に関連して虚偽表示が識別された場合、不正または誤謬による虚偽表示(修正済みか未修正かを問わない。)の内容(nature)および金額的または質的な(quantitatively or qualitatively)重要性(materiality)
・当該事項のために必要となる監査上の対応状況(the nature and extent of audit effort needed to address the matter)。例えば、以下が挙げられる。
‐監査手続を実施するために、または当該手続の結果を評価するために必要な専門的な技能又は知識
‐監査チーム外の者に対する専門的な見解の問合せの内容
・監査手続の実施、結果の評価および監査意見の基礎となる監査証拠の入手の難易度。特に監査人の判断が主観的になる場合においては、監査意見の基礎となる適合性が高く証明力の強い監査証拠の入手には困難が伴う。
・当該事項に関連して識別された内部統制の不備の程度
・当該事項は、関連する複数の監査上の考慮事項を含んでいるかどうか。例えば、長期契約は、収益認識、訴訟またはその他の偶発事象に関する監査人が特に注意を払った事項を含むことがあり、また、他の会計上の見積りに影響を与えることがある。

 最初の考慮事項は、十分理解できませんが、財務諸表・監査報告書の利用者の関心が高い事項について監査上の重要性を考慮することと解します。この考慮事項は、前回において触れた、監査人が特に注意を払った事項の決定に際しての考慮事項(A17項)と内容的には同一です。
 二番目の考慮事項は、前回読み解いた、要求事項8項(2)およびそれに関連したA23項とA24項と内容的に同一です。
 三番目の考慮事項は、特に重要と判断した事項に関して虚偽表示を発見した場合、その内容や重要性を検討することです。
 四番目の考慮事項は、前回読み解いた、要求事項8項の監査人が特に注意を払った事項に関する考慮項目に関連したA13項、A14項とA15項と内容的に同一です。
 五番目の考慮事項が十分理解できません。そのためISAを参照すると、“the nature and severity of difficulties in applying audit procedures, evaluating the results of those procedures, and obtaining relevant and reliable evidence on which to base the auditor’s opinion, in particular as the auditor’s judgments become more subjective”(特に監査人の判断がより主観的になるため、監査人の意見の基礎となるものに対する監査手続の実施、その手続の結果の評価および適合し信頼できる証拠(適切な証拠)の入手に際しての困難性の内容と厳しさ)です。
 したがって、A16項に関連して述べた、特に注意を払う領域・事項についてもった予備的見解(preliminary view)のように、監査人の判断が主観的であるがゆえに、監査証拠によって裏付けられることが必要であり、そのため、監査証拠を入手する際の困難性や厳しさを考慮して監査手続を実施し、入手した監査証拠の十分性と適切性を評価して監査意見を形成することという、監査手続の選択・実施に際しての留意事項を考慮事項として記述しているものと解します。
六番目の考慮事項は、特に重要と判断した事項に識別された内部統制の不備の厳しさ(the severity any control deficiencies)であり、前回読み解いた、要求事項8項(1)に関連したA21項とA22項と内容的に同一です。
 最後の考慮事項の例示は、前回読み解いた、要求事項8項(1)に関連したA19項、A20項やA21項と同一であり、特に注意を払った事項が最初の考慮事項から五番目の考慮事項のうち複数の事項と関係していないかどうかを考慮することを記述していますが、要求事項8項の(1)から(3)の複数の項目に該当することがある(A17項)としていることと内容的には同一と解します。
 これらの考慮事項は、監査の終了時点での監査上の主要な検討事項の決定に際しての考慮事項ですが、監査計画の立案の段階から監査上の主要な検討事項の決定に至るまで考慮する事項であり、監査役等と十分なコミュニケーションを行ってきた事項であることに留意が必要です。

20.監査上の主要な検討事項の決定
 監査上の主要な検討事項として決定する際に考慮する事項は、上記のように記述されていますが、そのような考慮を行って決定した、具体的な監査上の主要な検討事項が記述されていません。
 ただし、後述する要求事項14項において、除外事項(虚偽表示)に基づいて限定意見または不適正意見を表明する場合または継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められる場合は、その性質上、監査上の主要な検討事項に該当するが、監査人はこれらの事項を監査報告書の「監査上の主要な検討事項」区分に記載してはならない(14項参照)としています。しかし、「監査上の主要な検討事項」区分に記載する事項については言及されていません。
 ISA 701の公開草案では、無限定適正意見の場合の監査報告書の例示として、個々の監査業務と企業の事実および状況に応じて変更されることが想定されているとしながらも、以下の四つの重要な監査事項を掲げていました(EM 29、13頁例示)。
・のれん 減損テストの評価への評価専門家のアシストを受けたこと、のれんの回付可能額の算定に重大な影響を及ぼす当該テストの結果に最も敏感な仮定に係る開示の適切性を重要な監査事項とした旨
・金融商品の評価 当該評価が市場価格でないため重要な不確実性があることを重要な監査事項とした旨。
・XYZビジネスの取得 買収が終了したが、取得価額が暫定のため、一年後の決定額と差異があり得ることを重要な監査事項とした旨
・長期契約に関連する収益認識 当該収益認識に経営者の重要な判断が関連しているため、特別な検討を必要とするリスクとして識別していることを重要な監査事項とした旨。監査では契約に係る覚書があることに関する証拠は入手していない旨。

 この公開草案に対するコメントは、例示されていた四つの事項が監査対象の企業に該当があれば、当然にKAMとすることが求められていると解されたため、全般的に、すべての状況でKAMとして報告される事項を特定することは決まり文句となり(boilerplate)利用者にあまり適合しない情報の提供とみられてしまう(BC 19)と反対しました。そのため、ISA 701はこの例示を削除しました。
したがって、ISA701および監基報701の下では、監査人は自らの判断でKAMを選定(決定)しなければならないことに留意が必要です。

21.監査上の主要な検討事項の数
 監査人が特に注意を払った事項のうち、当年度の財務諸表監査において特に重要であると判断した事項の決定は、その数を含め、職業的専門家としての判断による。監査報告書に含まれる監査上の主要な検討事項の数は、一般に、企業の規模及び複雑性、事業及び環境、並びに監査業務の状況により影響を受ける(A30項前段)として、その前半は、特に注意を払った事項の中から職業専門家の判断で、どの事項が、またいくつの事項(which, and how many)が特に重要であると判断した事項であるかを決定するというプロセスを記述していますが、後半は、一転して、監査上の主要な検討事項の数に及ぼす影響を記述しています。この前半と後半の繋がりを十分理解できません。なお、後半の記述にある「一般に」に該当する記述はISAにはなく、「監査業務の状況」は”the facts and circumstances of the audit engagement”(監査業務の事実と状況)のため若干ニュアンスが異なっています。
 また、一般的には、監査上の主要な検討事項として当初決定された事項の数が多いほど、監査上の主要な検討事項の定義に照らして、当該事項の各々について監査上の主要な検討事項に該当するかどうかをより慎重に再度検討する必要性が高い。監査上の主要な検討事項として選定した項目が多い場合は、監査において特に重要ではない事項が含まれている可能性があるためである(A30項後段)として、当初決定した監査上の主要な検討事項の数が多い場合には、それぞれの事項について監査上の主要な検討事項に該当するかどうかを慎重に再検討することを求めています。
 このA30項の全体を十分理解できません。その理由が、前段の前半と後半がつながらず、前段と後段もつながっていないからだと思います。ISAは、前段と後段に区分されていません。監基報は記述が長文であるため区分したものと解します。
 A30項の全体は、特に注意を払った事項の中から職業専門家の判断で特に重要であると判断した事項を決定して、記述されていませんが、特に重要であると判断した事項の中から職業専門家の判断で監査上の主要な検討事項(KAM)を決定すること、その決定した監査上の主要な検討事項(KAM)の数が多い場合には、慎重な再検討によりその数を絞り込んで、監査報告書に記載する監査上の主要な検討事項(KAM)の数を慎重な再検討により絞り込むことを記述していると解します。
 このように解してもまだしっくりと腹落ちしません。その理由は、監査上の主要な検討事項(KAM)をどれほどの数に絞り込めば良いかが分からないからだと思います。監査上の主要な検討事項(KAM)の数について、すでに読み解いたように、A9項には記述されていませんが、ISA A9項は監査人が監査上の主要な検討事項として決定する事項の数について「数点」(a smaller number)で良いことを明らかにしています。
 したがって、A30項の記述の趣旨は、特に重要であると判断した事項から当初決定した監査上の主要な検討事項(KAM)の数が「数点」以上である場合には、慎重な再検討により「数点」にまで絞り込むことを規定していると解します。

22.監査上の主要な検討事項の報告
 監査人が監査報告書において監査上の主要な検討事項を報告する(communicating)ときには、監査人は、監査報告書に「監査上の主要な検討事項」区分を設け、…個々の監査上の主要な検討事項に適切な小見出しを付して記述しなければならない。また、「監査上の主要な検討事項」区分の冒頭に以下を記載しなければならない(10項)としています。
(1) 監査上の主要な検討事項は、当年度の財務諸表の監査において、監査人が職業的専門家として特に重要であると判断した事項である。
(2) 監査上の主要な検討事項は、財務諸表全体に対する監査の実施過程及び監査意見の形成において監査人が対応した事項であり、当該事項に対して個別に意見を表明するものではない。
 この要求事項について追加説明は不要であろうと考えます。
 要求事項10項に関連して、個々の監査業務特有の情報は想定利用者にとって価値があると想定されるため、『監査上の主要な検討事項』区分は監査報告書において『監査意見』区分及び『監査意見の根拠』区分の後に記載され、これにより、当該情報への注意が促される(A31項)としていますが、冒頭の「想定利用者にとって価値があると想定されるため」とは監査報告書の記述との関連において何を指しているのかが不明です。
 そのためISAを参照すると、”Placing the separate Key Audit Matters section in close proximity to the auditor’s opinion may give prominence to such information and acknowledge the perceived value of engagement-specific information to intended users.”(監査意見のすぐ近くに個別の「監査上の主要な検討事項」区分を配置することは、そのような情報(監査上の主要な検討事項に記載された情報)を目立たせ、監査業務に特有の情報について知覚された価値を想定利用者に知らせる)ですから、「価値」は想定利用者にとっての価値ではなく、情報の価値であり、監査報告における情報の価値を向上させるのが監査上の主要な検討事項(KAM)であるということと解します。
 また、要求事項10項に関連して、監査報告書の『監査上の主要な検討事項』区分における個々の事項の記載順序は、職業的専門家としての判断に係る事項である。例えば、監査人の判断に基づき、相対的な重要性に応じて、又は財務諸表における表示又は注記事項の順序に合わせて記載することがある。また、個々の監査上の主要な検討事項を区別するために、10項は、それぞれに小見出しを付して記載することを求めている(A32項)としています。
 監査報告書に「数点」(a smaller number)の監査上の主要な検討事項(KAM)を記載する際には、その順序は監査人が決定し、それぞれのKAMについて小見出しを付すことを説明しているだけです。なくとも良い規定です。

 次回は、比較情報とKAMの関係と監査報告書の記載、除外事項付意見の表明、個々の監査上の主要な検討事項の記載などについて読み解ききます。

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