2019年 監基報200 読み解き(その1)

 本日から2019(令和元)年6月に改正された監基報200「財務諸表監査における総括的な目的」を読み解いていきます。
 私とって監基報200は、監査上の基本的かつ重要な概念に関する理解が異なっているからと思いますが、理解が非常に難しい監基報の一つです。理解の相違については追々読み解きに際して開陳していきます。
 そのため、本読み解きが何回にわたるかは予想できませんが、第一回目の今回は、制定から今回の改正に至る経緯を概観し、財務諸表監査の定義、想定利用者の信頼、財務報告の枠組み、および財務報告の枠組みについて読み解いていきます。
 なお、次回からは、本則に戻って、5日、10日、15日、20日および25日に読み解きを行っていきます。

はじめに
 監査基準委員会報告書200「財務諸表監査における総括的な目的」(以下「監基報200」という。)は、監査基準委員会報告書のみでなく、監査・保証実務委員会報告などの監査実務指針などを含む、監査実務指針全体に係る総論的な報告書です。
 監基報200は、国際監査基準(International Standards on Auditing; ISA)のクラリティ版への改正に対応するため、監査基準委員会報告書の新起草方針に基づいて2011(平成23)年12月に制定(新設)されました。その後、2013(平成25)年3月に制定された企業会計審議会「監査における不正リスク対応基準」(以下「不正リスク対応基準」という。)およびそれに伴う監査基準改訂に対応するために2013(平成25)年6月に改正されました。また、2014(平成2 6)年4月に監基報800「特別目的の財務報告の枠組みに準拠して作成された財務諸表に対する監査」の制定(新設)に伴い一部改正され、2015(平成27)年5月に監査等委員会の加筆のための一部改正が行われました。さらに、2019(令和元)年6月に監基報701の「監査上の主要な検討事項」の制定(新設)に伴い、「財務諸表」の定義に係る修正や改正以前の「統治責任者」を「ガバナンスに責任を有する者」への用語変更を中心に改正されました。
 2011(平成23)年12 月に監基報200が制定(新設)される以前では、監査基準委員会報告書には、ISA 200の総論的位置付けゆえに我が国においてそれに相当するものが「監査基準」であるとして、我が国にISA 200を直接的に導入していませんでした。事実、平成14年の「監査基準」の改訂以降の議論の多くはISA 200を中心に行われています。しかし、監査基準委員会は、クラリティ版ISAを全面的に導入するという新起草方針によりISA 200の翻訳版として監基報200を制定(新設)しました。
 監基報200の構造は他の報告書と同様に「範囲と目的」、「要求事項」および「適用指針」となっていますが、一般に公正妥当と認められる監査の基準に準拠した財務諸表監査の実施に関する実務上の全般的な指針を提供するものであり、特に、本報告書では、監査人の総括的な目的を記載するとともに、当該目的を達成するために実施される監査が有する性質と範囲について説明している(1項前段参照)としています。したがって、監基報200の内容は総論的性格のため他の監基報とは趣を異にし、主として財務諸表監査に関連する概念の説明となっています。
 また、監基報の範囲、位置付けおよび体系を説明し、さらに、全ての監査において適用される監査人の一般的な責任についての要求事項(一般に公正妥当と認められる監査の基準に準拠することを含む。)を記載している(1項後段参照)としています。
 監査人に関連する、一般的でない責任について、例えば、有価証券の募集に関連する法令等において規定されている監査人の責任を取り扱っていないが、関連する法令上の義務または職業的専門家としての義務を全て遵守する責任が監査人にはある(2項後段参照)として、監基報が規定していない、法令(例えば、金商法、会社法、監査を要求している各種業界の特別法)の責任・義務を遵守して監査を実施する必要があるとしています。
 なお、監基報200は、我が国に適合しないISAの規定を削除または修正しています。そのためもあるかと思いますが、監基報の理解が結構難しい箇所が多数あります。これからの読み解きに当たっては、我が国に導入されなかったISAの規定には触れませんが、修正されて導入された規定などについては、可能な限り、その旨を指摘することにします。

1.財務諸表監査の定義
 監基報200は、「財務諸表監査」(an audit of financial statements)(「監査」と略称されます。)についての正式な定義を示していません。しかし、監査は、想定利用者の財務諸表に対する信頼性を高めるために行われ、財務諸表が、すべての重要な点において、適用される財務報告の枠組みに準拠して作成されているかどうかについて、監査人が意見を表明することにより達成される。一般目的の財務諸表の場合、監査意見は、財務諸表が、適用される財務報告の枠組みに準拠して、すべての重要な点において適正に表示しているかどうかについて表明されることが多い(3項)としています。
 この規定に記述されている、「一般目的の財務諸表」や「財務報告の枠組み」については後に詳細に読み解きます。
 さて、この3項の記述が実質的な財務諸表監査の定義と解します。定義らしく書き換えると次のようになります。

『財務諸表監査は、一般目的の財務諸表の場合、想定利用者の財務諸表に対する信頼性を高めるために、財務諸表が適用される財務報告の枠組みに準拠してすべての重要な点において適正に表示しているかどうかについて監査人が意見を表明することにより達成される。』

 このように書き換えても、監査は監査人が意見を表明することにより達成されるということは、監査が終了することを意味しているのか、あるいは、想定利用者の信頼性を高めることが達成されると解すべきなのでしょうか。十分理解できません。そこでISAを参照すると、”The purpose of an audit is to enhance the degree of confidence of intended users in the financial statements. This is achieved by the expression of an opinion by the auditor …”(監査の目的は財務諸表に対する想定利用者の信頼の程度を高めることである。これは監査人による意見の表明によって達成される。)です。監基報は、この二つの分を一つにまとめて記述して、監査の「目的」が訳出されなかったため、「監査の目的が達成される」こと、すなわち監査の目的は監査意見の表明にあるという肝心なことが抜けています。
 また、監査人は、一般に公正妥当と認められる監査の基準および関連する職業倫理に関する規定に準拠して監査を実施することにより、当該意見を形成することができる(3項)としています。
 我が国では、後述するように、関連する職業倫理に関する規定は、一般に公正妥当と認められる監査の基準に包含されています。この規定は、”ISAs”を「一般に公正妥当と認められる監査の基準」に限定した訳出したことに起因していますが、その規定範囲が異なっているため誤解を与える記述となっています。
 さらに、監基報は、監査人による財務諸表監査の観点から記載されている。したがって、その他の過去財務情報の監査に対して適用される場合には、状況に応じて適宜読み替えて適用されることになる(2項前段)としています。
 監基報および「監査基準」が規定している監査は、一般に公正妥当と認められる監査の基準に準拠した財務諸表監査(1項)であるため、その他の過去財務情報の監査は、例えば、貸借対照表(例えば、企業価値評価の基礎として利用する場合)のみ、または一部の財務諸表項目(例えばロイヤリティ監査のための売上高)のみの監査(いわゆる特別目的の財務諸表監査)が考えられますが、損益計算書、貸借対照表、株主資本等変動計算書およびキャシュ・フロー計算書)および関連する開示(注記事項)によって構成されるセットとしての財務諸表ではないため財務諸表監査とは異なっていると解します。したがって、これらの過去財務情報の監査に関して、監基報800シリーズ以外の監基報が適用される筋合いにありません。
 しかし、監査手続の適用などに関して監基報の規定内容が参考になることがあるため、状況に応じて適宜読み替えて適用されるとしているものと解します。それでも、監基報が適用されるのではなく、あくまで参考にすると解すべきです。端的に言えば、特別目的の財務諸表監査は、私の理解する財務諸表監査ではないということです。そのため、本読み解きでは、特別目的の財務諸表監査に関連する記述は対象外としています。
 ところで、監査意見に関連して、監査意見は、例えば、企業の将来の存続可能性を保証したり、経営者による業務遂行の効率性や有効性を保証したりするものではない。しかしながら、国によっては、法令等により、他の特定の事項(例えば、内部統制の有効性や、財務諸表と財務諸表以外の経営者による報告書との整合性等)について、監査人による意見の表明が要求されている場合がある。監査基準委員会報告書には、財務諸表に対する意見形成に関連する範囲で、そのような他の特定の事項に関連する要求事項と適用指針が含まれているが、そのような意見を提供する追加的な責任を有する場合、監査人は追加的な作業の実施が要求されることになる(A1項)としています。
 監査意見が企業の将来の存続可能性を保証したり、経営者による業務遂行の効率性や有効性を保証したりするものではないことは、監査意見が職業専門家の判断(所見)を表明しているに過ぎないことから、監査報告書が保証書ではないことは明らかです。内部統制監査は、経営者の評価報告書に対する意見を表明しますが、それは財務諸表監査ではなく、内部統制の有効性に関する意見表明でもありません。また、我が国では、現状、経営者の財務諸表以外の報告書との整合性に関する意見を表明することはありません。また、財務諸表監査ではないことは明らかです。
 監基報にこのような特定事項に関連する規定が含まれているとしていますが、我が国においては関係がなさそうです。当該規定に気付いたときには、その旨を再度述べます。

2.想定利用者の信頼
 3項に記述されている、「想定利用者の財務諸表に対する信頼性を高める」ということが、監査が財務諸表に対する想定利用者の信頼性を直接高めることを意味しているのかという疑問によって十分理解できません。
 想定利用者は、財務諸表および監査報告書を利用する人々や企業や団体であり、監査対象会社の投資者をはじめとして、ステークホルダー(利害関係者)と呼ばれています。これまでの一般的な説明は、財務諸表監査は、監査対象会社のステークホルダーの経済的意思決定に資するために、財務諸表が適正に表示されているという監査意見の表明によって財務諸表の信頼性を保証する、というものです。
 ステークホルダーの経済的意思決定に資することは、ステークホルダーが安心して財務諸表を意思決定に利用できるということです。それによって、ステークホルダーの財務諸表に対する信頼を監査が高めることです。監査人は監査意見を表明して財務諸表が信頼できることを財務諸表と監査報告書の利用者に保証します。つまり、監査が「信頼性を高める」ことは、監査が保証を付与することであり、監査によって保証された財務諸表の信頼性が、監査がない場合に比して高いということです。
 このように理解すると、「財務諸表に対する想定利用者の信頼性」と「財務諸表の(に対する)信頼性」は、視点が異なっています。監査人と想定利用者(ステークホルダー)の関係は、監査報告書を媒介とした関係であり、直接的な関係には立ちません。そのため、想定利用者の財務諸表に対する信頼を直接高めると解される、監基報200の記述に対する違和感は払拭できません。

3.財務報告の枠組み
 3項の記述にもう一つの大きな違和感があります。それは、財務諸表が財務報告の枠組みに準拠して作成されているかどうかに関して監査意見を表明する、としていることです。これまでの財務諸表監査は、2014(平成26)年改訂監査基準以前の監査基準における監査の目的を引用するまでもなく、財務諸表の適正性(適正表示)の監査、すなわち一般目的の財務諸表の監査でした。しかし、2011(平成23)年12月に制定(新設)された新起草方針による監基報200は、財務諸表監査の範囲を、一般目的の財務諸表の適正性(適正表示)の監査のみでなく、財務諸表の準拠性の監査(特別目的の財務諸表の監査)にまで拡大しました。この監基報200が先行した財務諸表監査の範囲の拡大への監査基準の対応は平成26年改訂監査基準によって行われました。
 「適用される財務報告の枠組み」(applicable financial reporting framework)という用語は、新起草方針による監基報200が初めて採用し、財務諸表の作成と表示において、企業の特性と財務諸表の目的に適合する、または法令等の要求に基づく、経営者が採用する財務報告の枠組みをいう(12項(13))と定義しました。
 そして、適用される財務報告の枠組みは、多くの場合、認知されている会計基準設定主体が設定する財務報告の基準(例えば、企業会計基準委員会が設定する企業会計基準、指定国際会計基準、または国際会計基準審議会が公表する国際会計基準)、または法令等により要求される事項で構成されている。財務報告の枠組みは、認知されている会計基準設定主体が設定する財務報告の基準と、法令等により要求される事項の双方で構成されていることがある(A5項)としています。この規定は我が国特有の規定です。
 認知されている会計基準設定主体が設定する財務報告の基準は、金商法に基づいて作成される財務諸表に係る企業会計の基準に他なりません。法令等により要求される事項は、会社法(具体的には、計算書類規則など)または業種別の特別法に規定されている事項と解します。また、財務報告の枠組みは、認知されている会計基準設定主体が設定する財務報告の基準と、法令等により要求される事項の双方で構成されていることがあるということは、金商法監査と会社法監査(会計監査人監査)の双方が提要される会社の作成する財務諸表・計算書類規則等に適用される状況と解することができそうですが、二つの監査にはそれぞれの財務報告の枠組みが適用されるため、厳密には、そのような状況ではないと思います。
 ISAでは、適用される財務報告の枠組みはIFRSが想定されています。そのため、「一般に公正妥当と認められる企業会計の基準」および「指定国際会計基準または国際会計基準審議会が公表する国際会計基準」も包含する用語ではありませんが、我が国の実状に合わせて、複数の会計基準を監基報に取り込んでいることに留意が必要です。
 また、その他にも、適用される財務報告の枠組みには、例えば、以下のようなものが含まれており、財務報告の枠組みの適用に関する指針を示していることがある(A5項) としています。
・会計上の問題に関する法律上および職業倫理上の外部要因(法令、判例及び職業倫理上の義務を含む。)
・会計基準設定主体、職業的専門家等の団体が公表する会計上の解釈指針(規範性はそれぞれ異なる。)
・会計上の問題に関して会計基準設定主体、職業的専門家等の団体が公表する見解(規範性はそれぞれ異なる。)
・一般的な実務慣行及び業界の実務慣行
・会計に関する文献
 これらの適用に関する指針に関する例示は、従来の「一般に公正妥当と認められる企業会計の基準」(GAAP)の規範性または構造に関する説明とほぼ同一です。
 ところで、「適用される財務報告の枠組み」は、監査報告書において記載さている「一般に公正妥当と認められる企業会計の基準」(GAAP)と同一ということができないと解します。なぜならば、監査実務指針を構成している、監査・保証実務委員会実務指針第85号「監査報告書の文例」によれば、企業会計基準委員会が設定する企業会計基準に準拠して作成された財務諸表に対する監査報告書では、我が国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して、…適正に表示しているものと認めると記載し、指定国際会計基準または国際会計基準審議会が公表する国際会計基準に準拠して作成された財務諸表に対しては、監査報告書上では(指定)国際会計基準に準拠して、…適正に表示しているものと認めると記載する、としているからです。つまり、指定国際会計基準または国際会計基準審議会が公表する国際会計基準は、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に含まれていません。
 適用される財務報告の枠組みは、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準、指定国際会計基準および国際会計基準審議会が公表する国際会計基準によって構成されていることに留意が必要と考えます。
 なお、財務報告の枠組みとその適用に関する指針を示す文書等の間で、または財務報告の枠組みに含まれる文書等の間で不整合が生じている場合には、最も規範性の高いものが優先して適用される(A5項)としていますが、現状では、我が国では会計基準や解釈指針等の間に不整合は生じていないものと解されるため、この記述は現状のわが国には該当しないと考えます。


 次回は、適正表示の枠組みと準拠性の枠組み、財務諸表、財務諸表に係る2019年改正などについて読み解きます。

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