2019年 監基報300 読み解き(その5 最終回)
今回は、最終回として、監査計画の修正、指示、監督および監査調書の査閲、監査調書および初年度監査を読み解きます。
11.監査計画の修正
監査人は、監査実施中必要に応じて、監査の基本的な方針および詳細な監査計画を見直し修正しなければならない(9項)としています。
監査計画の修正を必要とする場合について、監査人は、予期しない出来事が生じた場合、状況が変化した場合、または監査手続の実施結果が想定した結果と異なった場合には、改訂されたリスク評価の結果に基づき、監査の基本的な方針および詳細な監査計画ならびにこれらに基づき計画したリスク対応手続の種類、時期および範囲を修正することが必要な場合がある(A15項)としています。
「予期しない出来事」は、“unexpected events”ですから、「予想していなかった事象」と訳出すべきです。「事象」を新たに「出来事」とする必要性はまったくないと考えます。
「監査手続の実施結果が想定した結果と異なった場合」は、”As a result of … the audit evidence obtained from the results of audit procedures, …”(監査手続の結果から入手した監査証拠の結果として)です。”as a result of”を「場合」としていることはともかくとして、「実施結果が想定した結果と異なった」という趣旨はISAには全くありません。監基報の意訳ということでしょうが、監査計画の修正を必要とする監査手続の実施の結果には、想定した結果と異なる場合のみでなく、整い過ぎている証拠資料(多くは文書証拠)に違和感を覚えることもあります。例えば、監査人に提出された複数の契約書が、契約条項が全く同一で、捺印されている印鑑もどこか類似しており、捺印の朱肉の色も同じであったような場合です。
したがって、予想していなかった事象の発生、状況の変化および監査手続の結果から入手した監査証拠の結果として、監査計画を修正することが必要となり、それによって、評価したリスクについての改訂の検討に基づいて、リスク対応手続について計画した実施する手続、その実施時期と範囲を結果的に修正することが必要となる、ということです。
また、監査手続を計画した時点での利用可能な情報と著しく異なる情報に監査人が気付いた場合がこれに該当する。例えば、内部統制の運用評価手続から入手した監査証拠とは矛盾する監査証拠を実証手続の実施過程で入手した場合である(A15項)としています。
「これに該当する」とは何に該当するか明示していません。例えば、内部統制の運用評価手続から入手した監査証拠とは矛盾する監査証拠を実証手続の実施過程で入手した場合のように、監査手続を計画した時点での利用可能な情報と著しく異なる情報に監査人が気付いた場合には、監査計画を修正しなければならない、ということです。
つまり、監査の実施の過程で(リスク対応手続の実施中に)、計画策定に際して入手した情報・証拠と一貫していない情報・証拠、追加的な情報や証拠あるいは新たな情報・証拠を入手した場合、監査計画の更新、追加・変更が必要です。そして、識別・評価した重要な虚偽表示リスクや特別な検討を必要とするリスクの改訂の要否を検討し、必要に応じて改訂しなければなりません。リスクの評価が改訂されたときには、実施するリスク対応手続、その実施時期と範囲を変更しなければなりません。
12.指示、監督および監査調書の査閲
監査人は、監査チームメンバーに対する指示、監督および監査調書の査閲の内容、時期および範囲を計画しなければならない(10項)としています。
すでに2項の読み解きに関して、「監査チームメンバーに対する指示(direction)、監督(supervision)および監査調書の査閲(the review of their work)を適切に行う」ために監査計画を策定・作成することを読み解きました。このことを改めて要求事項として規定したのが(10項)です。
しかし、「指示、監督および監査調書の査閲の内容、時期および範囲を計画」ことが十分理解できません。そのため、ISAを参照すると”The auditor shall plan the nature, timing and extent of direction and supervision of engagement members and the review of their work.”(監査人は、監査業務メンバーへの指示と監督の内容、時期と範囲を計画し、また、メンバーの業務についてのレビューを計画しなければならない。)です。したがって、「内容、時期と範囲」について監査計画を策定・作成するのは「指示と監督」についてであり、メンバーの実施した作業のレビューは、メンバーの作成した監査調書の査閲のみでなく、実施中の作業そのもののレビューを含んでいます。
ところで、監基報は「指示と監督」についてその内容を明らかにしていません。私見では、監査責任者またはマネジャーが監査チーム・メンバー(監査スタッフ)に対して実施すべき事項を「指示」して、その指示に従って業務を実行しているかどうかを「監督」します。そのため、「メンバーの実施した作業のレビュー」は「監督」に包含されていると解します。
また、「指示」は、監査チーム内の協議または監査計画書(監査手続書)に関する説明に際して口頭または文書によって行います。「監督」は、監査スタッフの監査実施に際しての行動の観察や協議・説明によっても行いますが、監督のメインは「監査証書の査閲」です。監査責任者またはマネジャーは監査調書の査閲結果について、未了のまたは追加すべき監査手続を「レビュー・メモ」または「To Doメモ」に記述するだけでなく、必要に応じて、スタッフを協議すべきと解します。それによって、スタッフが十分かつ適切な監査証拠を的確に入手していることに同意できます。
あるいは、スタッフの結論や気掛かりについて、異なる判断を監査責任者またはマネジャーが行った場合には、自己の結論・判断を当該監査調書に記述して、スタッフと協議するか、またはスタッフが後日読むことを必須とすべきであると考えます。このようなスタッフの作業実施に係る観察や協議によって「指導監督」を実行することが監査責任者またはマネジャーの責務と解しています。
2項の読み解きに関連して、監査上の指揮・監督と監査調書のレビューは具体的な予定を計画することに馴染みません、と述べました。監査上の指揮、指導監督および監査調書のレビューは、監査の実施局面ごとの完了に際して実施することを予定することは可能神しれませんが、しかし、必要に応じて、いつでも、どこでも実施すべきであるため、それを事前に具体的・詳細に計画することは事実上不可能です。
さらに、監査チームメンバーに対する指示、監督及び監査調書の査閲の内容、時期及び範囲は、以下のような多くの要因によって異なる(A16項)としています。
・企業の規模と複雑性
・監査の領域
・評価した重要な虚偽表示リスク(例えば、特定の監査の領域に対して重要な虚偽表示リスクが高まると、通常はこれに対応して、監査チームメンバーへの指示と監督の程度を広げるとともに適時に行うことや、より詳細に監査調書の査閲を行うことが要求される。)
・監査業務を実施する監査チームの個々のメンバーの能力及び適性
これらの要因についての読み解きは不要と考えます。
なお、監基報220の14項から16項が監査業務の指示、監督および監査調書の査閲に関する詳細な指針を記載している(A16項)としています。監基報220の読み解きに際して、そこに規定されている監査業務の指示、監督および監査調書の査閲を読み解きます。
13.監査調書
監査人は、以下の事項を監査調書に記載しなければならない(11項)としています。
(1)監査の基本的な方針
(2)詳細な監査計画
(3)監査の基本的な方針または詳細な監査計画について監査期間中に行われた重要な変更の内容およびその理由。
(1)の監査の基本的な方針を監査調書に記載することに関して、監査の基本的な方針の監査調書は、監査を適切に計画し、重要な事項を監査チームメンバーに伝達するために必要と考えられる、主要な決定事項を記録するものである(A17項)としています。
監査の基本的な方針の監査調書は、監査戦略(Overall Audit Strategy)として監査計画の概略を決定した監査計画書であるため、適切な監査計画の策定および重要な事項の監査チームメンバーへの伝達に必要であるために、主要な事項(監査計画の概略)を決定したことを示す監査調書である、ということです。
そして、例えば、監査人は、監査の基本的な方針、すなわち監査の全体的な範囲、実施時期および実施に関する主要な決定事項などを簡潔な様式により文書化することがある(A17項)として、簡易な様式としてメモランダム方式を容認しています。
(2)の詳細な監査計画を監査調書に記載することに関して、詳細な監査計画の監査調書は、計画したリスク評価手続ならびに評価したリスクに対応して計画したアサーション・レベルにおけるリスク対応手続の種類、時期および範囲を記録するものである(A18項)としています。
実施するリスク評価手続およびリスク対応手続、それらの時期と範囲を監査調書として記録するものは、詳細な監査調書を構成する「監査手続書」(Audit Program)です。詳細な監査調書と記載されるべきもっと重要な項目は、監査人によるリスク評価の基礎となる「企業とその環境に関する理解(内部統制を含む。)」およびリスク評価の結果である「重要な虚偽表示のリスクの識別・評価」に係る監査調書です。そして、往査事業所別計画(重要な構成単位を含む。)、勘定科目別担当者計画等々、これまでの読み解きにおいて示した監査計画書を含みます。
また、監査手続の実施に先立って監査手続の計画の適切性を査閲および承認するための記録としても有用である(A18項)としています。しかし、この記述には同意できません。すべての監査計画書は、監査人(監査責任者)または監査マネジャーのレビュー・承認を要することが前提であり、計画書の作成者に一任すべきではありません。したがって、この一文は削除すべきと考えます。
さらに、監査人は、標準的な監査手続書または監査完了チェックリストを個々の監査業務の状況を反映するために必要な修正を加えた上で使用することもある(A18項)としています。
この記述は、効率性のため監査事務所に所定されている標準監査手続書や各種チェックリストを実施する監査の状況に合わせて必要な修正を加える(tailored or tailor made)ことがあるのではなく、必要な修正を加えなければならないと解します。そして、このような記述は監査事務所の監査マニュアル等に規定すべき項目であり、監査の基準としては不要な規定であると解します。
(3)の監査の基本的な方針または詳細な監査計画について監査期間中に行われた重要な変更の内容およびその理由を監査調書に記載することに関して、監査の基本的な方針および詳細な監査計画に対する重要な変更、これに伴う監査手続の種類、時期および範囲に対する変更の記録は、重要な変更が行われた理由および最終的な監査の基本的な方針と詳細な監査計画を採用した理由を説明する。これには、監査期間中に発生した重要な変更への適切な対応についても反映させる(A19項)としています。
監査の基本的な方針または詳細な監査計画の監査期間中に行われた重要な変更の内容が、監査の基本的な方針および詳細な監査計画に対する重要な変更ならびにその重要な変更に伴う監査手続の種類、時期および範囲に対する変更であり、監査調書に記載する理由は、重要な変更が行われた理由および最終的な監査の基本的な方針と詳細な監査計画を採用した理由です。
重要な変更が行われた理由の記載は、監査期間中に監査計画を変更することにすでに明らかであるため、「…によりAをBに変更する」旨を記述すれば足りるということです。また、最終的な監査の基本的な方針と詳細な監査計画を採用した理由は、変更後の監査計画を示すことであり当然なことと解します。「…に重要な虚偽表示の兆候を識別したため、それが重要な虚偽表示の可能性があるか(疑義があるか)を検証するためAをBに変更する」旨を記述すれば足りるということです。
14.初年度監査
監査人は、初年度監査の開始前に、以下の事項を実施しなければならない(12項)としています。
(1) 監査契約の締結の可否に関して、監基監220で要求される事項
(2) 監査人の交代が行われる場合には、職業倫理に関する規定および監基報900「監査人の交代」で要求される前任監査人からの引継
この12項が監査計画の立案との関連について記述していないため、十分理解できません。ただ、これらの活動から入手した情報は監査計画策定に際して活用されなければならないことは当然です。
監査契約の締結の可否に関して監基報220で要求される事項は、「監査責任者は、監査契約の新規の締結・更新に際して監査事務所の方針・手続に従って適切に行われたことを確かめ、その結論が適切であることを判断しなければならない」(監基報220 11項)こと、「監査責任者は、監査契約の新規の締結及び更新に当たり、不正リスクを考慮して監査契約の締結及び更新に伴うリスクを評価すること」(同 F11-2項)、および「監査責任者は、監査契約締結以前に入手していれば監査契約の締結を辞退する原因となる情報を契約締結後に入手した場合、監査事務所または監査責任者が必要な対応をとることができるように、その情報を監査事務所に速やかに報告しなければならない」(同 12項)ことです。これらは、監基報220の読み解きに際して検討しました。
また、監基報900は我が国独自の規定です。また、職業倫理に関する規定は我が国では監査の基準(GAAS)に包含されていることは監基報200、監基報220等の読み解きにおいて述べました。
要求事項12項に関連して、監査計画の目的は、初年度監査、継続監査のいずれにおいても同じである。しかし、初年度監査においては、監査人は、通常、継続監査とは異なり、監査計画の策定時に考慮できる企業における過去の経験がないため、計画活動をより広く実施することがある(A21項)としています。
この記述が初年度監査において留意が必要なことの根拠です。しかし、私見では、監査計画の策定時に考慮できる企業における過去の経験がないため計画活動、特に企業とその環境の理解(内部統制を含む。)および重要な虚偽表示のリスクの識別・評価をより広く実施すべきと解します。
また、初年度監査において、監査人が、監査の基本的な方針の策定および詳細な監査計画の作成に当たって追加で考慮する事項には、以下が含まれることがある(A21項)としています。
・前任監査人との引継(例えば、前任監査人の監査調書の閲覧)
・監査人としての選任に関して経営者と協議した主要な問題(例えば、会計基準、監査基準および報告に関する基準の適用)、監査役等へのこれらの問題に関する伝達ならびにこれらの問題が監査の基本的な方針および詳細な監査計画に与える影響
・期首残高に関して十分かつ適切な監査証拠を入手するために必要な監査手続(監基報510「初年度監査の期首残高」参照)
・初年度監査において監査事務所が定める品質管理のシステムで要求されるその他の手続(例えば、監査事務所が定める品質管理のシステムによっては、所定の担当者に、重要な監査手続の開始前に監査の基本的な方針を検討させたり、監査報告書の発行前に報告書の査閲に関与させたりすることがある。)
最初から三番目の項目は、監基報900または監基報510が規定している内容です。四番目の項目は、初年度監査に関して審査担当者に監査の基本的な方針を査閲・検討すること(the involvement)を監査事務所の品質管理ステムが規定していることがある、ということです。監基報220にも規定されていない事項であることに留意が必要です。
以上
ようやく監基報300「監査計画」の読み解きを終了します。
次の読み解きは順番からすると監基報315「企業及び企業環境を通じた重要な虚偽表示リスクの識別と評価」ですが、ボリュームがとんでもないこともあって正直なところ躊躇しています。
事前の準備を兼ねて読み解きを前倒しすることとして、年明けから監基報315の読み解きを開始しようかなと考えています。
そのため、本ブログは年明けまで休止させていただきます。
11.監査計画の修正
監査人は、監査実施中必要に応じて、監査の基本的な方針および詳細な監査計画を見直し修正しなければならない(9項)としています。
監査計画の修正を必要とする場合について、監査人は、予期しない出来事が生じた場合、状況が変化した場合、または監査手続の実施結果が想定した結果と異なった場合には、改訂されたリスク評価の結果に基づき、監査の基本的な方針および詳細な監査計画ならびにこれらに基づき計画したリスク対応手続の種類、時期および範囲を修正することが必要な場合がある(A15項)としています。
「予期しない出来事」は、“unexpected events”ですから、「予想していなかった事象」と訳出すべきです。「事象」を新たに「出来事」とする必要性はまったくないと考えます。
「監査手続の実施結果が想定した結果と異なった場合」は、”As a result of … the audit evidence obtained from the results of audit procedures, …”(監査手続の結果から入手した監査証拠の結果として)です。”as a result of”を「場合」としていることはともかくとして、「実施結果が想定した結果と異なった」という趣旨はISAには全くありません。監基報の意訳ということでしょうが、監査計画の修正を必要とする監査手続の実施の結果には、想定した結果と異なる場合のみでなく、整い過ぎている証拠資料(多くは文書証拠)に違和感を覚えることもあります。例えば、監査人に提出された複数の契約書が、契約条項が全く同一で、捺印されている印鑑もどこか類似しており、捺印の朱肉の色も同じであったような場合です。
したがって、予想していなかった事象の発生、状況の変化および監査手続の結果から入手した監査証拠の結果として、監査計画を修正することが必要となり、それによって、評価したリスクについての改訂の検討に基づいて、リスク対応手続について計画した実施する手続、その実施時期と範囲を結果的に修正することが必要となる、ということです。
また、監査手続を計画した時点での利用可能な情報と著しく異なる情報に監査人が気付いた場合がこれに該当する。例えば、内部統制の運用評価手続から入手した監査証拠とは矛盾する監査証拠を実証手続の実施過程で入手した場合である(A15項)としています。
「これに該当する」とは何に該当するか明示していません。例えば、内部統制の運用評価手続から入手した監査証拠とは矛盾する監査証拠を実証手続の実施過程で入手した場合のように、監査手続を計画した時点での利用可能な情報と著しく異なる情報に監査人が気付いた場合には、監査計画を修正しなければならない、ということです。
つまり、監査の実施の過程で(リスク対応手続の実施中に)、計画策定に際して入手した情報・証拠と一貫していない情報・証拠、追加的な情報や証拠あるいは新たな情報・証拠を入手した場合、監査計画の更新、追加・変更が必要です。そして、識別・評価した重要な虚偽表示リスクや特別な検討を必要とするリスクの改訂の要否を検討し、必要に応じて改訂しなければなりません。リスクの評価が改訂されたときには、実施するリスク対応手続、その実施時期と範囲を変更しなければなりません。
12.指示、監督および監査調書の査閲
監査人は、監査チームメンバーに対する指示、監督および監査調書の査閲の内容、時期および範囲を計画しなければならない(10項)としています。
すでに2項の読み解きに関して、「監査チームメンバーに対する指示(direction)、監督(supervision)および監査調書の査閲(the review of their work)を適切に行う」ために監査計画を策定・作成することを読み解きました。このことを改めて要求事項として規定したのが(10項)です。
しかし、「指示、監督および監査調書の査閲の内容、時期および範囲を計画」ことが十分理解できません。そのため、ISAを参照すると”The auditor shall plan the nature, timing and extent of direction and supervision of engagement members and the review of their work.”(監査人は、監査業務メンバーへの指示と監督の内容、時期と範囲を計画し、また、メンバーの業務についてのレビューを計画しなければならない。)です。したがって、「内容、時期と範囲」について監査計画を策定・作成するのは「指示と監督」についてであり、メンバーの実施した作業のレビューは、メンバーの作成した監査調書の査閲のみでなく、実施中の作業そのもののレビューを含んでいます。
ところで、監基報は「指示と監督」についてその内容を明らかにしていません。私見では、監査責任者またはマネジャーが監査チーム・メンバー(監査スタッフ)に対して実施すべき事項を「指示」して、その指示に従って業務を実行しているかどうかを「監督」します。そのため、「メンバーの実施した作業のレビュー」は「監督」に包含されていると解します。
また、「指示」は、監査チーム内の協議または監査計画書(監査手続書)に関する説明に際して口頭または文書によって行います。「監督」は、監査スタッフの監査実施に際しての行動の観察や協議・説明によっても行いますが、監督のメインは「監査証書の査閲」です。監査責任者またはマネジャーは監査調書の査閲結果について、未了のまたは追加すべき監査手続を「レビュー・メモ」または「To Doメモ」に記述するだけでなく、必要に応じて、スタッフを協議すべきと解します。それによって、スタッフが十分かつ適切な監査証拠を的確に入手していることに同意できます。
あるいは、スタッフの結論や気掛かりについて、異なる判断を監査責任者またはマネジャーが行った場合には、自己の結論・判断を当該監査調書に記述して、スタッフと協議するか、またはスタッフが後日読むことを必須とすべきであると考えます。このようなスタッフの作業実施に係る観察や協議によって「指導監督」を実行することが監査責任者またはマネジャーの責務と解しています。
2項の読み解きに関連して、監査上の指揮・監督と監査調書のレビューは具体的な予定を計画することに馴染みません、と述べました。監査上の指揮、指導監督および監査調書のレビューは、監査の実施局面ごとの完了に際して実施することを予定することは可能神しれませんが、しかし、必要に応じて、いつでも、どこでも実施すべきであるため、それを事前に具体的・詳細に計画することは事実上不可能です。
さらに、監査チームメンバーに対する指示、監督及び監査調書の査閲の内容、時期及び範囲は、以下のような多くの要因によって異なる(A16項)としています。
・企業の規模と複雑性
・監査の領域
・評価した重要な虚偽表示リスク(例えば、特定の監査の領域に対して重要な虚偽表示リスクが高まると、通常はこれに対応して、監査チームメンバーへの指示と監督の程度を広げるとともに適時に行うことや、より詳細に監査調書の査閲を行うことが要求される。)
・監査業務を実施する監査チームの個々のメンバーの能力及び適性
これらの要因についての読み解きは不要と考えます。
なお、監基報220の14項から16項が監査業務の指示、監督および監査調書の査閲に関する詳細な指針を記載している(A16項)としています。監基報220の読み解きに際して、そこに規定されている監査業務の指示、監督および監査調書の査閲を読み解きます。
13.監査調書
監査人は、以下の事項を監査調書に記載しなければならない(11項)としています。
(1)監査の基本的な方針
(2)詳細な監査計画
(3)監査の基本的な方針または詳細な監査計画について監査期間中に行われた重要な変更の内容およびその理由。
(1)の監査の基本的な方針を監査調書に記載することに関して、監査の基本的な方針の監査調書は、監査を適切に計画し、重要な事項を監査チームメンバーに伝達するために必要と考えられる、主要な決定事項を記録するものである(A17項)としています。
監査の基本的な方針の監査調書は、監査戦略(Overall Audit Strategy)として監査計画の概略を決定した監査計画書であるため、適切な監査計画の策定および重要な事項の監査チームメンバーへの伝達に必要であるために、主要な事項(監査計画の概略)を決定したことを示す監査調書である、ということです。
そして、例えば、監査人は、監査の基本的な方針、すなわち監査の全体的な範囲、実施時期および実施に関する主要な決定事項などを簡潔な様式により文書化することがある(A17項)として、簡易な様式としてメモランダム方式を容認しています。
(2)の詳細な監査計画を監査調書に記載することに関して、詳細な監査計画の監査調書は、計画したリスク評価手続ならびに評価したリスクに対応して計画したアサーション・レベルにおけるリスク対応手続の種類、時期および範囲を記録するものである(A18項)としています。
実施するリスク評価手続およびリスク対応手続、それらの時期と範囲を監査調書として記録するものは、詳細な監査調書を構成する「監査手続書」(Audit Program)です。詳細な監査調書と記載されるべきもっと重要な項目は、監査人によるリスク評価の基礎となる「企業とその環境に関する理解(内部統制を含む。)」およびリスク評価の結果である「重要な虚偽表示のリスクの識別・評価」に係る監査調書です。そして、往査事業所別計画(重要な構成単位を含む。)、勘定科目別担当者計画等々、これまでの読み解きにおいて示した監査計画書を含みます。
また、監査手続の実施に先立って監査手続の計画の適切性を査閲および承認するための記録としても有用である(A18項)としています。しかし、この記述には同意できません。すべての監査計画書は、監査人(監査責任者)または監査マネジャーのレビュー・承認を要することが前提であり、計画書の作成者に一任すべきではありません。したがって、この一文は削除すべきと考えます。
さらに、監査人は、標準的な監査手続書または監査完了チェックリストを個々の監査業務の状況を反映するために必要な修正を加えた上で使用することもある(A18項)としています。
この記述は、効率性のため監査事務所に所定されている標準監査手続書や各種チェックリストを実施する監査の状況に合わせて必要な修正を加える(tailored or tailor made)ことがあるのではなく、必要な修正を加えなければならないと解します。そして、このような記述は監査事務所の監査マニュアル等に規定すべき項目であり、監査の基準としては不要な規定であると解します。
(3)の監査の基本的な方針または詳細な監査計画について監査期間中に行われた重要な変更の内容およびその理由を監査調書に記載することに関して、監査の基本的な方針および詳細な監査計画に対する重要な変更、これに伴う監査手続の種類、時期および範囲に対する変更の記録は、重要な変更が行われた理由および最終的な監査の基本的な方針と詳細な監査計画を採用した理由を説明する。これには、監査期間中に発生した重要な変更への適切な対応についても反映させる(A19項)としています。
監査の基本的な方針または詳細な監査計画の監査期間中に行われた重要な変更の内容が、監査の基本的な方針および詳細な監査計画に対する重要な変更ならびにその重要な変更に伴う監査手続の種類、時期および範囲に対する変更であり、監査調書に記載する理由は、重要な変更が行われた理由および最終的な監査の基本的な方針と詳細な監査計画を採用した理由です。
重要な変更が行われた理由の記載は、監査期間中に監査計画を変更することにすでに明らかであるため、「…によりAをBに変更する」旨を記述すれば足りるということです。また、最終的な監査の基本的な方針と詳細な監査計画を採用した理由は、変更後の監査計画を示すことであり当然なことと解します。「…に重要な虚偽表示の兆候を識別したため、それが重要な虚偽表示の可能性があるか(疑義があるか)を検証するためAをBに変更する」旨を記述すれば足りるということです。
14.初年度監査
監査人は、初年度監査の開始前に、以下の事項を実施しなければならない(12項)としています。
(1) 監査契約の締結の可否に関して、監基監220で要求される事項
(2) 監査人の交代が行われる場合には、職業倫理に関する規定および監基報900「監査人の交代」で要求される前任監査人からの引継
この12項が監査計画の立案との関連について記述していないため、十分理解できません。ただ、これらの活動から入手した情報は監査計画策定に際して活用されなければならないことは当然です。
監査契約の締結の可否に関して監基報220で要求される事項は、「監査責任者は、監査契約の新規の締結・更新に際して監査事務所の方針・手続に従って適切に行われたことを確かめ、その結論が適切であることを判断しなければならない」(監基報220 11項)こと、「監査責任者は、監査契約の新規の締結及び更新に当たり、不正リスクを考慮して監査契約の締結及び更新に伴うリスクを評価すること」(同 F11-2項)、および「監査責任者は、監査契約締結以前に入手していれば監査契約の締結を辞退する原因となる情報を契約締結後に入手した場合、監査事務所または監査責任者が必要な対応をとることができるように、その情報を監査事務所に速やかに報告しなければならない」(同 12項)ことです。これらは、監基報220の読み解きに際して検討しました。
また、監基報900は我が国独自の規定です。また、職業倫理に関する規定は我が国では監査の基準(GAAS)に包含されていることは監基報200、監基報220等の読み解きにおいて述べました。
要求事項12項に関連して、監査計画の目的は、初年度監査、継続監査のいずれにおいても同じである。しかし、初年度監査においては、監査人は、通常、継続監査とは異なり、監査計画の策定時に考慮できる企業における過去の経験がないため、計画活動をより広く実施することがある(A21項)としています。
この記述が初年度監査において留意が必要なことの根拠です。しかし、私見では、監査計画の策定時に考慮できる企業における過去の経験がないため計画活動、特に企業とその環境の理解(内部統制を含む。)および重要な虚偽表示のリスクの識別・評価をより広く実施すべきと解します。
また、初年度監査において、監査人が、監査の基本的な方針の策定および詳細な監査計画の作成に当たって追加で考慮する事項には、以下が含まれることがある(A21項)としています。
・前任監査人との引継(例えば、前任監査人の監査調書の閲覧)
・監査人としての選任に関して経営者と協議した主要な問題(例えば、会計基準、監査基準および報告に関する基準の適用)、監査役等へのこれらの問題に関する伝達ならびにこれらの問題が監査の基本的な方針および詳細な監査計画に与える影響
・期首残高に関して十分かつ適切な監査証拠を入手するために必要な監査手続(監基報510「初年度監査の期首残高」参照)
・初年度監査において監査事務所が定める品質管理のシステムで要求されるその他の手続(例えば、監査事務所が定める品質管理のシステムによっては、所定の担当者に、重要な監査手続の開始前に監査の基本的な方針を検討させたり、監査報告書の発行前に報告書の査閲に関与させたりすることがある。)
最初から三番目の項目は、監基報900または監基報510が規定している内容です。四番目の項目は、初年度監査に関して審査担当者に監査の基本的な方針を査閲・検討すること(the involvement)を監査事務所の品質管理ステムが規定していることがある、ということです。監基報220にも規定されていない事項であることに留意が必要です。
以上
ようやく監基報300「監査計画」の読み解きを終了します。
次の読み解きは順番からすると監基報315「企業及び企業環境を通じた重要な虚偽表示リスクの識別と評価」ですが、ボリュームがとんでもないこともあって正直なところ躊躇しています。
事前の準備を兼ねて読み解きを前倒しすることとして、年明けから監基報315の読み解きを開始しようかなと考えています。
そのため、本ブログは年明けまで休止させていただきます。
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