「その他の情報」に関する監査報告書での取り扱いについての検討(その10 最終回)

これまで、2012年11月14日に国際監査・保証基準審議会(IAASB)が公表した公開草案ISA 720「監査済み財務諸表とそれに対する監査報告書を収容している文書または添付する文書におけるその他の情報に関連する監査人の責任(The Auditor’s Responsibilities Relating to Other Information in Document Containing or Accompanying Audited Financial Statements and the Auditor’s Repot Thereon)」(以下「公開草案」という。)において提案されている、監査人が監査報告書において財務諸表以外の文書に記載されている「その他の情報」に重要な不整合があるかどうかについての新たな取り扱いについて検討してきた。ようやく今回で最終回となるので、最後に簡単な検討結果としての私見を述べている。

監査意見が無限定適正以外の場合の取り扱い
公開草案は、財務諸表に対する監査人の意見が無限定適正以外の場合、監査人は、16項(c)で求められている記載に関する修正の影響を考慮しなければならない(17項)としている。

この17項の要求事項は、16項(c)で求められている「入手したその他の情報の一読と検討に基づいて、監査人がその他の情報に重要な不整合を識別しているかどうかに対応した見解、そして識別した場合には、重要な不整合について記述した記載」を修正する必要があるかどうかを検討することを求めている。
 
査意見を無限定適正以外に変更させる事項(除外事項)が、その他の情報に含まれておらず、そのほかでも対応されていない場合には、財務諸表に対する監査人の意見を無限定適正意見以外の意見にすることは16項(c)で求められている記載には影響しない。例えば、適用される財務報告の枠組みによって求められている役員報酬に係る開示が行われていないことによる限定意見は、公開草案で求められている監査人報告には影響しない(A60項)。

一方、その他の情報が財務諸表と整合しているにもかかわらず、監査人は、監査意見を限定することになった事項を理由に、監査の実施中に理解した企業および企業環境と重要な不整合があると結論するような状況では、監査人は、A58項に規定されている方法(その他の情報に重要な不整合を識別したときの文例)で報告することが必要である(A61項)とされている。

しかし、その他の情報が整合しているにもかかわらず、重要な不整合があると結論する状況が理解できない。監査意見の除外事項(虚偽表示)に関連するその他の情報は、財務諸表と整合しているが、監査人の理解とは重要な不整合があるということなのであろうか。具体的な状況が的確に思い浮かばない。

また、財務諸表の重要な項目に関して範囲限定があるため、監査人が当該事項について十分かつ適切な監査証拠を入手できていない状況では、その他の情報における事項に関する経営者の記述が監査の実施中に理解した企業および企業環境と重要な不整合があるかどうかについて結論できないため、監査人は、財務諸表に対する監査意見が限定されていることに関連して検討対象文書に記載されているその他の情報に関する経営者の記述について検討できないことに言及する必要があるが、その他の情報に重要な不整合を識別しているかどうかについて対応することが求められている(A62項)。

しかしこの場合、範囲限定があることによって、監査人がその他の情報について検討ができないのであれば、その他の情報に重要な不整合を識別しているかどうかについても対応できないことになると思われる。範囲限定の対象となっている事項に係る十分かつ適切な監査証拠を入手できていないにもかかわらず、当該事項に重要な不整合はないと記載することにとても違和感がある。しかし逆に、監査人の理解している企業および企業環境に照らして重要な不整合があると結論付けることはあると解する。

さらに、特定事項に関連した財務諸表に関する不適正意見の表明または意見不表明が監査人の識別しているその他の情報における重要な不整合に係る報告を行わないことの理由にはならないため、このような状況では、16項(c)で求められている記載を適切に修正する必要がある(A63項)とされている。

不適正意見の表明や意見不表明の場合には、限定意見の場合と同様に、特定事項に重要な不整合があることを理由に、A58項に規定されている方法(その他の情報に重要な不整合を識別したときの文例)で報告することになると解される。

監査済み財務諸表に重要な虚偽表示があると監査人が識別したときの対応
監査人は、その他の情報の一読と検討に基づいて、監査済み財務諸表に重要な虚偽表示があることを示す情報を識別した場合、財務諸表に重要な虚偽表示が実際にあるかどうかを決定するために必要な監査手続を実施しなければならない(15項)として、監査済み財務諸表に実際に重要な虚偽表示があるかどうかを判断するために必要な手続の実施に関する要求事項が強化されている(p.13)。

監査済み財務諸表に重要な虚偽表示があると監査人が識別したときとは、監査人がその他の情報に重要な不整合があるかどうかを判断するために実施した手続の結果、その他の情報を収納・添付する文書ではなく、監査済み財務諸表に重要な虚偽表示があると監査人が判断したときである。しかし、この判断に至るまでのプロセスや判断の過程についてどのようにすべきかが不明である。

監査人が、その他の情報の一読と検討および経営者との協議によって、監査実施中に理解した企業および企業環境に係る知識や情報に含まれていない新たな情報を知ることがある。特に、新たな情報は、監査人のこれまでの理解が正しくないか不完全であることを明らかにすることがある(p.13)ため、その他の情報の一読と検討および経営者との協議が、監査人の企業および企業環境の理解およびそれによる監査人のリスク評価に影響を及ぼす新たな情報をもたらすことがある(A49項)としている。

また、状況に応じて監査人がとるアクションは、その他の情報が監査報告書日の前か後かに依存する。監査報告書日前であれば、新たな情報が、監査人の企業および企業環境の理解を改訂し、その結果が計画した監査手続へ影響して監査人のリスク評価にまで影響を及ぼすことがある。この場合、監査人は、ISA 560「後発事象」の下での監査人の責任に準拠して状況に対応することが必要である(p.13)。そのため、上記のA49項とともに、その他の情報を監査報告書日後に入手したとき、監査報告書日後のその他の情報の一読と検討および経営者との協議が、監査報告書日において監査人が知っていたならば監査報告書を限定等する原因となる事実を明らかにするかもしれない(A55項)としている。

このような公開草案の記述において、「必要な監査手続を実施しなければならない(15項)」と規定されていることが理解できない。そもそも、その他の情報の検討は、監査人がその他の情報を一読し、理解している企業および企業環境に照らして重要な不整合があるかどうかを検討することだか求められているのであるから、実施しなければならない必要な監査手続はないはずである。

そのため、その他の情報に対して、なんらかの手続を実施することが必要であるかどうか、そしてその結果を監査報告書に記載することは実施した手続に係る記載があるかどうかにかかわらず、監査人が何らかの保証を付したことになってしまうと解される。

検討結果(私見)
公開草案は、収納文書または添付文書に含まれている、その他の情報を一読し、監査の理解している企業および企業環境に照らして重要な不整合があるかないかについて検討することを求めているが、その実質は、収納文書または添付文書(に記述されている財務情報、過去情報・将来情報、非財務情報(定性的記述)など)を一読し、検討することを求めている。このような公開草案には賛同しがたい。
 
「その他の情報」と言うかどうかにかかわらず、その種の「その他の情報」に監査人が関与すべきではないと考える。しかし、監査環境の変化によって、監査人が関与せざるを得ないということであれば、監査人が経営者との協議によって決定した、監査報告書日までの初めてリリースされる、収納文書または添付文書の記述内容を一覧し、重要な不整合があるかどうかについて検討した結果を、監査報告書とは別の保証報告書において、レビュー型保証手続を行った場合と同様に、また、アメリカのPCAOBが提案している方式と同様に、消極的な保証を提供することとすべきと考える。

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック