特別目的の財務諸表の監査について(その2)

今回は、前回に引き続き、国際監査基準(ISA)805「特別な検討-単独の財務表および財務表の特定の要素、勘定科目または項目の監査」(Special Considerations – Audits of Single Financial Statements and Specific Elements, Accounts or Items of a Financial Statement) (以下「ISA 805 」という。)に基いて特別目的の財務諸表の監査について検討する。

ISA 805の概要
ISA 805「特別な検討-単独の財務表および財務表の特定の要素、勘定科目または項目の監査」は、その表題が示すとおり、単独の財務表(single financial statement)の監査または財務表の特定の要素、勘定科目または項目(specific elements, accounts or items of a financial statement)(以下「財務表の特定要素等」という。)の監査に係る監査上の取扱いを明らかにしている。ISA 805は、グループ監査における構成単位の監査人の発行する報告書には適用されない(2項)。

(1) 単独の財務表と財務表の特定要素等
単独の財務表は、フルセットの財務諸表の一部の財務表であり、例えば、単独の貸借対照表や損益計算書である。それには関連する注記(通常、重要な会計方針の要約や説明情報からなる。)が含まれる(6項(c)参照)。

財務表の特定の要素等は、フルセットの財務諸表(注記を含む。)を構成している要素、勘定科目、項目であり、関連する注記(通常、重要な会計方針の要約や説明情報からなる。)が含まれ(6項(c)参照)、次のように付録1に例示されている。
• 売掛金、貸倒引当金、棚卸資産、退職給付引当金(the liability for accrued benefits of a private pension plan)、無形資産の計上金額(the recorded value of identified intangible assets)または保険ポートフォリオの「発生済み・未請求」の未払保険金(the liability for “incurred but not reported” claims in an insurance portfolio)(これらに関連する説明注記を含む。)
• 企業年金に係る年金資産と収益の明細 (a schedule of externally managed assets and income of a private pension plan) (関連する説明注記を含む。)
• 有形資産の純額(簿価)の明細(関連する説明注記を含む。)
• リース資産に関連する支払額の明細(関連する説明注記を含む。)
• 利益配分(profit participation)または従業員賞与の明細(関連する説明注記を含む。)

(2) 適用するISA
監査人は、財務諸表監査の場合と同様に、単独の財務表の監査または財務表の特定要素等の監査においてもすべてのISAに準拠することが必要であるため、単独の財務表の監査または財務表の特定要素等の監査だけを実施する場合、ISAに準拠した監査が実施できるかどうかを決定しなければならない(7項)。

監査人は、フルセットの財務諸表の監査を実施していないため、単独の財務表の監査または財務表の特定要素等の監査に関連するISAの要求事項に準拠できない場合、財務諸表の監査を行っている監査人に比して、企業とその環境(内部統制を含む。)に係る理解が不足し、会計記録やその他の会計情報に係る全般的な監査証拠を入手できないため、会計記録から得た証拠を確証する(corroborate)ために一層の証拠(further evidence)を必要とすることがあり、あるいは、より実務的に可能と思われる保証業務とするかどうかについて経営者と協議することがある(A6項参照)。

このように単独の財務表の監査または財務表の特定要素等の監査のみを行うことが制限されているわけではないが、単独の財務表の監査または財務表の特定要素等の監査は、財務諸表監査を行っていることを暗黙裡に前提としているように解される。

また、監査人は、単独の財務表の監査または財務表の特定要素等の監査を計画、実施するときには、状況に応じて必要と判断されるISAを適用しなければならない(10項)が、監査の対象が財務表の特定の要素だけであっても、原則として、ISA 240「財務諸表の監査における不正に関連する監査人の責任」、ISA 550「関連当事者」やISA 570「継続企業」が適用され(A10項)、さらに、単独の財務表または財務表の特定要素等の作成が適用可能な財務報告に準拠していることに関しての経営者確認書を入手する(A11項)。

(3) 財務報告フレームワーク
単独の財務表または財務表の特定の要素等は、一般目的フレームワークまたは特別目的フレームワークのいずれかに準拠して作成される(1項)。財務報告フレームワークの適用がいずれであっても、監査人は、単独の財務表または財務表の特定の要素等によって伝達される情報およびその情報の基礎となる重要な取引や事象の影響について意図されている利用者が理解できるように適切に開示しているかどうかを判断するために、経営者によって取られたステップについて理解しなければならない(8項)。

この監査人の判断・理解に関連して、単独の財務表または財務表の特定の要素等が、フルセットの財務諸表の作成に関して会計基準設定母体によって確立された財務報告フレームワーク(例えば、IFRS)を基礎とした適用可能な財務報告フレームワークに準拠して作成されている場合には、適用可能な財務報告フレームワークの受容可能性の判断は、適切に開示されている財務表または特定の要素等の表示に関連しているフレームワークがその基礎となるフレームワークのすべての要求事項を含んでいるかどうかを検討することに関連している(A7項)としている。

この記述から、単独の財務表または財務表の特定の要素等を作成するために準拠される適用可能な財務報告フレームワークと、フルセットの財務諸表を作成するために準拠される適用可能な財務報告フレームワーク(例えば、IFRS)とが峻別されていることが分かる。

この峻別は、フルセットの財務諸表が準拠する適用可能な財務報告フレームワーク(例えば、IFRS)が明確に単独の財務表または財務表の特定の要素等の表示について対応していない(A9項)ことにあるようである。しかし、単独の財務表または財務表の特定の要素等を作成するために準拠される財務報告フレームワークとして、通常、フルセットの財務諸表を作成するために準拠される財務報告フレームワークが利用されると解される。そのため、両者を厳格に峻別する意味はないと考えられる。

いずれにせよ、監査人は、単独の財務表の監査または財務表の特定の要素等の監査に際して、経営者が単独の財務表または財務表の特定の要素等を作成する際に準拠した財務報告フレームワークの適切性を検討することが求められている。

しかし、少なくとも我が国の実務の現状では、特別目的フレームワークに準拠した単独の財務表または財務表の特定の要素等が作成されることが考えられないから、単独の財務表または財務表の特定の要素等は、通常、それらは一般目的の財務報告フレームワーク(すなわち、GAAP)に準拠して算定されている項目・金額を基礎としていると解される。

それにもかかわらず、監査人が判断するために理解することが求められている経営者によって取られたステップの詳細について十分に理解できない。単独の財務表または財務表の特定の要素等の作成に際して準拠した財務報告フレームワークを経営者がどのように決定したかを検討することが求められていると解される。

(4) 単独の財務表または財務表の特定の要素等の監査の実施
監査人がフルセットの財務諸表の監査とともに単独の財務表の監査または財務表の特定要素等の監査を実施するときには、フルセットの財務諸表の監査において入手した証拠を単独の財務表の監査または財務表の特定要素等を監査に利用できるが、双方の監査はそれぞれの十分かつ適切な監査証拠を入手するために、別々に計画し実施することが求められている(A12項)。

監査人がフルセットの財務諸表の監査とともに単独の財務表の監査または財務表の特定要素等の監査を実施するときに、両者の監査は、フルセットの財務諸表の監査の結果に基づいて、必要な追加手続を実施することで単独の財務表の監査または財務表の特定要素等の監査を実施することになると解される。監査調書は、二つの監査のため、それぞれ別に作成する。これは、財務諸表監査と内部統制監査を併行して実施する場合と同じである。

また、単独の財務表の監査または財務表の特定要素等の監査だけを実施する際には、財務諸表の多くの要素は相互に関係しているため、監査の目的に合致するよう相互関連している項目に関係する複数の要素に対して手続を実施する必要があるかもしれない(A13項)。

このことは、単独の財務表または財務表の特定の要素等の監査を実施するときであっても、監査人は、単独の財務表または財務表の特定の要素等だけを対象として監査するのではなく、相互に関連する項目も監査することが必要なことがあるということである。

さらに、単独の財務表の監査または財務表の特定要素等の監査に係る重要性をフルセットの財務諸表の監査におけるそれよりも小さくすることがあり、その場合、実施する監査手続、その実施時期と範囲、および未発見の虚偽表示の評価に影響するかもしれない(A14項)。

後述するように、監査意見を「適正に表示している」と表明する場合、監査対象の大きさに応じた重要な虚偽表示のリスクを識別・評価することが必要となるが、その一部として、それに相応した監査上の重要性(重要性の基準値および監査実施上の重要性)の設定が必要になる。監査上の重要性が小さくなれば、リスク対応手続の実施範囲は拡大することが必要となり、追加監査手続の実施が必要となる。これが、上述した、単独の財務表の監査または財務表の特定要素等の監査の実施に際して、フルセットの財務諸表の監査の結果に基づいて必要な追加手続を実施することである。

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