特別目的の財務諸表の監査について(その3)

昨年末の前回に引き続き今回も、国際監査基準(ISA)805「特別な検討-単独の財務表および財務表の特定の要素、勘定科目または項目の監査」(Special Considerations – Audits of Single Financial Statements and Specific Elements, Accounts or Items of a Financial Statement) (以下「ISA 805 」という。)に基いて特別目的の財務諸表の監査について検討する。

監査意見の形成
監査人は、業務の契約締結に際して、予想される意見の表明様式が状況に照らして適切かどうかを検討しなければならない(9項)。監査人が予想する意見の表明様式は、適用される財務報告フレームワークおよび法令によるが、適正表示フレームワークに準拠したフルセットの財務諸表に対する無限定適正意見として「財務諸表は〔適用される財務報告フレームワーク〕に準拠して、すべての重要な点において、適正に表示している」と表明し、準拠性フレームワークの場合には「財務諸表は、すべての重要な点において、〔適用される財務報告フレームワーク〕に準拠して作成されている」と表明する(A8項)。

監査意見の表明様式は適用される財務報告フレームワークによって決定されるため、監査人が業務の契約締結に際して検討しなければならないことは、監査意見の表明様式ではなく、適用する財務報告フレームワークの適切性であろう。

また、単独の財務表の監査または財務表の特定要素等の監査において監査意見を形成し報告する際にはISA 700の規定を状況に応じて適用しなければならない(11項)。なかんずく、単独の財務表または財務表の特定要素等(関連する注記を含む。)が、適用される財務報告フレームワークの規定に照らして、財務表または特定要素等に含まれている情報およびその情報に対する重要な取引や事象の影響について意図した利用者が十分理解できるように適切に開示されていることが重要である(A15項)。

フルセットの財務諸表が準拠する適用可能な財務報告フレームワーク(例えば、IFRS)は、明確に単独の財務表または財務表の特定の要素等の表示について対応していない(A9項)ため、適正表示フレームワークに準拠して作成された単独の財務表または財務表の特定要素等に対して「適正に表示している」と意見を表明する場合、監査人は以下について検討する(A9項参照)。

・ 適用可能な財務報告フレームワークが、明示的にまたは暗黙に、フルセットの財務諸表の作成に限定されているかどうか。
・ 単独の財務表または財務表の特定要素等が、
  • 単独の財務表または財務表の特定要素等に関連するフレームワークの規定および関連する注記を含む単独の財務表または財務表の特定要素等の表示の規定のそれぞれに完全に準拠しているかどうか。
  • 適正な表示の達成に必要な場合、フレームワークによって特に要求されていることを超えた、単独の財務表または財務表の特定要素等の開示がされているかどうか、また、例外的な状況で、フレームワークの規定から離脱しているかどうか。

最初の検討事項である、適用可能な財務報告フレームワークがフルセットの財務諸表の作成に限定されているかどうかは、我が国において確立している財務報告フレームワーク(会計基準、GAAP)では、それに準拠して単独の財務表または財務表の特定要素等を作成・表示することを想定されていないため、暗黙ではあるが、フルセットの財務諸表の作成・表示に限定されているものと解される。

しかし、監査の実務においては、これまで明確な監査上の取扱いがないままに、適正表示フレームワークに準拠して作成された財務諸表を基礎として、単独の財務表(例えば、貸借対照表のみ)について監査を実施し、監査意見を表明しており、あるいは、例えば、財務制限事項に関する抵触の有無の監査、ロイヤリティ契約に基づくロイヤリティ監査または海外の税務当局に提出する海外子会社出向者の人件費に関する監査として、一部の財務諸表項目のみについて監査を実施し、監査意見を表明していることも事実である。したがって、少なくとも、これらの単独の財務表または財務表の特定要素等については、監査人の何らかの関与を容認することが必要であろう。 

二番目の検討事項は、監査の対象である単独の財務表または財務表の特定要素等の表示・開示の適切性や十分性の問題であるため、とくに検討は必要ないであろう。ただし、最後の項目に含まれている会計基準からの離脱の問題は我が国では容認されていないことに留意が必要である。

表明する監査意見の例示
前述の要素を検討した結果、「すべての重要な点において適正に表示している」という表現によることができると判断した場合における単独の財務表(貸借対照表)の監査意見が例示されている(付録 例示1参照)。

 「財務表(貸借対照表)は、当該財務表の作成および表示に関連する○○国における財務報告フレームワークの規定に準拠して、20x1年12月31日現在のABC会社の財政状態を、すべての重要な点において適正に表示していると認める。」

また、例えば、行政官庁が届出等のために規制している財務表が、特別目的フレーワークであり、適正表示フレームワークでないため、「すべての重要な点において適正に表示している」という表現によることができないと判断した場合における財務表の特定要素等(保険ポートフォリオの「発生済み・未請求」の未払保険金に係る明細)に対する意見の例示として次があげられている(付録 例示3参照)。

 「20x1年12月31日現在のABC保険会社の「発生済み・未請求」の未払保険金に係る明細は、すべての重要な点において、〔行政官庁が規制している財務報告条項に関する記述〕に準拠して作成されていると認める。」

財務諸表監査の監査意見との関連
財務諸表監査とともに、単独の財務表の監査または財務表の特定要素等の監査を行っている場合、それぞれの監査意見を表明しなければならない(12項)。

監査済みの単独の財務表または監査済みの財務表の特定要素等が監査済み財務諸表とともに公表される場合には、単独の財務表または財務表の特定要素等がフルセットの財務諸表とは十分に峻別されていなければならないが、監査人は、その峻別が不十分と判断した場合、その状況を修正するよう経営者に求めなければならない(13項)。

また、フルセットの財務諸表に対して限定付適正意見を表明しているかまたは意見不表明としているときには、監査人は、単独の財務表または財務表の特定要素等に対する監査意見も、フルセットの財務諸表に対する監査意見と十分に峻別されていなければならない(13項)。この場合、監査人は、峻別に満足できるまで、単独の財務表または監査済みの財務表の特定要素等に対する監査報告書を発行してはならない(13項)。

フルセットの財務諸表に対して限定付適正意見を表明しているかまたは強調事項を記載している場合、単独の財務表または財務表の特定要素等に対する影響を考慮して、適切な場合には、単独の財務表または財務表の特定要素等に対する監査意見を限定するかまたは強調事項を記載するかを判断しなければならない(14項)。

フルセットの財務諸表に対する限定付適正意見や強調事項の記載が、単独の財務表の監査または財務表の特定要素等に対して影響していないときであっても、監査人は、監査済みの単独の財務表の監査または監査済みの財務表の特定要素等に関する利用者の理解に関連すると判断したときには、単独の財務表または財務表の特定要素等に対する監査報告書のその他の事項パラグラフに当該意見限定または強調事項を参照することが適切であると考えることがある(A17項)。

財務諸表に対して不適正意見を表明しているかまたは意見不表明とした場合、その財務諸表を構成している単独の財務表または財務表の特定要素等に対して無限定意見を表明することは矛盾となるため、当該無限定意見は表明してはならない(15項)。

さらに、財務諸表に対して不適正意見を表明しているか、または意見不表明としたにもかかわらず、財務表の特定の要素等に対して無限定意見を表明することが適切と判断したときには、次の状況をすべて満たさなければならない(15項)。
・ 相反する監査意見を表明することが法令で禁止されていない。
・ 単独の財務表の監査または財務表の特定の要素等に対して無限定意見の表明が、財務諸表に対して不適正意見または意見不表明とする監査報告書とともに、公表されていない。
・ 特定の要素が、財務諸表の主要な部分を構成していない。

 これらの規定についてはある意味決め事であるため検討は行わない。

 以上が、以上がISA 800およびISA805の概要である。次回では、特別目的の財務諸表の監査に関する私見を述べたい。

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