特別目的の財務諸表の監査について(その4)

長くなったが前回までISA 800およびISA805の概要についてみてきた。今回は、特別目的の財務諸表の監査について私見を述べる。

前述のように、監査の実務において単独の財務表または財務表の特定要素等について監査を実施し監査意見を表明していることから、何らかの監査人の関与を容認することが必要であろう。このような理解から、ISA 805は監査の実務からの必要性に対応するために新たに基準として策定されたのであろう。そして、単独の財務表または財務表の特定の要素等の監査が「監査」であるとして財務諸表監査と同一のレベルでの実施を求めているのであろう。そうであれば、単独の財務表または財務表の特定の要素等について監査に関する考え方やその範囲、監査の実施等については、適正表示フレームワークの範囲内でISA 800およびISA805の規定に同意できる。

しかし、その監査報告書に「すべての点において適正に表示している」との表現を行うことには抵抗感がある。財務諸表監査の目的は、経営者が作成した財務諸表が財政状態、経営成績およびキャッシュフローの状況を適切に表示しているかどうか(財務諸表の適正性)に関する監査意見を表明することである。その前提として、一定の体系としての財務諸表のすべてが作成されていることが不可欠である。その前提を充足しているがゆえに、監査人は「(連結)財務諸表が財政状態並びに経営成績及びキャシュフローの状況をすべての重要な点において適正に表示していると認める」という無限定適正意見を表明できるのである。

監査人が監査報告書において表明する「すべての点において適正に表示している」というフレーズの意味または意義は、「すべての重要な点において(in all material respects)」という日本語のニュアンスから財務諸表に表示されているあらゆる点においてと理解されているようである。それは「点」の意味するところが、「考察の範囲での極小の対象」(広辞苑)と理解されるからであろう。”respects”は「点、箇所(point); 事項、細目(detail)」または”particular aspect or detail”であるため、「点」で間違いはないが、ニュアンス的にはもっと広いものを意味していると思われる。

この意味・意義に関して、ISAではなんら記述されていないようであるが、ISAクラリティ・バージョンと統合される以前のAICPAの監査基準書(US SAS)のAU Section 312パラグラフ03では、「監査人の標準的な報告書(無限定適正意見を表明する監査報告書)における、すべての重要な点においてGAAPに準拠した適正な表示に関する記述は、全体としての財務諸表には重要な虚偽表示がないという監査人の信念を示している」(括弧書き引用者追加)としている。

すなわち、「すべての重要な点において」は、「全体としての財務諸表」という意味である。このことは、平成14年改訂監査基準の前文の「財務諸表全体が適正であるかどうかについて意見を表明する監査」(二 3 監査基準の位置付け)としていることと同じである。したがって、財務諸表がすべての点において適正に表示していると監査人が表明することは、監査人が全体としての財務諸表に重要な虚偽表示がないと判断・確信しているということである。

しかも、「財務諸表の全般的な表示(overall presentation)の『適正性(fairness)』に関する独立監査人の判断は、GAAPの枠内で適用されなければならない」(US SAS AU Section 411 パラグラフ03)ため、「すべての点において適正に表示している」との意見を表明するためには、GAAPに準拠して作成されたフルセットの財務諸表に対する意見であることが必要である。

それゆえに、単独の財務表または財務表の特定の要素等に対する監査意見は、その財務諸表がGAAP(適正表示フレームワーク)に準拠して作成されていても、「すべての点において適正に表示している」と表明すべきではなく、単に「単独の財務表は財務諸表に基づいて作成されていると認める」と表明すべきと考える。百歩譲っても「適正に表示している」と表明できるにとどまると考える。

GAAPではない税法基準等の特別目的のフレームワークに準拠している財務諸表は、たとえフルセットの財務諸表であっても、「財務諸表(または明細表)は○○(フレームワーク)に準拠して作成されていると認める」と表明するしかできない。

なお、GAAPに準拠して作成されている単独の財務表または財務表の特定要素等に対する監査意見を表明する場合、GAAPに準拠して作成されたフルセットの財務諸表に対しても監査が実施されていることが必要と解する。単独の財務表または財務表の特定要素等のみの監査を実施することは禁止されなければならない。

当該監査を実施する場合、ISA805の規定を厳格に適用して監査人の十分な判断のもとで意見表明を行うことが必要であり、安易に単独の財務表(例えば貸借対照表)に対して「適正に表示している」と表明してはならないと考える。

結論としては、財務諸表監査における監査意見の表明は、GAAPに準拠して作成されたフルセットの財務諸表に対してのみ、あくまでその財務諸表の全体としての意見として、「すべての点において適正に表示している」と表明することができるに過ぎないことから、安易に「すべての点について適正に表示している」と表明してはならないと考える。

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