監査事例の検討-9(グループ監査)

事例の概要
 会社の中国子会社は前年度に新規ビジネスを始め、業績が伸びていた。会社は当該子会社を重要な子会社として位置付けていた。当該子会社の当年度の棚卸資産が著しく増加していた。
 監査人は、当該子会社を個別の財務的重要性を有する重要な構成単位として識別し、構成単位の監査人に監査の実施を指示した。また、新規ビジネスの売上高について不正リスクを識別して構成単位の監査人にその旨を伝達した。しかし、棚卸資産については不正リスクを識別していなかった。
 監査人は、当該子会社の当年度の第一四半期財務諸表に対する分析的手続により、棚卸資産が著しく増加していることを把握していたが、会社経理担当者への質問により新規事業拡大のためとの説明に納得したため、構成単位の監査人には追加手続を指示しなかった。
 当該子会社に当年度の第2四半期報告書提出日直前に財務担当役員が棚卸資産を横流ししているかもしれないとの匿名情報が寄せられたが、当該財務担当役員は構成単位の監査人に当該情報に信憑性はないと説明していた。
 構成単位の監査人は、当該情報を監査人に報告した。この報告に対して監査人は、四半期報告書提出直前で時間もなく、構成単位の監査人から、財務担当役員から信憑性のない情報との説明があったと報告されていたため、当該情報に対する対応をなにもとらなかった。

判明した事項
 当年度の第3四半期に会社に当該子会社の社員から不正の疑義に関する内部告発があり、会社の調査によって当該財務担当役員による売上原価の過少計上および仕掛品の過大計上が判明した。この不正による不適切な会計処理が連結財務諸表に与える影響は大きく、会社は連結財務諸表を訂正した。

監査上の問題点
 監査人は、子会社の棚卸資産の著増加を認識しており、また、財務担当役員が不正に関係しているかもしれないという匿名情報を構成単位の監査人から受けていたにもかかわらず、その情報を不正の兆候として認識しなかった。
 棚卸資産の著増加に関して会社の経理担当者の説明を鵜呑みして、当該情報を無視して何ら対応策を講じなかったことは監査人としての正当な注意の行使または職業的懐疑心の発揮がされていなかった。

監査人が実施すべきであったリスク評価、監査手続等
 監査人は、子会社の棚卸資産の著増加を認識していたのであるから、特別な検討を必要とするリスクを認識するまでもないと判断したとしても、可能であれば第1四半期に、遅くとも第2四半期に、その著しい増加の理由について徹底的な調査を行うことを構成単位の監査人に指示すべきであった。また、その構成単位の監査人の調査結果を反映した子会社財務諸表に対するリスク評価を慎重に見直しすべきであった。
 匿名情報が第2四半期報告書提出直前で時間的余裕がないことは、何も対応しなくも良いという理由にならない。構成単位の監査人と電話やテレビ電話等による直接コミュニケーションを行って現状および対応策について協議するともに、会社と当該報告書の開示を遅らせることが可能かどうかを協議・検討し、どうしても不可能な場合は第3四半期初めに必要な対応策の実施を構成単位の監査人に指示するか、または監査人も現地に往査して構成単位の監査人と協同して必要な作業を実施すべきであった。

結論
 本事例は、監査人の分析的手続の異常な著増減や匿名情報が会計不正の兆候かもしれないというリスク感覚の無さまたは不足に起因する監査の失敗であった。
 監査人は、形式的な、機械的な監査を実施するのでは無く、監査対象の財務諸表に重要な虚偽表示がないことを保証していることを銘記して、監査を遂行することが必要である。

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