監査事例の検討-19会計上の見積り(事業資産の減損処理)

事例の概要
 会社は、A事業用資産は過去数年にわたり遊休状態であったが使用する見込みであるとして、使用計画に基づく割引前将来キャッシュ・フローが帳簿価額を上回るため減損損失を認識していなかった。
 また、会社は、過年度ではB事業用資産を独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位としていたが、当該資産の使用方針を実態に合わせて共用資産にグルーピングを変更して、当該資産の割引前将来キャッシュ・フローが帳簿価額を上回るため減損損失は認識しなかった。
会社は大幅な増収増益の事業計画を立てていたが、過年度から未達が続いている状況であった。
 監査人は、事業用資産の減損について特別な検討を必要とするリスクとして識別・評価していた。
 監査人は、A事業用資産が遊休状態であったことは認識していたが、使用計画があるとの会社の説明を妥当と判断し、使用計画の実現可能性を検討していなかった。また、B事業用資産のグルーピングの変更により共用資産とした会社の説明を妥当と判断し、グルーピング変更の適切性、共用資産としての合理性を検証しなかった。さらに、事業計画についてヒアリングを実施し、達成可能で合理的な事業計画ではないと積極的に否定するものではないと結論付けていた。

判明した事項
 A事業用資産およびB事業用資産は減損すべきとの内部告発により、会社は事業用資産の減損を回避する目的で、監査人に対して使用実態と異なる説明をしていたことが判明した。B事業用資産の時価(公正価値)は下落していた。

監査上の問題点
 監査人は、事業用資産の減損について特別な検討を必要とするリスクとして識別・評価していたにもかかわらず、A事業用資産が過去数年にわたり遊休状態であるという減損の兆候を見逃したこと、およびB事業用資産も時価の下落という減損の兆候に気付いていなかったことが問題である。
 監査人の実施した監査手続は、A事業用資産およびB事業用資産に減損の兆候が存在するどうか(関連する事業計画や割引前将来キャッシュ・フローの検証を含む。)についてヒアリング(質問)のみを実施し、その裏付けとなる証拠を入手していなかった。
 このことは、識別・評価した特別な検討を必要とするリスクに対応する監査手続としては全く不十分であるから、当該リスクの識別・評価は単に形式的に行われていたことを意味している。

監査人が実施すべきであったリスク評価、監査手続等
 A事業用資産について、過去数年にわたり遊休状態が続いていたことに鑑みれば、現存の兆候である可能性があると認識して、会社の使用見込みについて使用計画の合理性、実現可能性について批判的な検討を行い、会社に減損回避の意図があるか否か慎重に判断すべきであった。
 B事業用資産について、グルーピング変更の理由ならびに共用資産としての機能やグループ化の適切性および使用方針の合理性について慎重かつ批判的に検討を行うべきであった。また、可能であれば、変更後の当該資産の使用実態について検討すべきであった。さらに、グルーピングの変更の理由の検討の一部として、B事業用資産単独であれば減損処理の必要性を認識でき、時価(公正価値)に低下について知り得た可能性があったと思われる。
 事業計画や割引前将来キャッシュ・フローの実現可能性については、根拠資料との照合やその検討に基づく協議等を批判的に行うべきであった。

結論
 本事例も、特別な検討を必要とリスクの識別・評価とそれに対する対応について理解されていないか全く不十分であったことが根本的原因である。
 また、本事例のみでなく他の事例でも散見されるが、質問のみからは十分かつ適切な監査証拠を入手できないことが全く理解されていない。
会社の説明(質問に対する回答)については、必ず、裏付けとなる監査証拠を入手する。この裏付け証拠は、客観的な資料等でることが望ましいが、状況によってはこれまでの当該企業での監査経験や経営者の信頼に基づいた監査人の心証によらざるを得ないことがある。その場合には、当該監査人の判断について明瞭に監査調書に記述する必要がある。明確な説得力のある記述ができない場合は、その監査人の心証は裏付け証拠とはなり得ない。
 このような監査の基本的な監査手続に関する監査人の無理解や誤解が甚だしい。

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