監査事例の検討—21 継続企業

事例の概要
 ベンチャービジネスを営む会社の売上高は急成長していたが、利益に結びついておらず多額の損失を計上していた。
 会社は、当期において、新規参入の会社が増加による競争激化と規制強化による企業環境の大きな変化があったため、重要な営業損失を計上し、営業キャッシュ・フローがマイナスになった。
 そのため、会社は、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象・状況が存在するが、当該事象・状況を解消するための以下の対応策を策定し、その実現可能性が高いと評価して、継続企業の前提に関する重要な不確実性は認められないと結論付け、財務諸表注記を行わなかった。
 継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象・状況を解消するための対応策
 ・高収益な商品の推進、新販売チャネルによる拡販
  基礎となる事業計画は、毎期微増成長すると想定されていた。
 ・増資
  出資候補先からは、口頭ではあるが、前向きに検討しているとの見解が示されていた。
 ・金融機関による融資
  取引金融機関からは、前向きに検討しているとの見解が示されていたが、新規融資や借換えの契約締結には至っていなかった。

 会社の資金計画では、当期財務諸表提出の翌月に計画どおりの資金調達がなされないと資金ショートするような切迫した状況にあった。
 監査人は、継続企業の前提について、特別な検討を必要とするリスクを識別していた。
 監査人は、事業計画について、基礎データの信頼性の評価や仮定の検討を行い、微増成長という会社の保守的な計画は妥当であると判断した。資金計画について、過去の実績に基づく検討や出資先および取引銀行に直接ヒアリングを実施した結果、出資先および取引銀行から前向きに検討しているとの見解が示されていたことから、出資の意向に関する文書や借入金の新規・借換えの契約は未了であったが、特段問題はないと判断した。

判明した事項
 会社は、当期財務諸表(継続企業の前提に関する注記なし)を提出した6か月後に資金繰りの目処が立たなくなり、民事再生法適用の申請を行った。

監査上の問題点
 継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象・状況を識別した場合、当該事象・状況の解消または改善のための経営者の対応策等の検証が不十分であった。

監査人が実施すべきであったリスク評価、監査手続等
 継続企業の前提について特別な検討を必要とするリスクを識別していたため、出資先および取引金融機関に直接ヒアリングを実施したが、計画した資金調達がなされないと翌期に資金ショートする切迫した状況を解消するためには、出資先および取引銀行から前向きに検討しているとの見解が示されたことに満足すべきではなかった。
 事業計画は、企業環境の大きな変化を踏まえ、高収益な商品の推進および新販売チャネルによる拡販という営業方針の実現可能性について基礎資料を慎重に検討、協議して、計画の微増成長が妥当かどうかを批判的に検討して、重要な不確実性が認められないと判断できるまで慎重に検証すべきであった。
 資金計画に関しては、計画した資金調達がなされなければ資金ショートするような切迫した状況にあったため、口頭のみの出資の意向または借換えの契約が未了という状況を総合的に勘案する必要があった。口頭による「前向きに検討中」という説明が具体的なものでないため、追加出資や借入金の借換えの実現性について懐疑的に評価すべきであった。また、出資先に追加資金を提供する財務的能力があるかどうかを評価すべきであった。

結論
 継続企業の前提について特別な検討を必要とするリスクを識別していたが、実施した監査手続は、事業計画の基礎データの信頼性の評価や仮定の検討を行ったとされているが、経営者の対応策の計画等の査閲や質問にとどまっていたと思われる。
 当該リスクを識別していたために実施したと思われる、出資先および取引銀行への直接ヒアリングは、計画した資金調達がなされなければ資金ショートするような切迫した状況にあったため、単なるヒアリング(先方の意向の聴取)にとどまっていないで、先方の意思を相当程度の確度をもって確かめることが必要であった。
 追加出資先の財務能力を懐疑的に評価して、実際に出資が可能であるかどうかを判断した上で、口頭では検討中ではなく確約との回答をもらい、出資意向文書の作成や追加出資の予定日を確認すべきであった。
 取引銀行のヒアリングは、可能であれば取引支店ではなく本店の貸付担当役員や担当者および審査部の担当者と面談・協議して、追加融資を行うとの確約をもらうことはできないまでも、それなりの支援を続けるとの意向を確認することが必要であったと思われる。
 事業計画の検討に際して、計画されている営業方針の転換は、通常、計画通りに進まないため、その実現可能性についてかなり懐疑的に評価すべきであった。また、資金計画としての経営者の対応策は、翌期の資金ショートを回避できることの確実な施策が必要であったが、追加出資または追加融資による対応策は確実な対応策とまでは言えないと解する。
 したがって、監査人は、経営者の対応策では継続企業に係る重要な不確実性があると判断して、少なくとも、財務諸表に継続企業に関する事項について注記を行ってもらい、それを受けて監査報告書に継続企業の前提関する事項を追記すべきであった。

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