2019年 監基報200 読み解き(その3)

 今回は、経営者の責任、財務諸表の作成に係る経営者の決定等、監査実施の前提に関する経営者の責任、監査実施の前提の項目、監査上の重要性、監査人の責任、および監基報の構造と要求事項の概観について読み解きます。

10.経営者の責任
 監査の対象である財務諸表は、取締役会による監督および監査役もしくは監査役会、監査等委員会または監査委員会(以下、監査役もしくは監査役会、監査等委員会または監査委員会を「監査役等」という。)による監査の下で、経営者が作成するものである(4項)としています。
 財務諸表は経営者が作成するものとして、財務諸表の作成者が経営者であることを明らかにしています。「取締役会による監督および監査役等による監査の下」は、ISAでは、”with oversight from those charged with governance”(ガバナンスを担う人々の監視とともに)です。ISAのガバナンスを担う人々(TCWG)は、我が国では、取締役会および監査役等であることに留意が必要です。それにもかかわらず、監基報は、多くの場合、ガバナンスを担う人々(TCWG)に「監査役等」を充てています。
 また、ISAでは、ガバナンスを担う人々(TCWG)は財務諸表の作成責任を経営者とともに負っていることが前提であると解します。この点も、我が国おける制度と大きく異なっています。このように、制度上異なるものをISAの訳出で表現することに無理があるにもかかわらず、監基報は、用語や追加補充でカバーしようとしていると解します。しかし、その意図は、監基報の規定に関する誤解、理解不十分等により達成されていないように思います。
 閑話休題。一般に公正妥当と認められる監査の基準は、経営者や監査役等の責任を定めるものではなく、また経営者や監査役等の責任を規定する法令等に優先するものではない。ただし、一般に公正妥当と認められる監査の基準に準拠した監査は、経営者が監査実施の基礎となる経営者の責任を認識しているという前提に基づいて実施される。財務諸表監査は、経営者または監査役等のこれらの責任を軽減するものではない(4項)としています。
 規定の前段についての説明は不要と考えます。問題は後段の「経営者が監査実施の基礎となる経営者の責任を認識している」という記述です。ISAでは、”management and, where appropriate, those charged with governance have acknowledged certain responsibilities”(経営者および適切であればガバナンスを担う人々がある程度の責任について知識を有している)です。監基報では、この一文から監査役等が抜けています。監査役等も、監査実施の基礎となる経営者の責任に関する知識(認識)を保有しているべきと考えますが、監査役等を削除した理由が分かりません。

11.財務諸表の作成に係る経営者の決定等
 経営者は、財務諸表の作成について以下が要求される(A3項)としています。
 ・ 関連する法令等で認められた、適用される財務報告の枠組みを決定すること。
 ・ 当該枠組みに準拠して財務諸表を作成すること。
 ・ 財務諸表において、当該枠組みについて適切に記述すること。
 経営者が財務諸表の作成に際して適用する財務報告の枠組みを決定することは、当該枠組みが会計基準として受容れられている(認められている)かどうかを判断して、複数の枠組みから一つ選択することです。
 これに関連して、適用する財務報告の枠組みが受入可能なものであるかどうかの判断に関する要求事項と指針を提供しているとして参照している、監基報210「監査業務の契約条件の合意」の4項(1)は、監査人が監査の前提条件が満たされているかどうかを明確にするため、財務諸表の作成に当たり適用される財務報告の枠組みが受入可能なものであるかどうかを判断することを求めています。したがって、経営者が関連する監基報210の要求事項および適用指針を参考にすることはできますが、これらの規定は経営者の判断を拘束するものではありません。
 我が国における財務諸表または計算書類の作成に際して、会計基準として受容れられている(認められている)もの(適用する財務報告の枠組み)は、認知されている会計基準設定主体(企業会計基準委員会)が設定する会計基準、指定国際会計基準、または国際会計基準審議会が公表する国際会計基準です。経営者は、これらの中から一つを選択することが必要ですが、要するに、日本国内で設定されている一般に公正妥当と認められた企業会計の基準(国内基準)またはIFRS(指定国際会計基準、または国際会計基準審議会が公表する国際会計基準)のいずれかを選択することです。
 このような判断には、財務諸表の作成には状況に応じた合理的な会計上の見積りを行い、適切な会計方針を選択・適用するために、適用する財務報告の枠組みに照らした経営者の判断が要求される(A3項参照)ことが含まれていると解します。
 また、経営者は選択した枠組みに準拠して財務諸表を作成することが求められています。そして、継続して当該枠組みを適用することが必要です。しかし、国内基準からIFRSに変更(任意適用)することは容認されています。そのときには、必要な変更に係る注記等を行う必要があります。
 さらに、経営者は財務諸表において当該枠組みについて適切に記述することが求められています。この記述は、適用している会計基準(財務報告の枠組み)が国内基準かまたはIFRSかを記述することと解しますが、必要な財務諸表の注記の開示(記述)が求められていることも含まれていると解します。
 いずれにせよ、A3項の規定は、監査を実施する際の監査人の指針ではないことに留意が必要です。

12.監査実施の前提に関する経営者の責任
 法令等が、財務報告に関連する経営者の責任を規定することがあるが、責任の範囲や規定の方法は国により異なる。これら法令等による規定上の差異に関係なく、一般に公正妥当と認められる監査の基準に準拠した監査は、経営者が以下の責任を有することを認識し理解しているという監査実施の前提に基づいて実施される(A2項)としています。
 (1)適用される財務報告の枠組みに準拠して財務諸表を作成すること(適正表示の枠組みの場合は、財務諸表を適正に表示することを含む。)。
 (2)不正か誤謬かを問わず、重要な虚偽表示のない財務諸表を作成するために経営者が必要と判断する内部統制を整備および運用すること。
 (3)以下を監査人に提供すること。
  ①経営者が財務諸表の作成に関連すると認識している記録や証憑書類等の全ての情報
  ②監査人が監査の目的に関連して経営者に依頼する、全ての追加的な情報
  ③監査人が監査証拠を入手するために必要であると判断した、企業構成員への制限のない質問や面談の機会
 この「監査実施の前提」は、「監査の実施の基礎となる経営者の責任に関する前提」とも呼称され、経営者は、一般に公正妥当と認められる監査の基準に準拠して監査が実施されるための基礎となる以下の責任を認識し理解しているという前提をいう(12項(2)参照)と定義しています。「以下の責任」に係る項目は、若干の文言上の差異などがありますが、A2項と同様の内容です。
 この規定の冒頭の、法令等が財務報告に関連する経営者の責任を規定することがあるが、責任の範囲や規定の方法は国により異なるという規定の必要性が理解できません。法令等が財務報告に関する経営者の責任を規定することは当然であり、その規定の内容が国によって異なることも当然です。しかし、監基報は我が国おいて実施される監査の基準を構成しているため、海外の法令等には関係していません。そのため、法令等の規定内容が国によって異なるという記述は不要です。ISAの翻訳版である監基報における不十分な国内化の結果と解します。
 A2項の趣旨は、我が国では財務報告に係る経営者の責任が金商法と会社法においてそれぞれ規定されているにもかかわらず、監査人により一般に公正妥当と認められる監査の基準に準拠して実施される監査が、(1)から(3)に関する経営者に責任を経営者が認識し理解していることを監査実施の前提として実施されるということです。したがって、「法令等が…関係なく」の記述は不要と考えます。
 監査実施の前提に掲げられている項目については、すぐ後に読み解くこととして、ここでは当該前提に関連する規定をみておきます。
 監査実施の前提が重要であるため、監基報210 4項(2)により、監査人は、監査契約の新規の締結または更新の前提条件として、経営者がA2項に記載した責任を認識し理解していることについて、経営者と合意することが要求されています(A10項参照)。具体的には、監査契約書ひな型に当該責任について記載されているところにしたがって、監査契約書の締結により監査人は経営者と合意します。
 しかし、経営者の合意が得られなかった場合、監査契約を新規に締結または更新できません(監基報210 6項参照)。また、監査契約書において合意したとおり、経営者が財務諸表の作成に関連すると認識している旨および監査人が依頼したすべての情報を監査人に提供した旨を記載した経営者確認書の提出を経営者に要請しなければなりません(監基報580 10項(1)参照)。このような経営者確認書を入手できない場合、監査人は、十分かつ適切な監査証拠ができなかったことを理由として監査意見を表明してはならない(監基報580 19項および監基報705 8項)とされていることに留意が必要です。

13.監査実施の前提の項目
 A2項の(1)適用される財務報告の枠組みに準拠して財務諸表を作成すること(適正表示の枠組みの場合は、財務諸表を適正に表示することを含む。)は、経営者が適用する財務報告の枠組みが適正表示の枠組みの場合には、経営者が適用される財務報告の枠組みに準拠して財務諸表を適正に表示することであり、準拠性の枠組みの場合には、適用する財務報告の枠組みに準拠して財務諸表を作成することであり、そのような責任を経営者が認識し理解していることを監査実施の前提とするということです。
 (2)不正か誤謬かを問わず、重要な虚偽表示のない財務諸表を作成するために経営者が必要と判断する内部統制を整備および運用することは、不正か誤謬かを問わず、重要な虚偽表示のない財務諸表を作成するために経営者が必要と判断する内部統制を整備および運用することであり、そのような責任を経営者が認識し理解していることを監査実施の前提とするということです。
 このように、財務報告に係る内部統制の整備・運用が監査の前提とされていることに留意が必要です。したがって、当該内部統制が有効に整備・運用されていることを監査人が検証することも監査の実施に包含されていると解します。
 (3)は、①経営者が財務諸表の作成に関連すると認識している記録や証憑書類等の全ての情報、②監査人が監査の目的に関連して経営者に依頼する全ての追加的な情報、および③監査人が監査証拠を入手するために必要であると判断した企業構成員への制限のない質問や面談の機会を監査人に提供することは、会計記録や証憑書類等の文書、経営者に依頼する追加的な情報-経営者への質問に対する回答や文書-、および従業員への質問や面談に関する制限がないことであり、そのような責任を経営者が認識し理解していることを監査実施の前提とするということです。
 つまり、監査人が監査の実施に関連して必要と判断した文書、質問や面談に経営者が制限しないことであり、監査人が実施する監査手続に制限を課さないということです。

14.監査上の重要性
 監査人は、監査の計画と実施、および識別した虚偽表示が監査に与える影響と未修正の虚偽表示が財務諸表に与える影響の評価において、監基報320「監査の計画及び実施における重要性」および監基報450「監査の過程で識別した虚偽表示の評価」に規定されているように、重要性の概念を適用する(6項参照)としています。
 監査人は、監査計画の策定・立案に際して、発生するかもしれない虚偽表示の予想に基づいて監査上の重要性を決定します。監査上の重要性は、機械的に算出するのではなく、監査人の判断で決定することが肝要であることを強調しておきます。監査の最終段階で、監査人は、識別した未修正の虚偽表示が、個別または合計して、財務諸表への影響が重要かどうかの判定に監査上の重要性を利用します。財務諸表への影響が重要かどうかの判定が監査意見の決定に影響します。
 財務諸表への影響が重要かどうかの判定に際して、一般的には、脱漏を含む虚偽表示は、個別にまたは集計すると、当該財務諸表の利用者の経済的意思決定に影響を与えると合理的に見込まれる場合に、重要性があると判断される(6項)としています。
 財務諸表への影響が重要かどうかは、監査実施状況を考慮して重要性を判断するが、財務諸表の利用者の財務情報に対するニーズに関する監査人の認識、虚偽表示の金額や内容、またはそれら両者の組合せによる影響を受ける(6項参照)としているように、機械的に監査上の重要性を超えているかどうかで判定すべきではなく、未修正の虚偽表示および未発見の虚偽表示が、個別または合計して、財務諸表の利用者の経済的意思決定に重要な影響を及ぼすかどうかを勘案して決定すべきです。この重要な影響を及ぼす金額は、監査上の重要性よりも相当に小さな金額であると解しています。このような私見は、監基報320および監基報450を読み解くときに詳細に述べたいと思います。
 また、監査意見は、財務諸表全体に対するものである。したがって、監査人が、財務諸表全体にとって重要でない虚偽表示についてまで発見する責任を負うものではない(6項)としています。
 監査意見が財務諸表全体に対して形成され表明されるため、監査上の重要性も財務諸表全体に対する概念であり、そのため監査人は、財務諸表全体にとって重要でない虚偽表示についてまで発見する責任を負わないということです。

15.監査人の責任
 監査人の責任に関連して、不正または誤謬による財務諸表の重要な虚偽表示が事後的に発見された場合でも、そのこと自体が、一般に公正妥当と認められる監査の基準に準拠して監査が行われなかったことを示すものではない(A51項)としています。
 この規定は、不正または誤謬による財務諸表の重要な虚偽表示が事後的に発見されても、それ自体は、監査人の実施した監査が一般に公正妥当と認められる監査の基準に準拠していなかったことにはならないということです。すなわち、重要な虚偽表示を発見できなかった場合でも、後に読み解く、監査の固有の限界があることから監査人はその責任を負わないことを明らかにしています。ただし、監査人は、一般に公正妥当と認められる監査の基準に準拠して監査を実施したことを疎明する必要があります。
 また、監査人が重要な虚偽表示を発見できなかった場合に問題となる、監査が一般に公正妥当と認められる監査の基準に準拠して実施されたかどうかは、監査人の総括的な目的に照らして、状況に応じて実施された監査手続、その結果得られた監査証拠の十分性と適切性、およびその監査証拠の評価に基づいた監査報告書の適切性によって判断される(A51項)としています。したがって、監査人は、一般に公正妥当と認められる監査の基準に準拠して監査を実施して、十分かつ適切な監査証拠を入手し、それに基づいて表明する監査意見を形成することによってしか免責されない、ということです。しかし、重要な虚偽表示が事後的に発生したことが明らかになっている状況で十分かつ適切な監査証拠を入手していることを監査人が証明することは至難なことに留意が必要です。
 監査人の責任が問題とされる場合、監査人が一般に公正妥当と認められる監査の基準に準拠して監査を適切に実施したかどうかを判断するのは、監査人自身ではなく、会計士協会、監督当局あるいは裁判所です。重要な虚偽表示が発見されなかったという事実から、後知恵的に監査人の責任が問われる可能性は近年高まっていると言えます。それゆえに、監査人は、監査の固有の限界をもちださずに、監査を十分かつ適切に実施したことを疎明できるようにしておくことが必要です。そのために必要なことは、実施している監査を充実させるしかないと考えます。

16.監基報の構造と要求事項の概観
 それぞれの監査基準委員会報告書には、「本報告書の範囲及び目的」、「要求事項」及び「適用指針」が含まれており、これらは監査人が合理的な保証を得ることができるように記載されている。監査基準委員会報告書は、監査人に、監査の計画、実施の過程を通じて、職業的専門家として判断し、職業的懐疑心を保持することとともに、特に以下の事項を要求している(7項)としています。
 ・企業および企業環境(内部統制を含む)の理解に基づき、不正か誤謬かを問わず、重要な虚偽表示リスクを識別し評価すること。
 ・評価したリスクについて、適切な対応を立案し実施することにより、十分かつ適切な監査証拠を入手すること。
 ・入手した監査証拠から導き出した結論に基づき、財務諸表に対する意見を形成すること。
 それぞれの監基報の構造は「本報告書の範囲及び目的」、「要求事項」および「適用指針」によって構成されていること、監査人が合理的な保証(財務諸表監査において、絶対的ではないが高い水準の保証(12項(8)))を得ることを可能にしていること、および監査人は監査を計画し実施している過程では職業的専門家としての判断を行使し、職業的専門家としての懐疑心(職業的懐疑心)を保持することが必要であるとしています。また、監査人は、理解した企業とその環境に関する知識、知見や情報に基づいて「重要な虚偽表示リスク」を識別・評価し、リスクに対応する監査手続を実施して「十分かつ適切な監査証拠」を入手して、監査意見を形成することが求められているということです。
 監基報の構造として示されている項目は、それぞれの監基報の大項目として表記されています。要求事項および適用指針において規定されている事項は、監査人が監査計画の策定・立案、監査手続の実施、監査意見の形成の過程において、監査人が実施すべき事柄を規定しています。ただし、監基報200の要求事項と適用指針は、監査に係る概念を規定しており、監査人が実施すべき事柄を規定していません。


 次回は、監査意見、監査人によるコミュニケーション、監査人の総括的な目的などについて読み解きます。

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