2019年 監基報200 読み解き(その4)

 今回は、監査意見、監査人によるコミュニケーション、監査人の総括的な目的、合理的な保証、合理的な保証を得るための監査証拠、および監査リスクについて読み解きます。

17.監査意見
 監査人が表明する意見の様式は、適用される財務報告の枠組みおよび法令等によって決定される(8項)とし、財務報告の枠組みが適正表示の枠組みの場合(一般的に、一般目的の財務諸表はこれに該当する。)、監査意見は、財務諸表が、すべての重要な点において適正に表示されているか、または真実かつ公正な概観を与えているかどうかに関するものとなる。財務報告の枠組みが準拠性の枠組みの場合、監査意見は、財務諸表が、すべての重要な点において、財務報告の枠組みに準拠して作成されているかどうかに関するものとなる。監査基準委員会報告書における監査意見は、特に明示しない限り、両方の意見の様式を対象としている(A12項)としています。
 これらの規定は、すでに読み解いていますが、財務報告の枠組みが適正表示の枠組みの場合、通常、一般目的の財務諸表が作成され、監査意見は財務諸表がすべての重要な点において適正に表示されているか、または真実かつ公正な概観を与えているかどうかについて表明されるということです。「適正に表示されている」と「真実かつ公正な概観を与えている」が同じ意味であるとして使用されていることに留意ください。前者は米国を中心に我が国でも使用されており、後者は英国を中心に使用されています。我が国において使用されていない英国流の表現は監基報には不要であると考えます。
 一方、財務報告の枠組みが準拠性の枠組みの場合、監査意見は、特別目的の財務諸表がすべての重要な点において財務報告の枠組みに準拠して作成されているかどうかについて表明されるということです。
 これらの規定によって、財務諸表監査は、一般目的の財務諸表および特別目的の財務諸表の監査であることを示しています。この二つの財務諸表監査は、我が国では平成26年改訂監査基準によって追認されています。しかし、私見では、特別目的の財務諸表の監査は、財務報告の枠組みに準拠しているかどうかの監査意見を表明するため特別な監査であって、財務諸表が適正に表示されているどうかの監査意見を表明する適正性の財務諸表監査ではないと解しています。したがって、財務諸表監査は適正性に係る監査意見を表明する監査のみであると解しています。
 なお、監査人が表明する意見は、財務諸表が、すべての重要な点において、適用される財務報告の枠組みに準拠して作成されているかどうかに関するものである。ただし、監査意見の様式は、適用される財務報告の枠組み及び法令等によって決定される。大部分の財務報告の枠組みには、財務諸表の表示に関して要求される事項が含まれている。その場合、適用される財務報告の枠組みに準拠する財務諸表の「作成」とは、「作成および表示」を意味することになる(A11項)との留意事項を規定しています。
 監査意見が財務諸表が適用する財務報告の枠組みに準拠して作成されているかどうかに関するものであるとの記述は、他の監基報でも散見されますが、監基報800シリーズを除く監基報では、特別目的の財務諸表を指しているだけでなく、一般目的の財務諸表が適正に表示されているかどうかも包含していると解します。そうであれば、適正表示の財務報告の枠組み(会計基準)に準拠して作成された財務諸表が、その作成をもって適正に表示されていることを意味すると誤解される可能性があるのではないかと危惧します。
 なお、本読み解きでは「財務諸表が適正に表示している」(財務諸表の適正性)について検討していません。いつになるかわかりませんが、監基報700「財務諸表に対する意見の形成と監査報告」を読み解く際に検討します。

18.監査人によるコミュニケーション
 監査人は、また、実施した監査に関連する事項について、利用者、経営者、監査役等、または企業外の関係者に対して、コミュニケーションを行い、報告する責任を有することがある。当該責任は、一般に公正妥当と認められる監査の基準または適用される法令等に記載されている(9項)としています。
 監査人の行うコミュニケーションに関する責任は、一般に公正妥当と認められる監査の基準または適用される法令等において規定されているとしています。監査の基準において規定されている監査人のコミュニケーションについては、監基報260「監査役等とのコミュニケーション」や監基報240「財務諸表監査における不正」に規定されています。これらの規定における監査人のコミュニケーションは、経営者や監査役等との協議です。
 法令等において規定されている責任は、専ら監査報告に関する責任であり、主として虚偽の監査報告に関係しています。監査報告は、直接的には財務諸表の利用者に向けた監査人の報告であり、間接的には経営者、監査役等および企業外の関係者(利害関係者)への報告でもあります。
 なお、監査人は、監査の実施に際して通常、企業外の関係者とのコミュニケーションを行うことはありません。そのため、売掛金残高確認や弁護士への照会などによるコミュニケーション、あるいは監査報告書における「監査上の主要な検討事項」の記載が想定されているように思います。なお、例外的に、確認や照会の回答に関して追加の監査証拠を入手するための直接の質問や協議、あるいは利用者の代表として機関投資家との対話を行うことがあります。しかし、このようなことを指しているのかどうか不確かです。
 監査報告におけるコミュニケーションについて、すぐ後で読み解きます。

19.監査人の総括的な目的
 財務諸表監査の実施における監査人の総括的な目的は、次のとおりである(10項)としています。
 (1)不正か誤謬かを問わず、全体としての財務諸表に重要な虚偽表示がないかどうかについて合理的な保証を得ることにより、財務諸表が、すべての重要な点において、適用される財務報告の枠組みに準拠して作成されているかどうか(適正表示の枠組みの場合は、財務諸表がすべての重要な点において適正に表示されているかどうか。)に関して、監査人が意見を表明できるようにすること
 (2)監査人の発見事項に従って、財務諸表について監査意見を表明するとともに、監基報により要求されるコミュニケーションを行うこと。

 上記(1)は、監査人の総括的な目的(overall objectives of auditor)は、監査人が全体としての財務諸表(the financial statements as a whole)に重要な虚偽表示(不正か誤謬にかかわらず)がないかどうかについて合理的な保証を得て、適正表示の枠組みの場合、一般目的の財務諸表が適正に表示されているかどうかに関する監査意見を表明することであり、準拠性の枠組みの場合、特別目的の財務諸表が適用している財務報告の枠組みに準拠して作成されているかどうかに関する監査意見を表明することです。
 すなわち、監査人の目的は監査意見の表明にあるということです。ただし、この監査意見は、不正または誤謬にかかわらず、重要な虚偽表示がないかどうかについての合理的保証を得ていることが必要であることを忘れてはならないと考えます。
 私見では、監査人の目的は、重要な虚偽表示のリスクを的確に識別・評価し、そのリスクに対応する監査手続を実施することにより、十分かつ適切な監査証拠を入手して相当程度の心証を形成し(合理的保証を得て)、それに基づいて監査意見を形成し表明することと解しています。その理想形は、財務諸表に重要な虚偽表示がないことを十分かつ適切な監査証拠によって裏付けて、財務諸表は適正に表示されているとの監査意見を表明することです。
 上記(2)の発見事項についてコミュニケーションを行うことは、監査意見に関する除外事項などの記述および経営者や監査役等と発見事項やその顛末などに関する報告と協議に関連していると解します。監査意見の除外事項は、監基報700シリーズに準拠して作成される監査報告書によるコミュニケーションであり、財務諸表および監査報告書の利用者への報告です。経営者や監査役等への報告や協議は、監基報260などに準拠して、経営者や監査役等とのコミュニケーションに際して実施します。
 コミュニケーションの重要性が強調されているため、監査人の総括的な目的として掲げられているものと思いますが、これは付随的な目的と考えます。
 ところで、「財務諸表のすべての重要な点において」に関連して、監査人が財務諸表は適正に表示されているとの意見を表明することには、財務諸表には全体として重要な虚偽表示がないことの合理的な保証を得たとの自らの判断が含まれている(平成14年改訂監査基準前文三1(4))と記述されているように、すべての重要な点において(in all material respects)は、「全体としての財務諸表」または「財務諸表全体」を意味しています。このことは周知されていないきらいがありますが、ここに強調しておきます。

20.合理的な保証
 合理的な保証は、高い水準の保証である。合理的な保証は、監査人が、監査リスク(すなわち、財務諸表に重要な虚偽表示がある場合に監査人が不適切な意見を表明するリスク)を許容可能な低い水準に抑えるために、十分かつ適切な監査証拠を入手した場合に得られる。…合理的な保証は、絶対的な水準の保証ではない(5項)としています。また、合理的な保証は、絶対的ではないが高い水準の保証をいう(12項(8))と定義しています。
 合理的な保証の概念について留意しておくべきことは、実務上、監査人が必要な保証は、財務諸表全体に重要な虚偽表示がないかどうかについての合理的な保証ではなく、「財務諸表に重要な虚偽表示がない」ことに関する合理的な保証です。しかし、監査人が得る保証は、あるアサーションに関して入手した十分かつ適切な監査証拠に基づいて、当該アサーションに重要な虚偽表示がないかどうかに関する保証であり、財務諸表が適正に表示していることに関する直接的な保証ではありません。このことは監査リスクの読み解きにおいて明確にしていきます。
 また、財務諸表に重要な虚偽表示がないという合理的な保証を得るためには、試査によって実施した監査手続によって識別・発見した虚偽表示が重要でないことだけでは十分ではありません。未発見の虚偽表示(undetected misstatements)の可能性も勘案して、それらとの合計でも重要な虚偽表示ではないと判断できなければなりません。このような判断ができたときが、十分かつ適切な監査証拠を入手できたときであり、監査リスクを許容可能な低い水準に抑えることができたことを意味します。
 ところで、私見では、財務諸表監査の目的は、表明した監査意見によって財務諸表の信頼性を保証するのであって、保証を得ることではないと解しています。確かに、監査人は、内部統制・コントロールを検証して関連するコントロール目標を達成するためにコントロールが有効に整備・運用されていることを確かめ、検証の全体の結果から内部統制が有効であるという保証を得ているといえますが、財務諸表監査の総括的目的は財務諸表が適正に表示しているかどうかについての保証を得ることではないと考えます。そのため、合理的保証を得る(obtain reasonable assurance)という記述には賛成できません。
 私見では、合理的保証を得ることは、十分かつ適切な監査証拠を入手できたことであり、監査実務で日常的に用いられている「心証」が形成できた、監査人が判断できたことです。したがって、アサーションに係る合理的な保証を得たことは、「相当程度の心証を得たこと」(平成14年改訂監査基準前文三1(5))を意味すると解しています。

21.合理的な保証を得るための監査証拠
 5項の省略箇所は、監査の固有の限界があるため、監査人が結論を導き、意見表明の基礎となる監査証拠の大部分は、絶対的というより心証的なものとなる(5項)です。また、関連して、財務諸表に不正または誤謬による重要な虚偽表示がないという絶対的な保証を得ることはできないのは、監査の固有の限界があるためであり、その結果、監査人が結論を導き、意見表明の基礎となる監査証拠の大部分は、絶対的というより心証的なものとなる(A44項参照)としています。
 これらの規定は、監査証拠には絶対的証拠(conclusive evidence)と心証的証拠(persuasive evidence)があると指摘しています。監査人は、絶対的証拠(私見では断定的証拠)と心証的証拠(私見では説得的証拠)を入手することによって相当程度の心証を形成します。
 絶対的証拠は、断定的証拠または確証的証拠(corroborative evidence)とも呼ばれ、資産などの実在性に関する物理的証拠あるいは定理や公理のように立証対象であるアサーションの正否・当否・是非について監査人が反証の余地がなく真実として受け容れるしかない(強制される)監査証拠です。その入手はかなり限定されています。
 これに対して、心証的証拠は、説得的証拠とも呼ばれ、入手した監査証拠が立証対象であるアサーションの正否・当否・是非について強制しないために監査人が推定や推論を行うことによって納得するまたは説得される証拠です。監査において入手する監査証拠の大半がこの証拠です。
 なお、「心証を形成するに至らない監査証拠」(less than persuasive evidence)は、監査人が納得できないまたは説得されない証拠であり、本来は監査証拠ではないため、監査手続を変更または追加して実施して、心証を形成できる監査証拠を入手することが必要となります。
 ところで、絶対的な保証を得られないのは、監査人の入手する監査証拠の大部分が絶対的証拠でなく心証的証拠だからであり、監査手続の実施が試査によっているなどの監査実施上の制約(監査の限界)があるためと解することができます。そうであれば、財務諸表に不正または誤謬にかかわらず重要な虚偽表示がないこと(ゼロであること)を監査手続の実施によって入手した監査証拠が保証できない(立証できない)ことを意味すると解します。このように解することは誤りであることは、監査人の心証形成に関する検討に際して明らかにします。
 また、A44項の「絶対的な保証を得る」ことが「財務諸表の絶対的真実性に係る保証を得る」ことを意味しているのであれば、財務諸表の絶対的真実性を立証できる絶対的監査証拠を監査人が入手することを前提としていると解することができます。しかし、監査人が目的としている財務諸表の適正性に係る監査意見の表明は、財務諸表の絶対的真実性を証明するものではなく、財務諸表の相対的真実性を証明するだけであることに留意が必要です。
 なお、監査人の入手する監査証拠の大半が心証的証拠(説得的証拠)であることは、相当程度の心証を形成する監査証拠であるため、監査の固有な限界には該当しないと解しています。

22.監査リスク
 さきに読み解いた5項は、監査リスクは、財務諸表に重要な虚偽表示がある場合に監査人が不適切な意見を表明するリスクであるとしています。また、監査リスクは、監査人が、財務諸表の重要な虚偽表示を看過して誤った意見を形成する可能性をいう(12項(5))と定義して、重要な虚偽表示リスクと発見リスクの二つから構成される(12項(5)およびA31項)としています。
 なお、この定義は平成14年改訂監査基準における定義(前文三3(2)①)と同一です。また、私見では、「重要な虚偽表示リスク」という用語が「重要なリスク」と誤解されているきらいがあるため、重要な虚偽表示のリスク(risk of material misstatement; RMM)と表記します。
 上記の定義から、監査リスクは誤った監査意見を形成し表明する可能性です。それは監査の失敗の可能性ということです。つまり、監査リスクは財務諸表の全体に関連したリスクです。
 監査リスクが高いことは、監査を失敗する可能性が高いことを意味します。監査の失敗の可能性を小さくするためには、監査リスクを「合理的に低い水準」または「許容可能な低い水準」に抑えて監査リスクの程度(虚偽表示の発生可能性)を相当に小さく設定することです。監査実務において上記の監査リスク式を数値化して利用するとき、通常、監査リスクの程度は5%ないし10%としています。
 監査リスクは、通常、次のモデル式で示されます。
   監査リスク(AR) = 重要な虚偽表の示リスク(RMM)×発見リスク(DR)
 監査リスクの識別・評価について、監査人は、リスク評価に必要な情報を入手するための監査手続と、監査の過程を通じて入手される証拠に基づいて、リスク評価を行う。リスク評価は、正確に測定できるものではなく、職業的専門家としての判断に係る事項である(A31項)としています。
 この短い文章のなかに「リスク評価」という言葉が三回もでてきます。最初の「リスク評価に必要な情報を入手するための監査手続」は、企業および企業環境(内部統制を含む。)を理解するために実施するリスク評価手続です。リスク評価手続を実施して入手した情報・証拠に基づいて、財務諸表に重要な虚偽表示が発生する可能性について識別・評価します。したがって、最初の「リスク評価」に言う「リスク」は、監査リスクではなく、「重要な虚偽表示が発生する可能性」すなわち重要な虚偽表示のリスク(RMM)を意味しています。
 重要な虚偽表示のリスクの識別・評価は、監査計画の策定・立案に際してあるいは監査実施の早い段階で実施されるリスク評価手続の結果のみから行われるものではなく、監査実施のプロセス全体において、つまり、監査実施中いつでも重要な虚偽表示のリスクの識別・評価を継続して行い、監査実施中にそれまで入手していなかった知見・知識や情報を入手した場合には、それまでのリスク評価(重要な虚偽表示のリスクの評価)を改訂することが必要です。それゆえにリスク評価は、監査を実施していくなかで関連するリスクを適切に評価・判断していくことです。このリスク評価の終了は、監査が終了したときです。
 また、監査人は、監査計画の策定・立案に際して、識別・評価した重要な虚偽表示のリスクと監査リスクの程度に基づいて算定された発見リスク(detective risk)の程度を勘案して、実施する実証手続の種類、範囲および時期を決定します。
 二つ目の「監査の過程を通じて入手される証拠に基づいてリスク評価を行う」ことは、監査の実施によって入手した監査証拠に基づいたリスクの評価です。したがって、リスク対応手続の実施後のリスクの評価-運用評価手続による統制リスク(私見ではコントロール・リスク)および実証手続による発見リスクの評価-を意味しています。
 三つ目の「リスク評価」は、識別したリスクに係る評価が監査人の主観的な職業専門家としての判断であり、必ずしも正確に測定されないことを明らかにしています。主観的判断によるリスクは、リスクのモデル式のすべてのリスクが該当します。正確に測定されないことは、確率などの数値によることを一律に求めているものではなく、統計的サンプリングもその前提に主観的判断を要するため厳格な数値的評価でもなく、数値的な測定ができないため監査人の主観的な判断であるということです。つまり、監査人が識別・評価するリスクの程度を算術的に正確に測定できないため、高いとか低いとかの定性的な評価ができるだけです。それもかなり感覚的な判断です。
 それゆえに、リスクの識別・評価は、職業的専門家としての判断に係る事項であるとしているのであり、そのためには監査人のリスク感覚ないしリスクへの感性が重要となります。また、監査人が必ずしもすべてのリスク(RMM)を識別できないことを含意している(監基報330 A41項後段参照)と解します。


 次回は、監査サンプリングへの利用と監査人の事業上のリスク、平成17年改訂監査基準、重要な虚偽表示のリスクの二つのレベルなどについて読み解きます。

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