2019年 監基報220読み解き(その5 最終回)

 今回は、不正による重要な虚偽表示の疑義がある場合の審査、審査を実施しない監査業務、監査上の判断の相違の解消、審査の完了、品質管理システムの監視、不正リスクに関連する情報の検討、監査調書、審査に係る監査調書、監査事務所間の引継ぎ、および共同監査を読み解きます。今回で監基報220の読み解きは終了です。

28.不正による重要な虚偽表示の疑義がある場合の審査
 不正による重要な虚偽表示の疑義があると判断された場合、審査において検討され評価される事項には、例えば、以下の事項が含まれる(FA25-2項)としています。
 ・修正後の監査の基本的な方針と詳細な監査計画の内容
 ・監査上の判断、特に重要性及び重要な虚偽表示の発生可能性に関して行った判断
 ・リスク対応手続の種類、時期及び範囲
 ・入手した監査証拠が十分かつ適切かどうか。
 ・専門的な見解の問合せの要否及びその結論
 ・不正による重要な虚偽表示の疑義に関する監査調書には、実施した手続とその結論が適切に記載されているかどうか。
 FA25-2項は、不正リスク対応基準第二 16「監査人は、不正による財務諸表の重要な虚偽の表示の疑義があると判断した場合には、当該疑義に監査人の対応について、監査事務所の方針と手続に従って、適切な審査の担当者による審査が終了するまでは意見の表明をしてはならない」への対応として、不正による重要な虚偽表示の疑義があると判断された場合には適切な審査担当者が審査において検討・評価する事項を列挙していると解します。
 最初の事項は、監査人は、不正による重要な虚偽表示の疑義があると判断した場合には、通常、それへの対応として監査計画を修正します。審査担当者は、その修正された監査計画の内容に不足はないか、追加実施する監査手続が適切に立案されているかなどを確かめることです。
 二番目の事項は、監査人が不正による重要な虚偽表示の疑義があると判断したことによる影響の検討として、監査上の重要性、他の重要な虚偽表示のリスクの識別・評価などを変更する必要がないかどうかを検討することです。
 三番目と四番目は、不正による重要な虚偽表示の疑義に対して実施するリスク対応手続およびその時期と範囲を検討して、その実施した監査手続によって、十分かつ適切な監査証拠を入手できているかどうかを検討することです。
 五番目の事項は、不正による重要な虚偽表示の疑義に関して、専門家の見解を問い合わせる必要があるかどうか、問い合わせた結果について検討することです。この場合の問合せ(相談・協議)に審査担当者も同席することが多いかと思います。
 最後の六番目の事項は、監査人は、不正による重要な虚偽表示の疑義に関連する監査調書、および上述の対応に関連する監査調書をレビューすることです。

29.審査を実施しない監査業務
 さきに、原則として、すべての監査が審査を受けなければならないと述べましたが、その例外として、監査責任者は、審査を実施しない監査業務に関して、監査意見が適切に形成されていることを確認できる他の方法が、監査事務所の定める方針および手続に従って適切に行われていることを確かめなければならない(20-4項)としています。
 この規定は、2013年改訂監査基準を受けて品基報34-2項に新設された、「監査事務所は、幼稚園のみを設置している都道府県知事所轄学校法人の私立学校振興助成法に基づく監査、又は任意監査(公認会計士法第2条第1項業務のうち、法令で求められている業務を除く監査)のうち、監査報告の対象となる財務諸表の社会的影響が小さく、かつ、監査報告の利用者が限定されている監査業務については審査を要しないとすることができる」ことにともなった規定です。したがって、審査を実施しない監査業務は、幼稚園の監査および任意監査のうち財務諸表の社会的影響が少なく監査報告書の利用者が限定されている監査です。
 審査を実施しない監査業務について、監査人は、品質管理システムに規定されている監査意見が適切に形成されていること確認できる方法を適切に行ったことを確かめることを求めています。この監査意見が適切に形成されていること確認できる方法には、「監査責任者が意見表明前に実施し、文書化した自己点検が含まれる」(A26-2項)としています。
 しかし、私見では、幼稚園の監査や小規模会社の任意監査であっても、審査項目を簡素化または柔軟にし(A26項参照)、審査担当者をマネジャーにまで拡大して審査を実施すべきと考えます。

30.監査上の判断の相違の解消
 監査チーム内、監査チームと専門的な見解の問合せの助言者との間、または、該当する場合、監査責任者と審査担当者との間で、監査上の判断の相違が生じた場合、監査チームは、監査事務所の方針及び手続に従って監査上の判断の相違に対処し、これを解決しなければならない(21項)としています。
 監査チーム・メンバー間の監査上の判断の相違、監査人と専門的な見解の問合せ先である助言者との間の監査上の判断(見解)の相違、または監査人と審査担当者との間の監査上の判断の相違がある場合には、品質管理システムにしたがって相違を解消することを求めています。
 監査チーム・メンバー間の監査上の判断の相違に関しては、通常、当事者間の協議あるいはマネジャーや監査人および必要に応じて他のメンバーが参加した協議よって解消します。この解消方法については品質管理システムに規定されていないことが通常です。
 監査人と専門的な見解の問合せ先である助言者との間の監査上の見解の相違は、品質管理システムにしたがって、助言部門の責任者の参加した協議、または重要度に応じて品質管理責任者の主催する会議体での協議によって解消することが通常です。
 監査人と審査担当者との間の監査上の判断の相違については、品質管理システムにしたがって、品質管理責任者または審査部門責任者の主催する会議体での協議によって解消することが通常です。
 また、監査報告書は、監査上の判断の相違が解決しない限り、発行してはならない(21項)としています。これは18項(3)の規定と同一のことです。

31.審査の完了
 審査の完了は、審査担当者が本報告書の第19項および第20項の要求事項を完了していること、さらに該当する場合には第21項を遵守していることを意味する。審査の文書化は、監査ファイルの最終的な整理の一環として、監査報告書日後に完了することもできる(A22項)としています。
 審査担当者が、監査チーム(監査人および監査チームメンバー)の行った重要な判断や監査意見の評価(19項参照)、独立性に関する評価等の検討(20項参照)および監査上の判断の相違の解消(21項参照)を行ったときに、審査は完了するということです。
 その審査に関する監査調書の作成は、監査調書の編集等の整理事務として監査報告書日以後でも容認されることを明らかにしています。

32.品質管理システムの監視
 有効な品質管理のシステムは、品質管理のシステムに関連する監査事務所の方針及び手続が、適切かつ十分であり、有効に運用されているということを合理的に確保するために設計された品質管理のシステムの監視に関するプロセスを含む(22項)とし、監査責任者は、監査事務所または他のネットワーク・ファームから伝達された品質管理のシステムの監視の結果に関する最新の情報、及び当該情報で指摘された不備が担当する監査業務に影響を与えているかどうかを考慮しなければならない(22項)としています。
 「監視」(monitoring)の用語は、品質管理基準が用いている用語そのまま品基報と監基報220も用いています。私見では、監視という厳格な用語ではなく、もっと柔らかさを醸し出す「モニタリング」を用いています。
 前段の記述は、品基報1号47項が定めることを求めている品質管理システムの監視に関するプロセス(A27項参照)についての留意規定です。後段の記述が要求事項です。それは、品質管理システムの監視に関する最新情報またはモニタリングによって発見された不備事項が実施する監査に影響を及ぼしているかどうかを検討しなければならない、ということです。
 留意すべきことは、品質管理システムのモニタリングに関する最新情報が監査人の所属する監査事務所から知らされた場合のみでないことです。監査事務所による品質管理システムのモニタリングの結果に関する最新情報または不備は、監査事務所による自己点検としての検査であり、この検査が品質管理システムの監視(モニタリング)ということです。
 また、ネットワーク・ファームから知らされた情報は、ネットワーク・ファームである監査事務所に対するネットワークによる品質管理システムの検査の実施結果として知らされた監査事務所の品質管理システムの欠陥または不備に関する情報と解します。
 監査人は、監査事務所の品質管理システムの欠陥または不備による監査人の関与先の監査業務への影響を検討することが求められています。しかし、監査事務所の品質管理システムに不備または欠陥があるということは、すべての監査の品質が何らかの程度で確保できていないことを意味しています。そのため、監査人は、個々の監査に及ぼす影響があるかどうかは判断できますが、このような影響の及ぼす度合等を明確にすることは通常できません。
 そのためでしょうか、品質管理のシステムにおける不備が担当している監査業務に影響を与えているかどうかを検討する場合、監査責任者は、監査事務所がその状況を改善するために講じた是正措置を考慮することがある(A28項)としています。
 この規定から、監査人の担当する個々の監査に及ぼす影響の検討は監査事務所(品質管理部門)が是正措置を策定した後で良いこと、および品質管理システムの不備または欠陥による影響の評価および是正措措置の策定は監査事務所(品質管理責任者)であることを明らかにしていると解します。したがって、監査チームは、監査事務所の品質管理システムに準拠して個々の監査を実施しなければなりませんが、品質管理システムの不備または欠陥を改善している(是正措置を講じている)途中のときには改善前の品質管理システムを適用し、その改善後の適用日から改善後の品質管理システムに準拠することになります。
 ところで、監査事務所またはネットワークによる品質管理システムの検査は、サンプルとして個別監査業務を抽出して検査します。そのサンプル監査業務において品質管理システムに準拠していないという結果が知らされたときには、監査人は、当該サンプルの関与先だけでなく、自己の担当するすべての監査について、品質管理システムに準拠していないことがあるかどうかを調査して、不備事項の改善策について品質管理責任者と協議のうえ策定することが必要です。
 さらに、監査事務所が定めた品質管理のシステムに不備が存在した場合であっても、個々の監査業務が職業的専門家としての基準及び適用される法令等を遵守して実施されなかったこと、または監査意見の形成が適切ではなかったことを必ずしも示すものではない(A29項)としています。しかし、監査チームは、監査事務所の品質管理システムに準拠して監査を実施しなければなりませんが、品質管理システムの不備または欠陥が著しく重要な場合には、監査事務所が監査の品質を確保できないため、すべての監査業務を解約すべきという問題にまで繋がる可能性を否定できません。
 なお、これらの規定では、監査人および監査チームが監査事務所の品質管理システムをモニタリングすることは求められていないことに留意ください。

33.不正リスクに関連する情報の検討
 品質管理システムのモニタリングに関連して、監査責任者は、監査チームが監査の実施において、不正リスクに関連して監査事務所内外から監査事務所に寄せられた情報をどのように検討したかについて、監査事務所の方針および手続に従って監査事務所の適切な部署又は者に書面で報告しなければならない(F22-2項)としています。
 この規定は、不正リスク対応基準第三 5「監査事務所は、監査事務所内外からもたらされる情報に対処するための方針及び手続において、不正リスクに関連して監査事務所に寄せられた情報を受け付け、関連する監査チームに適時に伝達し、監査チームが監査の実施において当該情報をどのように検討したかについて、監査チーム外の監査事務所の適切な部署又は者に報告することを求めなければならない」に対応しています。
 不正リスク対応基準が規定している品質管理システムは、監査事務所内にヘルプラインまたはホットライン(内部通報制度)の仕組みを設けて、監査事務所内外から関与先の不正に関する情報を受け付けるようにすることです。そのような情報があった場合、F22-2項に規定されているように、監査人は当該情報を検討し、必要に応じて監査上の対応を実施して、その結果を品質管理システムにしたがって品質管理部門または責任者に報告します。
 監査事務所内に設けられるヘルプラインまたはホットラインの仕組みは、不正に関連する情報に限らず、関与先または監査チームにおける問題等に関する情報を受け付けることが必要と考えます。そして、その情報源の秘匿が厳守されなければなりません、そのため、当該情報の受付を監査事務所ではなく弁護士事務所とすることも多く採用されています。

34.監査調書
 監査チームは、以下の事項を監査調書に記載しなければならない(23項)としています。
 (1)職業倫理に関する規定の遵守に関して識別された問題及びその問題の解決方法
 (2)監査業務に適用される独立性の遵守に関する結論及びそれらの結論を裏付ける監査事務所の適切な者との討議
 (3)監査契約の新規の締結及び更新に関して到達した結論
 (4)監査の期間中に行われた専門的な見解の問合せの内容及び範囲並びに得られた見解
 これまで読み解いてきた項目に関して監査調書の作成を求めています。そのため、それぞれの項目の読み解きは不要と思います。
 しかし、23項(4)に関連して、専門的な見解の問合せを監査調書に十分かつ詳細に記載することによって、以下の事項を理解することができる(A30項)としていますが、十分理解できません。
 ・専門的な見解の問合せを行った事項の内容
 ・専門的な見解の問合せの結果、当該事項に関して行った判断とその根拠、得られた結論及びその対処
 専門的な見解の問合せの内容、結果およびそれに至る判断と根拠、ならびに問合せを行った事項に対する対処とその結果について作成した、十分かつ詳細な監査調書を理解するのは、監査人ではないことは明らかですから、次項に規定されている審査担当者ということになります。
 したがって、監査人は、専門的な見解の問合せ(相談協議)を行った場合、審査担当者が理解できるように、十分かつ詳細な監査調書の作成が求められているということです。
 なお、23項は監基報230「監査調書」7項から10項を参照しているとしていますが、これらの規定は監査調書作成の一般論を規定しているものであって、品質管理に関連したものではありません。

35.審査に係る監査調書
 審査担当者は、審査を実施した監査業務に関して、以下の事項を文書化しなければならない(24項)としています。
 (1)審査に係る監査事務所の方針で求められる手続が実施されたこと。
 (2)監査報告書日以前に審査が完了したこと。
 (3)審査担当者が、監査チームが行った重要な判断とその結論が適切でないと判断した事項がなかったこと。
 これらの事項の文書化は、審査担当者が監査調書として作成するものではなく、審査表または審査チェック・リストにチェックまたはサインすることです。
 なお、(3)に関して、審査担当者は監査チームの重要な判断とその結論が適切でないとすることは、審査が終了していないことになるため、できません。したがって審査担当者は、監査人と納得できるまで徹底的に協議することが必要です。

36.監査事務所間の引継ぎ
 監査人の交代に際して前任の監査事務所の監査責任者は、監査事務所が定める後任の監査事務所への引継に関する方針および手続に準拠して、監査業務の十分な引継を行わなければならない(25項)とし、また、後任の監査事務所の監査責任者は、監査事務所が定める前任の監査事務所からの引継に関する方針及び手続に準拠しなければならない(25項)としています。
 この25項は、品質管理基準第十1および2の規定を受けて設けられた、我が国に特有の規定です。要するに、監査人は、監査人(監査事務所)の交代の場合、前任監査人であっても後任監査人であっても、監査事務所が策定した品質管理システムにしたがって、十分な引継ぎを行わなければならない、ということです。
 十分な引継ぎの内容は監基報900に規定されています。それゆえに、監査人の交代は、監査基準委員会報告書900「監査人の交代」に従うことになる(A31項)としています。しかし、品質管理システムが監基報900の規定内容を取り込んで策定されているため、監査人は、品質管理システムに従えば監基報900に従ったことになると解します。
 ところで、A31項は続けて、監査責任者は、監査人の交代に関する監査業務の引継において専門職員を使用する場合には、監査チームが必要な能力、適性および独立性を保持するとともに、十分な時間を確保できることを確かめることに留意する(A31項)としています。
 監査人の交代に際しての前任監査人と後任監査人の引継ぎに監査スタッフを使用する場合の留意規定ですが、監督に関連した14項(1)の二番目の項目と同一です。引継ぎに監査スタッフを使用する場合には、監査業務の実施の場合と同様の監督を実施しなければならないということなのでしょう。
 このように解しても、引継ぎ業務は監査業務ではないため、引継ぎ業務においても監査スタッフの監督が必要なことを強調しているのでしょうが、監査人が監査スタッフを使用するときは常に監督・指導する責任を有しているため、この規定を置く必要性を理解できません。
 さらに、監査責任者は、監査事務所の定める監査事務所間の引継に関する方針および手続に従って、監査チームが実施した引継の状況について監査事務所の適切な部署または者に報告されていることを確かめなければならない(25-2項)としています。
 この規定は、2013年に設定されたリスク対応基準第三9の「監査事務所は、監査事務所間の引継ぎに関する方針及び手続において、監査チームが実施した引継ぎの状況について監査チーム外の適切な部署又は者に報告することを定めなければならない」との規定を受けて、2013年の改正に際して追加規定されています。
 しかし25-2項の文章を理解できません。引継ぎの状況を品質管理責任者に報告する主体は監査人です。しかし、監査人がその報告が行われていることを確認するということが理解できません。単に「監査責任者は、……報告しなければならない」とすることで足りると解します。

37.共同監査
 監査責任者は、他の監査事務所と共同して監査業務を行う場合には、監査事務所が定める共同監査に関する方針及び手続に準拠しなければならない(26項)としています。
26項は、25項と同じく、品質管理基準第十一の規定を受けて設けられた、我が国に特有の規定です。
 監査人は、共同監査によって監査を実施する場合には、監査事務所の品質管理システムにしたがって共同監査を実施しなければならないということです。
 この規定に関連して、監査責任者は、他の監査事務所が共同監査に関する品質管理の方針および手続を実施しているかどうかについて、監査契約の新規の締結および更新の際、ならびに必要に応じて監査業務の実施の過程において他の監査事務所の監査責任者に確かめることに留意する(A32項)としています。
 監査人は、共同監査を実施する場合、他の監査事務所(共同監査事務所)の監査人(共同監査人)に対して、共同監査事務所の共同監査に係る品質管理システムにしたがっているかどうかについて、監査契約の締結のとき、監査業務の実施途中でも共同監査人に確かめることを求めています。

以上

 しばらく夏休みをとり、九月頃から体調をみて「監基報」の読み解きを再開したいと思います。
 皆様のご意見、コメント、反論をお待ちしています。

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